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[81話]

「さぁ座りたまえ」


大広間に案内されたポルナス達は長机の前で着席を促される。

主人は部屋の奥の上座へと腰を据え、その両端を先ほどの使用人とまた別の使用人が挟み込むように立っている。

こういった場所でどこに座るべきかというマナーをポルナスは知らない。

だから適当に出口から近い椅子へと彼らは腰掛けた。


「まずは自己紹介から始めようか。私の名はドリームァ・ホルスターレイン。間違ってもレイとは呼ばないでくれ。どちらかわからなくなるからな」


そういって微笑する。


「友人からはホルスターと呼ばれることが多い。そう呼んでくれ。そして彼はベイン・バッカー、この屋敷のメイド長だ」


ホルスターは右隣にいた使用人へ手を向けて説明する。

女装させられているあの使用人だ。


「他の使用人達は…また縁があるときに聞くといい。それで君達の名は?」


「私はポルナスと申すもので、こちらの方はラグドールと言っ…」


「そんな堅苦しく喋らなくて構わない。君の自然体を見せてくれ」


「…俺はポルナスでこっちがラグドール、俺はいつもラグって呼んでる」


「そっちのほうがいい。君たちは私の友人の友人だ。遠慮するな。というかなぜそんな遠くに座る。もっとこちら側に来てくれ。声が届かないじゃないか」


ホルスターは微笑みながらこちらを手招きする。

それに引き寄せられるように2人は座る位置を移動した。


「さて、そろそろ本題に入るとしよう。君はレイから聞きここに来たと言っていたな…そうなった経緯を事細かに教えてもらおうか」


ホルスターの顔には先ほどの笑みが張り付いたままだ。

だがどこかピリピリとした雰囲気を感じ、理解する。

疑われていると。

気づけば出口にも使用人が立っており、出させないようにしているようだった。


それに気づいた俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

今思えばおかしな仮面をつけた男が信用されるわけがない。

だが心配する必要はない。

俺達は本当にレイに教えられてここに来たんだから。

出会ったところから一言一句逃さず伝えればいいだけだ。

そう思い口を開いた。


「…そうですね。まず最初に出会ったのは…」


そこまで言ってポルナスの口は止まった。

彼は忘れていたのだ。

自分が意味不明な存在であるということを。


まずい…

このまま馬鹿正直にいって信じてもらえるとは思えない。

俺は本当は石なんです!なんて言ってみろ。

次のターンにはもう死体になっている。

事実を事実のまま話せないのがこんなにもどかしいものだったとは。


ポルナスは頭の中で悲鳴をあげる。


ならば虚を混ぜて話さなければ。

都合よく、信じやすく、使いやすい虚を混ぜて。

それでいて不必要な事実を削ぎ落とし、ツギハギの真実を作り出せ。

ポルナスは数秒の間を開けた後に声を発した。


「…先に言います。俺の能力は変形です」


きっとこの嘘が最善。


「体の形から中身の臓器まで自由自在に変形させることができます」


「…そうか。それを今証明することはできるか?」


「今まさに動いているこの仮面がその証拠です。これは自分の顔がわからなくなった俺がとった苦肉の策なのです」


「その仮面が歴史的遺物(アーティファクト)神器(じんぎ)だという可能性もある。自分の体でも変形を使ってみてほしい」


「わかりました…これでどうでしょうか」


ポルナスは腕を伸ばしたかと思うとウネウネと変形していき、大きな球体やぐにゃぐにゃと弛んだ縄跳びのような形など様々なものを見せてみせる。


「…すまないな疑ってしまって」


「いえ…そしてもう一つのスキル、強奪というものも所持しています」


「…ほぅ」


ホルスターの目が細くなり、その様子を見てポルナスの心臓がドクンと跳ねた。

しかしこのスキルのことを言わなければ流石に話の整合性が取れなくなる。

側から見れば能力を奪い取ったのだと言う印象を覚えられるかもしれないが、だとしてもボロが出るよりはましだ。


「このスキルは他の生物のスキルを奪うことができます」


「…私のスキルであってもか?」


「それはできません」


「どうしてだ?」


「スキルを奪うには能力の概要とその名前、最低でもこの二つは必要だからです」


「…なるほど」


ホルスターは口に手を当て悩ましい表情を浮かべる。


「…まぁいい。話したまえ、レイに出会ってここに来るまでの経緯を」


「…まず最初にーー」


ポルナスは嘘の物語を頭の中で想像していく。

頭を強く打ち付け記憶喪失になった自分を洞窟でレイが看病してくれたとこから話は始まった。

意思疎通や液体生成をもらったことも話し、最終的にレイを置いていき助けると誓ったところまで話して物語は終わった。

自分が箱だということと最初のなれそめを除けば全て真実だ。

これを聞いてホルスターはどう動くのか。


ポルナスはホルスターへと視線を向けると、真剣な表情で今の話を脳で反芻していた。

そして口を開いた。


「…どうも信じがたい話だ」


「…そうですか」


ホルスターは難色を示した。

どうしても嘘で取り繕った話。

あらや違和感が出てしまう。

言語化できなくても何かを感じ取るのは容易なはずだ。


「それで、君は何か言いたそうにしているが


「…」


唐突にポルナスは椅子から立ち上がると地面へと膝、そして頭をつけた。

いわゆる土下座だ。


「どうか!レイを助けるために力を貸してほしい!お願いします!!」


ポルナスは張り裂けるような大声を出しながら頭を地面へと擦り付けた。


ホルスターはただただポルナスを見つめている。

数秒の静寂があった後、その空間をホルスターが破った。

だがその一言は冷たく、そして


「それは無理だ」


否定の一言だった。

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