第十話 真夜中の会談(三人称視点)
さてさて、今回は珍しく三人称視点(今後もたまーにある予定)。
もうちょっと後にこの話を入れるかどうか迷いましたが……やっぱり、ここに入れようということで入れております。
それでは、どうぞ!
「リコは眠ったか?」
「はい、旦那様」
「リコ……本当に無事で良かったわ……」
そこは、リコが寝静まった後の夫婦の部屋。言うまでもなく、そこに居るのはリコの両親とジーナの三人だ。
「では、旦那様。私は、お嬢様の側に」
「あぁ、すまないが、そうしてくれ」
「失礼いたします」
報告のために訪れていたジーナは、リコの側へと戻る。
ロンドとルミアの二人が残されたその空間で、ロンドは、その豹の耳を力なく垂れる。
「私は、リコの側に居たというのに、リコを危険に晒してしまった」
「ロンド様、それを言うなら、わたくしも三人が危険に晒されているというのに、一人、お茶会に出ていた自分が恥ずかしくてなりませんっ」
「っ、ルミアが自分を責めることはない! 私が、リコを不用意にあんなところに連れていったせいなんだっ」
「いいえっ、わたくしも、一緒についていけば良かったのです! そうすれば、もしかしたらその魔物を撃退できたかもしれないのですよっ!?」
二人ともちゃんと理解はしていた。これは、誰のせいでもない、避けられない出来事だったのだと。それでも、悔やむ気持ちは抑えられないというのが本当のところだった。
「……ドーマック家には、リコは重傷を負ったということで伝えるとしよう」
「……やはり、ドーマック家が?」
「あぁ、証拠はないが、何もかも、仕込んであったのだろうな」
ドーマック家。ドーマック公爵家といえば、リコの婚約者の家だ。しかし、あの狩り場の一角を借りることができたのは、元々ドーマック家がその権利を持っていたのを、リコが狩りの練習をするという話をどこからか聞いて、ロンドが借りようとするタイミングで譲った、ということが判明している。
「狩り場だけでなく、お茶会も、だろうしな」
ルミアが呼ばれたお茶会は、ドーマック家主催のお茶会だ。ご丁寧に、リコが狩り場に行くその日に行われたお茶会は、やたらとルミアを引き留めるようなものだったらしく、帰宅直後に知らされたリコ達の危機に、ルミアは叫んで暴れた。
あまりにも、タイミングが良過ぎるそれは、ドーマック家がリコを害そうとしたということを示しているものの、それでも、証拠らしい証拠はない。
「大方、リコの黒豹としての力を確認したかった、ということだろうが、やり方が汚過ぎるっ」
黒豹の獣人であるリコは、高い戦闘能力を期待されていたのだろう。そして、リコはそれを正しく証明してしまった。
本来ならば、これでリコは、婚約者であるゼラフから逃げられなくなる。しかし……。
「大丈夫ですわ。公爵家とはいえ、落ち目のあの家では、監視のレベルも低いものです。全て、わたくしの手の者が始末をしております」
妖しく目を輝かせるルミア。ドーマック公爵家が落ち目であるということは、社交界で有名なこと。そして、このバルトラン伯爵家は、近々爵位が侯爵になるだろうと言われている。つまりは、ドーマック家の婚約の打診を断れなかったのは、ひとえに相手の爵位が公爵というものだったからというのみで、バルトラン伯爵家には何の旨味もないものだった。
「では、リコについては、顔に酷い傷を負って寝込んでいる、という情報を流すとしよう」
少なくとも、そうすれば公爵家は婚約を破棄してくるだろう。それが、ロンドの打算だった。
翌日から、リコには、顔に傷を負った傷物令嬢としての噂がつくことになる。そして、その日から、リコに公爵家からのお茶会のお誘いは届かなくなった。




