「第3話」プライド
「んー」
ポルナスは自分の顔に見立てたたまご型の自分をペチペチと叩いた。
輪郭を意識し叩いていくがいつの間にか形が崩れていてその修整、それをまた叩き、と繰り返す。
修整がさらなる修整を呼び込み手に負えない状態となると潰し、そしてまた始めから。
ベストの形が出来ると、それを潰し同じ形になるように作り始める。
ベストの形をすぐに作り出せるよう彼は作り続ける。
「よし」
汗のでない額を拭い、一段落ついたと息を吐く。
目も口もない輪郭だけの生首を掲げ感慨深く見つめる。
彼が自分を作り始めてから半日が過ぎていた。
「次はーー」
彼がマネキンに手を加えようとすると同時に何かが聞こえ始める。
ズル…ズル…と何かを引きずっているかのような音。
「…?」
危機を感じた彼は生まれたままの姿、キューブ型にもどり壁の近くへと陣取る。
音がなる方向に目を凝らし何が現れるかを伺う。
段々と音が大きくなり、暗闇から…レイが現れた。
「なんだよレイか」
ほっ、と胸を撫で下ろし人型に戻りる。
ポルナスは近づこうと足を進めるがその足がピタリと止まった。
なぜならレイの後ろにバカでかいナニカがいるからだ。
フサフサとした茶色い体毛に全身は包まれ、手には岩であろうが破壊できそうな鋭い爪、そして何であろうと噛みちぎれよう牙。
熊と呼ぶのが正しいのだろう。
だが熊と呼ぶには…いささか大きすぎるサイズだった。
熊は直立すれば家さえも超えるであろう大きさであり、レイと比べると3倍は容易にある。
死んでいるのかレイにだらしなくズルズルとひきずられており、おまけに瞼も塞がっている。
こちらに気づいたレイが熊をその場におろしこちらに近づいてきた。
ポルナスも安全だと思いレイへと近づいていく。
「おかえ…」
後ろにいる熊の目がギョロリと開いた。
「…え?」
次の瞬間、熊は大きな雄叫びをあげた。
鳴り響く轟音は大気どころか洞窟までもを震わせパラパラと砂埃が降ってくる。
俺は一目散に逃げ出した。
「…なるほど私が食われたら次は俺だと思って無言で逃げ出した、と」
「…はい、…申し訳ございません」
ポルナスは正座でレイと向き合う。
客観的にみると黒い人型の物体に話しかけているなんとも痛々しい人物に見えるのだが今はそんなことをかんがえてはいけない。
反省すべき時間だ。
「いや、それは正しい判断だが…なんというか…君にプライドはないのか?」
「…」
鋭い言葉がグサリとささる。
「別に事故などは起きなかったし、これ以上言いたくもないが…アレ以上のことは出来なかったのか?」
「…」
鋭利な言葉がグサグサとささり精神に多大なるダメージを受ける。
実際、熊は雄叫びをあげこちらに襲いかかってくると思われたが、なぜか一歩も動かなかった。
言い換えればただ吠えただけである。
それにポルナスは過度にビビリ、一目散に逃げていったのだ。
「本当に申し訳なく思っており…」
頭を地面につけ土下座へと体制を変える。
その直前に顎を掴まれ顔を上へと向けさせられる。
「…この世界のことを知らないなら驚いて当然、もし君と同じ立場だとしたら私も同じようなことをするだろう。そして私も連れてきたものとして非がある。…だから容易に土下座などするな」
妙に怒気がこもった声でなだめられる。
「なんと大きな器…!姉御と呼ばさせてください!」
「やめろ」