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[第18話]

尋常じゃないほどの焦りが脳を加速させ胸が早鐘を打つ。


「…子供が木登りしててつい目で追っちまったんだよな」


「そうですか」


ナタはそう言い終わる前に走り出す。

もちろんラグドールがいる方向へと。


「ヤバイ!」


出遅れながらもナタの背中を追い始める。

人質取られたら手を出せなくなる。

あいつより先に辿り着かないと!


「当たれ!」


三本の投げナイフを生み出し無防備な背中に向かって遠投する。


「なぜ喋るのですか」


ナタは足を止めることなくくるりと振り向き後ろ向きのまま走り続ける。

飛んでくるナイフの一本をヒョイ避け、一本をノミで弾き、一本を掴み投げ返す。

返されたナイフが深々と脳天に刺さり鋭い痛みが訪れた。


「いっだぁぁぁ!」


足は止めずに刺さった部位を押し込み体へと馴染ませる。

流動化が上手く出来なかった!

焦りと痛みが思考を鈍らせ正常な判断が取れなくなっていく。


「当たる…やはり任意で体を砂状に出来るんですね。たどり着けば関係ありませんけど」


するとナタはいきなりスルスルと木を登り、枝を飛びラグドールへと近づいていく。

まずい!

スピード自体は遅いものとなったが高所のせいで攻撃が届かなくなった。

これじゃあどうしてもラグドールの近くで鉢合わせ戦う羽目になる。


考える時間もなくラグドールのいる木のふもとへとたどり着く。

ナタは木を上ったせいで大幅に時間ロスをしたから、距離自体には大分余裕がある。

だが登ると走るでは同じ時間でも動ける量は月とスッポン。

ギリ間に合うかどうかと言ったところか。


指を鋭利に尖らせ木へ突き刺しよじ登り始める。

目測15メートル、この速度じゃ厳しいか!?


腕を必死に使い、死に物狂いで動かし木から無数の音と破片がこぼれ落ちる。

だがそれでもやや早くつけるかぐらいのスピード。

もし庇えたとしてもラグドールを守りながら戦うなんて不可能だ。

頼みの綱のレイからも連絡がこない。


そう考えているうちもラグドールとの距離はともに縮まっていく。

どう動くこともままならずただ自分の無力さを噛み締めさせられる。


クソッ!

こうなったらラグドールを連れて逃げるか戦うしかない。

成功率はほぼ0%だ。

レイが来るまで持ち堪えれば恐らく勝てる。


ラグドールが下からも見え始めすぐに木の頂上へと着いた。

後ろを見ると思っていたより距離があり、数秒ばかりの余裕があった。


「逃げるぞラグドール!!」


目を開きパシパシと瞬きをするラグドール。

目を瞑らせたのが仇となり状況を理解できていない。


担いで逃げようと手を伸ばす。

だが次の瞬間ナタが大きく跳躍し一気に距離が詰められる。

ノミを突き刺せるように持ち換え振りかぶり、冷酷な視線で俺たちを見つめていた。


狙いはラグドール!だから!

手足を大の字に広げ、レイとナタの間を遮断する。

一度防ぎ、そこからーー


胸の中心をつらぬく鋼の一撃が骨の砕け割れるような激痛を与える。


「ウグッ!」


「ポル…ナスさん?」


グリグリと押し込まれ鈍い痛みと共にノミの先が胸から飛び出す。


「えっ」


それを見たラグドールは未だ状況を理解できていない、だがポルナスさんが私を庇ったということを理解した。


「そうですよね」


刺していたノミを引き抜き、またもや突き刺す。

またも痛みが訪れる。


「アガッ!」


「自分が砂になったら、人守れませんよね」


痛みが何も考えさせてはくれない。

だがこいつはここから離すべきだと直感で判断しナタの服を強引に掴み、一緒に落下する。


そんなことをするもノミを抜かれて、刺され。


「ウッ!」


「だから私はあなたが確実に固形化するよう誘い込んだのです」


よくよく考えればおかしな点はいくらかあった。

だがそんなことを考えられる余裕はない。


張り裂けるほどの痛みが脳を支配していた。


ノミを抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺して抜いて刺してーー


土煙が舞った。


胸に無数の穴を開け動かなくなっていた。

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