[39話]旅館
「おぉー!」
建物の中に入るとどこか懐かしさを覚える空間が広がっていた。
温泉旅館のような、木の温かみがそこら中から感じられる空間だ。
「この世界にも和風建築ってあるんだな」
「君以外にも転生者はいたからね。色んな文化がこっちに受け継がれてきてるよ」
質素だが存在感を放つ内装に目を奪われながらカウンターへと進んでいく。
「いらっしゃいませ」
「いつもの場所でお願い」
レイは財布からカードを取り出しながらそう言う。
店員がそれを受け取り、見慣れない物体へと通す。
その物体は淡い光を出したあと、ピーと甲高い音が鳴った。
「ありがとうございます。ごゆっくりとごくつろぎくださいませ」
「ありがとね」
持っていた荷物をラグのも含め全て渡し、代わりに鍵を受け取るレイ。
「旅館で「いつもの」って言えるのすごいな」
「ここによく来るからね。さっきの店員さんも顔見知りだし、従業員の顔はだいたい覚えてるよ」
「店員にあだ名つけられてそうだな。『ブーメラン』とか『太客』とか」
「そんな名前で呼ばれてたら私二度とこない」
談笑しながら歩いているともう大浴場の前についていた。
「ラグちゃんは君と入れないだろうし貰っていくね」
「そうだな。こっちには連れてけないし」
俺の隣にいたラグがレイの隣へと移動する。
「ポルナスさん…死なないでください」
「なんでだよ、死ぬわけないだろ」
「念のためです」
…どこまで貧弱だと思われてるのか。
「…そうか、じゃあ俺はそこらへんで待ってるから」
そう言って180度回転し来た道を戻って行く。
「待って」
レイに腕を掴まれた。
「なんで入らないの?」
「服脱いだら…バレるだろ」
俺の体は不可解な物質で出来ている。
見えてる部分は頑張って人に見えるよう努力してるが、今は服の下は色すら変えてない。
隠そうとしても、ちょっと凝視されただけでおかしいと気づかれるだろう。
「だから入らない。というか入れない」
「そっか…ちょっとまってて」
何かを思いついた様子のレイがどこかに走り去っていき、数分後戻ってきた。
「何してきたんだ?」
「ん?ジャーン」
そう言って新しい鍵を見せてきた。
「これがどうした?」
「これはね、貸し切り風呂の鍵」
「貸し切り?」
「そ、周りに人がいなかったら君も入れるでしょ」
「いいのか?高いんじゃないのかそういうの」
「別にいいよ。私稼いでるし」
「まじか…ありがとう」
「いいよいいよ。…じゃあ一緒に入ろっか」
「…え?」