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[8話]新世界

コツコツと甲高い音を響かせながら眩い光へと近づいていく。

光が強くなるほどに心が高鳴り期待と恐怖が入り混じった気持ちになる。

洞窟へ出る一歩と同時にーーー


世界が閃光で包まれた。


「まぶしっ!!」


反射で目を隠したが全身探知のポルナスに意味はなく、光は容赦なく視覚を痛めつける。

徐々に目が慣れていき輪郭しか見えてなかった世界がはっきりとし始める。

次の瞬間、目に飛び込んできたのは異世界だと納得せざるをえないほどに雄大で野生的な絶景だった。


「ぬおぅ」


樹齢何百年とあろう大樹が所狭しと生えており、上からこぼれる木漏れ日がその美しさをいっそう際立たせる。

みたことの無い生き物がそこら中に存在し木と木の間を飛び回っている。

形式的にはジャングルに近いがそう呼ぶにはあまりにも清涼で神秘的だった。


「ポルナスッ!!」


俺の世界が現実に戻されたのは、金切り声にも似たレイの大声と引っ張られる腕の痛みによるものだった。

引っ張られると同時にレイが何かに向かって一直線に走り始めた。

一瞬で脳が覚醒、とはいかなかったが非常事態であることは理解し走り出したレイについていく。


「どうした!?」


「来て!」


そう言うと同時にレイのスピードが加速しかなりの距離を開けられる。

見失わぬよう必死に追いかけ数十秒、レイはピタリと止まりある一本の木のふもとへと駆け寄る。

数秒遅れて追いつくと、そこにいた人物を見て思わず息を呑んだ。


小学生ほどだと思われる少女がそこに倒れ込んでており、その髪は透き通るように白く、そしてその頭につく震えるように動く獣耳が特徴的だった。


顔だけを見たならばまるで絵画の世界から出てきたように思えるがその全てが霞んで見えてしまう「なにか」をみて思わず口をおさえた。


最初に目にはいったのは血の気が弾くような、悲惨なほどまでに傷ついた脚だった。

擦れたような軽い傷だけでなく、肉がえぐられたような深い傷もありただただ血生臭い印象を覚えた。


レイはリュックから箱を出すとぬらぬらと光る透明な液体を手から分泌し取り出した包帯を手慣れた様子で巻き付けていく。

その少女は処置が終わった後も動く気配はなく、ぐったりと横たわり続けている。


「よく気づいたな。こんな離れてるのに」


「血の匂いがしたんだ。私は鼻が優れているからね」


アピールするかのように鼻をトントンと叩きドヤ顔を浮かべるレイ。


「それもスキルってやつのおかげか?」


「いや、これは努力と才能を掛け算した結果だ。五感を鍛えた結果、異質な匂いや奇妙な音なら数十メートル離れててもわかるようになったってわけ」


「警察犬かよ」


「まぁ否定はできないな」


「…まじかよ」


犬と同レベルの感覚まで鍛えるって聞いたことないぞ。

これが異世界の普通なのか?

…考えてもどうせ分かんねぇか。


頭の中で区切りをつけ少女へと注目を向ける。


「で、どうするんだその子」


「おっと、忘れていた」


レイは少女の首元に指を当て脈拍をはかり少し顔を渋める。


「私のリュックの中に透明な液体が入った瓶があるからそれを渡してくれ」


スカスカになったリュックに手を突っ込むと目当てのものは一瞬にして見つかった。

牛乳瓶に似た形状のものにコルクの栓とこれまた異世界らしい形のものがでてくる。

なかには経口補水液のような少し濁っている水が入っており爛々と輝いていた。


「これどうすればいい」


「とりあえず隣に置いておいて」


横たわる少女を真剣な眼差しで見つめているレイの隣にそっと小瓶を置いた。

数分の間睨めっこを続けたと思ったら、一瞬で腰にかけた剣に手をかけ少女へと突きつけた。


「待て待て待て待て!」


二人の間に体をねじこみ渾身の思いでブロックする。


「なんでそうなった!?」


「時間が少ない、のけ」


振り払おうとする手を流動化で衝撃を抑え、行き場を失った剣を抑えるため手を掴む。


「なぜ邪魔をする!?」


「じゃあなんで剣構えてんだよ!?そんなにこの世界は弱肉強食なのか!?」


「後で話は聞いてやる!今はどけ、ポルナス!」


先程より強い力で薙ぎ払われ地面に強打する。

剣先が少女の腕へと当てられーー


ーースッと離れた。


レイは小瓶を乱暴にこじ開けその液体を胃へと流し込み親指の腹をさっきの小さな切り傷へ押し当てる。

するとみるみるうちに少女の血色が良くなっていった。


「…どういうこと?」


コートに着いた土を払い除けながら立ち上がった。


「この子は血を流しすぎていた。このままだと出血多量で危険だったから緊急で輸血したってことだけど」


危害を加える気は無かったのか。

一安心しホッと胸を撫で下ろす。


「というかなんで邪魔したの?」


「…てっきりもう助からないと判断して食べようとしてたんだと思ってました」


ピクリと動いたかと思うと、全身からドス黒いオーラのものを放ちゆらりと立ち上がった。


「私を山姥か何かだと思ってるのか」


「あの、すいません、違います、ほんと」


邪気のようなものに気圧されバレないように後退りを始めた。

それに気づいのか、レイはジリジリと近寄りはじめ一歩一歩と詰められる。


「その、食糧難とおっしゃっていたので異世界ならカニバリズムるのもふつう7日なと思い…」


レイに注意を取られていたせいか足元の窪みに気づかず、つまずき近くの木へともたれこんだ。

次の瞬間、顔のすぐ隣を腕が横切ったと思うと弾けるような轟音が鳴り響いた。

ゆっくりと振り向くとくっきりとした拳の跡が残っており慌てて目を逸らす。


「ポルナスくん」


「ヒッ!」


ポンと肩を叩きニコニコと微笑んでいるレイだが隠しきれてない怒気に萎縮し自然と肩に力がこもる。


「犬だったり、山のババアだったり、君は少々女の子に対するデリカシーがないんじゃないか?ん?」


「は、はい…」


「特にババアだなんて1番言っちゃあいけないからね。…次言ったらどうなるか分かるよね?」


「い、以後善処いたします!!」


くるりと方向転換し離れていくレイ。

俺の足は数秒の間まともに動いてはくれなかった。

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