[32話]村出
「では私たちはもう行きますので、短い間でしたがありがとございます」
「こちらこそありがとうございます。いつでも歓迎します…と言いたいところなのですが外からのものにバレた以上場所を移さなければなりませぬ。また会えるかどうか…」
「…縁があればまたいつか」
「…そうですな」
レイは村長と固い握手を交わしハグをした。
別のところではラグドールとその家族が最後になるであろう会話をしていた。
「…こういうときは何か言うべきなのだけど、ラグがすごい子だからなにも心配事がないのよね」
「…私は完璧な子だからしょうがない」
「言いたかったことは昨日で全部話したし…まぁ強いていうのなら、絶対幸せになりなさいよ」
そう言ってラグドールをぎゅっと抱きしめた。
「…お母さんとお父さんのこと3日に1回は思い出してね」
「…毎日思い出しちゃうよ」
抱き合う中ボロボロと涙がこぼれ始める2人。
今生の別れとは何と美しく悲壮なものなのだろう。
数十秒に及ぶハグの後、惜しむように離れた。
「ポルナスさん」
「…ハイ…これは花粉症のせいなので気にしないでくださいね」
涙を拭い服の袖を濡らしてしまった。
「しつこいかもしれませんが、娘のことをどうかよろしくお願いします」
「…お任せください。命に変えてでもお守りします」
「私が守る側なのでそれは難しいのではないでしょうか」
「…危険に突っ込まないよう精進します」
「フフッ、ええ、お願いしますね」
最後にお母さんと握手をかわした。
「じゃあもう本当に行きますんで」
「お気をつけて」
村の門から外へと出る。
後ろから無数の感謝の声が聞こえ、村が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。
「こっからどこ行くんだ?」
「んー、一度『グランドサット』に戻りたいかな」
「『グランドサット』?」
「この国随一の大都市であり、首都でもある町の名前です」
「ラグドールは物知りなんだな」
「いえ、このことは子供でも知り得る一般常識だと思いますが」
「…」
「君が無知なことは置いといて、そこに私の家があるから一旦戻りたいんだよね。そのあとこれからについて考えればいいんじゃないかな」