[61話]約束
「おっはーラグ。病院行こっか」
「…」
起きたばかりのラグが目をしぱしぱとさせる。
数秒の沈黙の後、よくないことだと気づいたのかもう一度布団にくるまった。
「なんでもう一回寝るんだよ。朝だぞ?」
「このような時間帯に病院は空いていませんよ。早朝ですから」
ラグは布団にくるまったままズリズリと移動してポルナスから距離をとる。
「病院はそんなに怖くないだろ?」
「??」
「そんなに困惑すること?」
目を見開き「何を言ってるんだコイツは」とでも言いたそうな表情を受かべられる。
「病院は…私に唯一恐怖を覚えさせたモノ…私は病院に勝てません…」
「普通戦う対象じゃないからな?」
何を思い出しているのかわからないがガタガタと小刻みに震えている。
「いやです…病院はいやです…怖いです…」
「むぅ…」
ベットの端っこで怯える姿を見ると可哀想に思ってしまう。
でも傷を治療しないと悪化してしまうかもしれない。
どうにか前向きに考えてくれないだろうか…
「…もし病院にいって治療を受けてくれたら、ラグの願いをなんでも叶えてやる。これでどうだ?」
レイのおかげでお金には余裕があるし、大体のことなら叶えてあげられると思う。
…人にもらった金で人に奢るっていうのはなんか心苦しさを感じるな。
俺もちゃんと働かないと…
「なんでも…ですよね」
「ん?あぁそうだ。なんでも…とは言ったが俺の叶えられる範囲だとありがたいな」
できれば俺の力で叶えさせてやりたいもんな。
「何回ですか?いつまでですか?」
「まぁ回数は一回かな。いつって言われても…別にいつでもいいけど」
「そうですか」
それを聞くと長考し始めて、意外にも本気で考えているようだった。
子供の頃のなんでもいいよは本当に嬉しかったからな、本気になっても無理はない。
「では…」
「おう」
何が来てもいいと腹をくくる。
「保留でお願いします」
「ほ、保留!…おぉ保留か、なんでだ?」
別に驚くべき内容でもないのに驚いてしまった。
「まだ願い事が決まってないのです」
「…叶えてもらってないから病院に行かないなんて言わないよな?」
「言いません。病院に行きます。だからこの約束を覚えておいてください」
「おっけー覚えとく」
後で忘れるだろうから手の甲に書いとくか。
…よし!
「じゃあ行くか!」
「まだ病院は空いていません」
「あっ、そうか」
「先に降りていてください。私も準備して向かいます」
「了解」
扉を出ていくポルナスの背に向けて、ラグは自分の薬指を重ねた。
「約束…覚えていてください」