[31話]酷い疑い
「忘れ物ない?」
「二階は何もないぞ」
「一階も大丈夫です」
「おっけー!じゃあ行こっか!」
確認が済み家の外に出る。
そして外につながる門へと歩き始めた。
「ラグ、そのリュック俺に持たせてくれないか?」
「私はあなたの剣なのです。主人に物を持たせるなど従者にとってあるまじき行為、ゆえに渡すことができません」
「むぅ…」
仮面上に困り顔を浮かばせ、どうすべきかと悩むポルナス。
家を出る前、持つぞ」と上から言ってしまい同じように失敗してしまった。
だから今回は卑屈に頼んでみたが…
「なぜそんなに持ちたがるのですか?重いだけですよ」
「世間体が気になるんだよ。女子2人は荷物持ってんのに俺だけ持ってないとか…なんかとても良くない!」
「今日そんなことを気にする人はいません。もし何か言われましたら私がヤります」
「過剰すぎるだろ。殺人鬼と同じ思考回路組み込まれてんのか?」
ラグドールの表情が一ミリも動かず、内心冷や汗ダラダラになるポルナス。
表情が硬いだけかもしれないが、流石にそういうことを淡々と言われると怖い。
「あんな自制できない化け物と一緒にしないでください」
「そりゃあ悪かっ…自制?」
殺人鬼と聞いて、自制しない奴だって考えるか?
殺人鬼は普通の人と違って、殺すことによって満たされているのだ。
普通は殺害欲求を持っているヤバイやつって認識すると思うが、なぜだ?
この時、ポルナスの脳内コンピュータ(IQ4億)が回転し結論を叩き出した。
こいつ殺害欲求持ってやがる!!
い、いや今まで森の中で暮らしてたんだ。
生きるためには殺すしかない、そういうのを幼い頃から理解してただけだろ。
だからその矛先が俺たちに向くことはない…
まてよ?なぜラグドールは俺達についてくるんだ?
今思えば「あなたの剣になりたい」なんていう理由わけがわからない。
ということは俺達が狙いか!!
そう思えば妙にねちっこい視線を宴会でよく感じた。
執着するような、焦がれるようなそんな視線が。
そうか、だから何度もそう覚えたのか。
隣で歩くラグドールの目をチラリとみた。
「…?」
やっぱり…!
狩人の目をしてやがる!
こいつは今すぐにでも俺達を殺す気か?
いや、それは違う。
もしそれなら寝ている時に殺れるはずだ。
しなかったということは、即ちラグドールは強者と戦うことでしか満たされないタイプということ。
レイとやらない理由は分からないが、俺が熟したら確実にやられる。
幸いラグドールはレイに強者の烙印を押されるほどの猛者。
そこに到達するのは何年とかかるだろう。
だがラグドールが強くなるまで待ってくれるか?
痺れを切らして殺しにくるかもしれない。
なら先手を取るべきか?
都合よく足も怪我してるようだし…
足を怪我してる…?
あっ
「ラグドール、足を怪我してるんだから安静にするべきだ。よって俺が荷物を持つ」
「身体中を滅多刺しにされた人はもっと安静にするべきですが」
「むぅ…」
またも言いくるめられ黙ってしまう。
怪我自体はないようなものなのだが、それを言ったところで納得はしないだろう。
「ちょっとまってポルナス。さっきの回文章何?」
「…何とは?」
心臓が早鐘を打ち始める。
まさか口に出してたか?
いや、声を出すにはわざわざ意志の乗せた音を鳴らさなければいけない。
よって無意識にそれをすることはあり得ない。
「さっきの全部テレパシーで漏れてる」
「えっ!?」
「正直どうやって着地するのか気になってたのに」
「…っ」
仮面が赤く染まり体温が急上昇していく。
「何の話ですか?」
「よかったねラグちゃんには漏れてなくて、聞いてたら絶対悲しんでたよ」
「いや、ほんとはい、その通りです」
不幸中の幸いなことに、ラグドールに伝わらなかった。
もし伝わっていたら、これからゴミのように扱われてもおかしくはなかっただろう。
本当に勝手な推測というのは良くない。
「信用してあげてよ、この子健気なんだから」
「はい…猛省します」
「??」