[第15話]冷酷
「奇妙な仮面に奇怪な姿。訳ありだと思ったのですが…」
失望するかのような表情を浮かべながら男はノミを振りかぶる。
距離は空いてる、リーチも短く、当たるわけがない。
そう判断し、相手の次の一手にどう動くべきか考え始めた。
そんなことを考える暇はもうなかったと言うのに。
「邪魔するなら死んでもらいます」
眼を見開き豪快に振り下ろす一撃は一見空振ったかと思えた。
「まじ…かよ」
だが次の瞬間俺の体には肩から股下にかけての悲惨な傷跡が生み出されていた。
そこで理解する。
「飛ぶ斬撃か!!」
「なんで生きてるんですか!?」
ばっくりと割れてなお死なない俺を見て男は驚愕の声を上げる。
嫌な気配を感じて振り下ろす直前に流動化する自分を我ながら褒めてやりたい。
あれがなければ致命傷、いや致命痛につながっていた。
「分…かりませんが殺し続ければいつか死にますよね」
またもや振りかぶり次は無数の斬撃を放ってくる。
風切り音が響き、中に舞う木の葉が突風に耐えきれず散り散りになっていく。
「ヤバイッ!」
瞬時に体を地面の中へと逃げ込ませ難を逃れる。
代わりに後ろの大木が攻撃を受け、無惨な姿へ変えられていく。
「本当にあなたなんなんですか」
男は苛立ちを隠せない様子で周りを警戒し始める。
足元から出現させ、またもや顎を狙っての一撃を繰り出すが、
「通んねぇか」
容易に片手で受け止められる。
「流石に掴んでたら避けられませんよね」
「グフッ!」
腕を掴まれたまま鳩尾を蹴り上げられ響くような激痛が腹部を襲う。
そのまま流れるように横蹴りが繰り出され、蹴られた勢いのまま木へとぶつかり地面へと横たわった。
背中のぶつけた場所が響くように痛み、肺が潰されたかのような感覚を覚える。
「っ!」
蹴られた部分を押さえよろけながらも立ちあがろうとするが、下半身が潰れておりうまくバランスがとれない。
流動化出来なかったせいか蹴られた痛みも酷いものだった。
骨折した時の痛みでは比較できないほどに。
「結構本気で蹴ったのですが、まだ動けるとは」
驚きで眼を丸くさせながらもトドメを刺すためかゆっくりと近づいてくる。
立て直すために一旦ちゃんと体を作らないといけない。
だがさっき地面に潜り込んだせいで足の作りがメチャクチャになっている。
これをす治すために時間が必要で。
ふと横を見ると都合よく先程拘束した1人が地面へと寝っ転がっていた。
そいつと目が合いーー
「この人質が目に入らぬか!!」
「やめろ!!殺すぞ!!」
ジタバタと暴れる大男を文字通り肉壁にしながら体を修復し始める。
ラッキーだった。こんな運よく人質が手に入るなんて。
このままレイが来るまで時間をかせーー
俺は勘違いをしていた。
こいつはどこか人間らしくて、だから、もしかしたらこいつも俺と同じなんだと。
人を殺さないんだと。
そんなわけがなかったんだ。
男の手に握られたノミが人質を貫通し俺の胸部を貫いた。
「グアァァァ!!」
砕かれるような激痛が心臓部で走りその場で転げ回る。
痛い痛い痛い痛い!!
これはヤバイ!!モロに…くらった!!
「これで死ななかったらもう分かりません」
息を整えようとしても、痛みと目に入る景色が死という恐怖を見せつけ動揺が加速していく。
体にベタつく血が、すぐそばで消えていってしまう命が心を滲ませる。
精神、身体、共に致命傷をくらい身動き一つ出来なくなってしまう。
「死ぬのならば教えて欲しいですね。あなたのスキルを。気になって夜寝れなくなるかもしれないじゃ無いですか」
男の目にはもう、俺たちは生き物として映ってはいなかった。