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第十二話 傷

 その質問が投げかけられたのは、食事が終わった直後だった。



「リコ、少し聞きたいことがあるんだが……リコは、ゼラフ・ドーマック殿のことをどう、思っている?」



 その問いは、私にとっては随分と難しい質問だ。

 いつものようにしゃがんで目線を合わせてくれるお父様だが、今は、その視線を合わせることも難しい。



「……」



 どう答えるべき、なんだろう?



 端的に言えば『嫌い』だ。ただ、政略結婚という形であるからには、きっと、そんなことを言うことはできない。しかし、だからといって、『好き』なんていう嘘を吐いて、あのお茶会の頻度が高くなるのも嫌だった。



「リコ、難しく考える必要はないのよ? 正直に、自分の想いを教えてほしいの」



 お母様からの催促に、私は必死に考えて、考えて……。



「……これから、なかよくできたら、いい、かな、と」



 好きでも嫌いでもなく、そんな言い方をして、懸命に明言を回避する。



「……それは、今の段階では、好きでも嫌いでもない、という解釈で良いか?」



 元々強面ではあるものの、一段と怖い表情で尋ねてきたお父様に、私はどうにかうなずく。



 もしかして、好きって言わなかったから、怒ってる……?



 うなずいた後に気づいたが、もう撤回することはできない。



「そうか……」


「それなら、まだ良かった、のかしら?」



 どうしようかと内心オロオロしていると、頭上からそんな言葉が降ってくる。



「……?」


「すまないが、ドーマック家とは、しばらく距離を置くことにした。ただ、理由もなくそうすることはできなくてな、今回の狼に襲われて、リコは傷を負った、ということになってしまったんだ」



 『距離を置く』、『狼』、『傷』……。そのどれもが思ってもみなかった内容で、すぐには頭が理解してくれない。



「……おとーさま、きょりをおく、おとーさまたち、だいじょーぶ?」


「っ、あぁ、私達は問題ない。むしろ、リコに傷があるという嘘の方が問題だ」



 お父様達に問題がないのであれば、距離を置くのは願ったりだ。

 ただ、お父様達が問題視しているのは、私が狼に襲われて傷を負ったという嘘の方なのだと、どこか泣きそうな表情で言われてしまう。



「……本当は、こんな手段を取りたくはなかった。と、いうのは言い訳だな。私達は、どんな理由があったとしても、リコを傷物として広めることになってしまったのだから……」


「ごめんなさい、リコ。きっと、この先、リコにこの噂はずっと付き纏うことになるわ。でも、いつまでだって、わたくし達はリコのために側に居るから……」



 お父様とお母様が何をそんなに辛そうにしているのかが分からない。

 前世では、それこそたくさんの傷を体に負っていた。だから、今さら傷を負った、程度の噂が増えたところで何とも思わない。


 どこか悲しそうな表情の両親を前に、私はずっと、何も言えなかった。

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