[第21話]
いつのまにか真っ暗な海の底に落ちていた。
溺れているようで溺れていない。
呼吸ができているようで出来ていない。
そんな不思議な空間。
妙な浮遊感と脱力感が全身を包み込み、思考も上手くまとまらない。
この光景と感覚に俺は覚えがあった。
最初に…戻った?
この世界に訪れたときと全て同じ。
もっと言うとスキルを使っていない時と一緒だった。
頭が徐々に働き始めもやがかっていた意識が覚醒する。
すると失われていた五感が元に戻り、光溢れる世界を写し始めた。
「…ループものではないと」
「あ、起きた」
目が覚めると体がリズム良く上下に揺れていることに気づいた。
そして歩いていないのに移り行く景色。
そこから導き出される結論はおんぶされているということ。
だがそれにしては目線が少し低いような。
そう思い、視線を下へと向けると。
「…降ります」
「ダメです。怪我してますよね」
「してません」
「あっ」
おぶられていたが強引に離れ自分の足で歩き始める。
「ありがとう。あとは自分で歩けるから」
そう言って俺をおぶってくれていた少女、ラグドールへと頭を下げる。
こんな小さい子を酷使させたと思うと胸が痛くなるし、物理的にもまだ結構痛い。
あと膝も擦れてちょっとだけ痛かった。
「もう大丈夫なのか?」
「ボチボチってとこ。それより」
レイの肩を掴みラグドールに聞こえないよう耳打ちする。
「ラグドールは足怪我してんだぞ!こんなこと言える立場じゃないって分かってるけど、引きずってでもお前に運んで欲しかった」
首を横に振り違うと講義するレイ。
「最初私が引きずって運んでたんだ。それを見たラグちゃんがプンプン怒って自分で運び始めちゃって、渡してくれなくなったんだよ」
「…そうか。ちなみにどんな感じに引きずって運んだ?」
「足だけ持って他はズザーっと」
「…そっすか」
雑でもいいとは言ったがその運び方は酷すぎるだろという言葉を喉の奥へと押し込んだ。
もしかしたらこの世界ではそれがセオリーかも知れないが。
「で、俺たちは今どこに向かってるんだ?」
「ラグちゃんがいた村だけど」
「だったら他の人達はどこいったんだ?姿が見えないけど」
キョロキョロと辺りを見渡してもあるのは草木ばかり。
近くには俺たちを除いて人っ子一人いない。
嫌な静かさがあたりに広がりどうも不安にさせられる。
そんなながらレイへと目を向けると神妙な面持ちで顔を伏せていた。
「あの人達はもう…」
「…そうなのか」
それを見ればどれだけ察しが悪くても理解できる。
「前後に一応2人ずついて、それ以外は先に戻ったよ」
「なんで妙な言い方する。さっと言えよ」