[72話]武器適応
「私たちを叩き潰すだァァァ?あんたの目は節穴かネ。これを見てそんな大口を叩ける根性だけは立派だネェェェ!」
広い廊下の中、フェイトを囲むようにして配置される多くの敵。
「君たちがしょうっもないお喋りをしている間に随分と集まってしまったヨ」
ヒャッヒャッヒャッと高笑いするヒゲの男は指につけた新たな武器をカチャカチャと鳴らしていた。
フェイトが注意深くそれを見ていることに気づいたのか、ヒゲの男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら上機嫌で話し始めた。
「…ん?これが気になるのかァ?これは私の本当の獲物サッ!さっきまでの大刀はただのオモチャ!さっきまでの私と今の私を一緒にしない方がいいヨォ?」
ヒゲの男はそれぞれの指に細い長身の刀を一本ずつつけている。
ゆらゆらと指を揺らしながら舌なめずりする様子はまるで変態。
そんなヒゲの男に不快感を覚えながらもフェイトはゆっくりとした動作で地面に落ちているチェンソーを拾い上げた。
「ボクの武器は何だと思う?」
「まさか!そのチェンソーではないと言うのですネッ!いやはや、同じことを考えているとはッ」
「残念はずれ」
フェイトは片手でバツを作って見せた。
「ボクの武器はこのチェンソーさ。でもまだ僕と[これ]は繋がっていない」
「まさかッ!」
ヒゲの男の表情が一瞬にして変わる。
愉悦から驚愕へと。
兵を動かす号令をかける間も無く、フェイトはチェンソーを掲げ唱えた。
「神器適応」
すると、チェンソーがまばゆい光を放ち始めた。
ぐにゃりぐにゃりと変形していき、その変形は数秒で終わった。
チェンソーが細く長く伸び、その後ろに長い棒がついている。
いわば、槍の先端の部分がチェンソーに変わった武器になったのだ。
「…あなたのその神器、「破壊と創世の二枚刃は見たことがあるんですヨォ。ですがそんなちゃちな変形をする代物じゃなかった気がするんですがねぇ」
ヒゲの男は顎をポリポリと掻きながら疑問視する。
「ボクは創世の部分しか使わないから。君が見た人は破壊の方を使ってたんじゃないの?」
「そうですか。でしたら…!」
「あれほどの脅威はない。だから勝てる。なんて思わないでね?」
「…ッ!」
ヒゲの男は自分の心を見透かされていることに驚いたのか言葉が詰まった。
何かに恐れたからなのか、ヒゲの男は一歩二歩と確実に後ろに下がっていた。
そんな様子を尻目にフェイトは武器を構える。
横方向の一閃をするために。
だがその攻撃をするには距離が離れすぎている。
かするどころの話ではない。
確実にからぶってしまう距離だ。
皆が意図を読めなかった。
ヒゲの男だけが得体の知れない恐怖にまけ後ろへ飛び跳ねた。
だからあの男以外皆死んでしまう一撃となった。
フェイトが構えていたチェン槍は振り下ろされると同時に刀身を伸ばし、敵との間合いを全て埋めた。
そのチェン槍はあまりの出来事に反応できないものも、咄嗟に判断して防ぐものも、皆平等に真っ二つにした。
血飛沫が舞い、血の水溜まりが一つになっていくなか2人が睨み合う。
「君の名前はなんだったかな?」
「言うわけないでしょうガ!本名を知られたらこれからやりずらいったらありゃしませんヨ。…ですが、[クロ]とでも名乗っておきましょうかネ」
「クロか、いい名前だね。ボクの名前は…」
「いいですヨ。別に聞きたくありませんカラ」
クロはため息をつきながら答える。
彼は悟ったのだ、あの一撃が彼女の小手調べであることを。
だから今から行われることは勝負ではなく、圧倒的な暴力。
自分の装備すらも今ではオモチャに見えてしまっている。
…だが、諦めて死ぬ気はない。
「じゃあやろっか。2人きりの殺し合いを」