[第16話]開戦
「…なんで殺せたんだよ。お前の部下だろ?」
立つこともできず地べたに背をつけたままそう尋ねる。
多分この質問には罪悪感を少しでも減らしたいという意図しかなく我ながらクズだと笑ってしまった。
だがそんなクズよりさらにクズなやつが次の瞬間見つかった。
「…なんで私の部下なら殺せないと思ったんですか?」
言ってる意味がわからないと言わんばかりに首を傾げられる。
俺は驚きのあまり声が出てこなかった。
「私の人生と彼の人生にはさほど接点がないように思いますが…」
「お前…人は殺したら死ぬってこと知らないのか!?」
「それぐらい知ってますよ。人は殺したら死ぬ。楽でいいですよね」
「は、はぁ!?」
倫理観バグりすぎてもはやモンスター。
殺すことに躊躇いどころか、楽なんて言い出している。
さすがにこれがこの世界の普通なわけがない。
こいつは異常者だ。
「ほとんどの人は死んでも私の暮らしにたいして影響ありませんから」
「そいつらにもそいつらの人生があるんだぞ!?それを奪っていいと思ってるのかよ!?」
激昂し発言に噛み付く。
どんな人間であろうと人生は重いものとして扱うべきだ。
スナック感覚で殺っていいものではない。
数秒間視線がぶつかると、淡々と物静かな口調で話し始める。
「…そうですね。では私が彼の人生を尊重し、人質の彼を攻撃することができず任務失敗しクビ。もしくは私が死んでしまったというのならば」
声に力がこもり少し震えを感じられた。
「私の家族にどう生きろと言うのですか」
男は覚悟を伴った瞳でポルナスを睨みつける。
光は伴っていない。だが守るものは見据えられていた。
「私には2人の子供と愛する妻がいます。この厳しい世界、私が死んで仕舞えば私の家族も簡単にのたれ死んでしまうのです。だから私は生き続けなければなりません。奪い続けないといけません。愛するものを死なせないために」
この世界は常に天秤がかけられていて、どちらかを捨てることを強要される。
結果、彼は家族を選びその他を捨てた。
「家族愛か。だからと言って許されるわけでもないが」
「許されるだなんて思ってませんよ。常に業を背負い共に生き続けるつもりです」
男は家族の人生を背負って、俺はここにいる亜人の人生をいま背負っている。
戦うということはここだけで終わる話ではない。
その後ろにもある人生すら左右するのだ。
「そうか…だけどここで俺は、お前と戦わせてもらう」
むくりと起き上がると、男は数歩後ろへと下がった。
眼を丸くさせながらもノミを握りしめ、戦いの準備を始める。
「まだ動けるとは。タフなのか不死身なのか」
時間稼ぎしてもレイはまだ来ない。
だが盤面は整った。
「戦う前に名前だけ教えてくれ」
痛みへの恐怖がないと言えば嘘になる。
だが今から始まるのは覚悟を含む戦い。
「…ナタ・グレーシヘンデル。あなたは?」
負ければ命を失い、勝てば命を繋ぐこととなる。
痛みなんていうそんな甘っちょろいものは捨ててやる。
「ポルナスだ」
激痛に揉まれながら戦い抜く覚悟を決めた。
地面から象の足ほどの太さのある棒を生み出され、しなるように男を殴りつけた。
男は予想外の一撃を避けることはできずモロにくらい吹き飛ばされる。
先手はとった。
最終ラウンドが始まる。
二文字とかでいいんで感想書いてもらえると嬉しいです。