[33話]強襲
慣れない山道を歩き、時に休み、歩き続けること約2日。
「やっと出られた…」
ようやく森を抜けることができた。
「いい景色!いい開放感!んー、生きてるって感じするよねー!」
腕を上に伸ばし深呼吸するレイ。
「これはすげぇ景色だな」
地平線まで続いていく野原に思わず見惚れてしまう。
「ラグは森を出たの初めてか?」
「はい…そうですね。これは…素晴らしい光景です」
絶句していたラグドールは瞬きすることもなく、見続けている。
今まで森以外を見たことがないラグドールにとって、これは息を呑むほどの絶景なのだろう。
「…一旦ここで休むか」
「…そうだね」
生い茂る草木の上に腰を落とす3人。
することもなく黄昏ていると。
ドゴォォォォン
「「!?」」
と轟音があたり一面に響いた。
「なに!?」
周囲を見回すとすこし離れた森から不自然な土煙が舞い上がり、次々と木々が倒れていく。
森から何かが現れそれを追いかけるように後ろから巨大な生物も現れる。
こちらに徐々に近づき、ぼんやりとしか見えなかった姿がはっきりと見え始める。
「た、助けて下さーい!!」
「!?」
銀色のウルフカットヘアーが特徴的な女性が現れ、その後ろで馬鹿でかい蜘蛛が追いかけてきていた。
蜘蛛は見たもの全てに嫌悪感を与えるほどの気持ち悪さをしており、複数の目玉をギョロギョロとさせ、その姿に一層気持ち悪さが加速する。
「おい、化け物出てきたぞ!?どうする!?」
そう言って振り向くともうレイはいなかった。
「しゃがめ!!」
いつのまにか走り出していたレイは、もう彼女の目の前へ移動していた。
彼女が声に従い頭を下げると同時に、レイはその体を飛び越え猛烈な一閃を振るう。
肉の裂ける音と硬いものが砕ける音が鳴り、血飛沫と共にその巨体が真っ二つに割れた。
「…えげつねえな」
一部始終が瞬きする暇もなく、あまりの速さに驚くことしかできない。
判断から、その行動さえ、全てに無駄がなかった。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
レイに手を差し出され、彼女は足を振るわせながらも立ち上がろうとする。
その後ろで不自然に何かが動いた。
それは真っ二つになった蜘蛛が最後の力を振り絞って反撃しようとする動きだった。
それに気づいた瞬間、ポルナスはラグドールを置いて走り出していた。
2人はまだ気づいていない。
あいにくここから彼女までの距離は近い。
叫んで気づいてもらうか?
気が抜けた今、すぐに判断するのは無理だ!
だから!
「クソが!」
尋常じゃないスピードで2人の元へ駆け寄り、そして突き飛ばす。
…痛いのは嫌なんだが。
次の瞬間、ポルナスの体を2本の爪が貫通していた。
「ポルナス君!」
腹部と胸を貫かれ体の一部が弾け飛ばされた。
あまりの痛みに意識が飛びそうになる。
「ぬぅ…」
だが歯を食いしばりなんとか意識を保持する。
幸いクソデカ蜘蛛は突き刺した以降動く様子はない。
ゆっくりと突き刺さったものを外し、地面へと倒れ込んだ。
「ごめん!気づかなかった!」
「マスター!マスター!」
「えっ…あっ…」
倒れ込んだ隣で心配してくれるレイとラグドール。
その後ろで狼狽える彼女。
「い、医者…医者を呼ばないと!」
「それは大丈夫だ」
「でもお腹に穴が!!」
「いや大丈夫だ。ほら血は出ていない」
「そんなわけな…、えっ…?」
パニックになった彼女にまっくろな穴が2個空いたお腹を見せる。
「そういう体質だから大丈夫だ」
「そ…うなんですか…。なるほど?」
理解はできてなさそうだが納得はしてくれたようだ。