[62話]待合室
「あぁぁあ…」
「そんなに怖いか?」
病院にたどり着けたはいいものの、ラグが受話器ってぐらい震え続けている。
「父が言ってました…病院は臓物を抉り取る場所…!」
「お?」
「それを無抵抗で受け入れないといけない…!」
「…」
ポルナスは思った。
お父様、ネタバラシしてないでしょこれ。
可愛い冗談だったのかもしれんがえぐい傷になってるぞ。
「…あー、ラグ。そう言う酷いことをされるのは悪いことをした人だけだ。たまたま父さんも悪事をしたとこを見られたんだろうな」
嘘は嘘で重ねるに限る。
すまんなお父様、生贄になれ。
「父がそんなこと…!」
ラグが切羽詰まった表情でこちらを向くが、
「…父なら…してそうです…!」
苦虫を潰したような顔でそう答えた。
「え?お父様そんなことするの?」
「父は…浮気もしてました」
心底辛そうな顔を浮かべるラグ。
精神的ダメージがとてもやばそうである。
「ボコボコに殴られて…反省してましたね」
「…へぇー、お母様強いんだな」
「いえ、私がボコボコにしました」
お前なんかよ!!
大声が出そうになったがここは病院。
PTOはわきまえて大声で突っ込まない。
ぐっと言葉を押し殺す。
「そ、そうか。ちなみにどのくらいボコボコにしたんだ?」
「…大体17本ぐらいです」
何の本数なんだよ!
骨か!?骨なのか!?
知りたいけど知ったら戻れなくなる気がする!!
「ほ、ほーん。それは災難だったな」
「その後母が追い討ちかけてました」
死んじゃうって!!
浮気してんのが悪いけどよ!!
閻魔様もびっくりの猛攻だろ!!
会ったことあるけど普通にピンピンしてたよね!?
どうなってんだ!?
「…ま、まぁとにかくそういった悪いことをしたら臓器摘出されるってことだよ」
何も喋ってないはずなのに妙に疲れた。
それと同時にひと段落ついたと安堵の息を漏らす。
「でしたら私は…」
「うん」
「臓器を…摘出される…」
「うん?」
先程吐いた安堵の息を吸い戻す。
なせ罪の意識がある?
「えっ…なんかやったの?」
またもや震え始めるラグにそう聞いた。
「未遂でしたが、今思えばあれは犯罪だったと理解したのです」
「…詳しく教えて」
少しばかり真剣な空気が漂う。
事によっちゃあ怒らないといけない。
「…私は睡眠薬を飲ませようと試みていました…それもポルナスさんに」
「…あっ俺!?」
心当たりがなく驚いてしまった。
「えっ、いつ?なんで?」
「あれは王都で向かう時の事、旅館でポルナスさんが寝ていないことを知りました。そのため私は睡眠をとって欲しいと睡眠薬を手にとり、あわよくば入れさせてくれませんかと頼むつもりでした」
「そこは許可取るんだ」
「ですがそんなタイミングが来ることはなく、そのまま今の今まで来てしまったのです。そしていま薬を渡していいのは医者だけだということを思い出し、自首したわけなのです」
「そうだな、薬は人にやっちゃあ毒にもなるし確かめずに渡したら…」
…なんで睡眠薬持ってるんだ?
自分用のやつでもあるのか?
だったら使ってるとこ見てもおかしくないけど、見た覚えないな。
「…睡眠薬どうやって手に入れたんだ」
「母が使いなさいって」
「なるほどお母様が渡してくれたのかぁ…ちなみにラグはそういうの使うのか?」
「いえ、一度も」
なんで渡したんですかお母様?
あと使えってなんですか使えって。
普通、飲んでねとかじゃないんですか?
「大丈夫、ラグは悪いことしてないよ。強いて言うならお母様の方が犯罪者かもしれない」