[第12話]貞操観念
「…まぁそれは置いといて少し頼み事がある」
「頼み事?」
「厳しいお願いなんだが、お前の意思疎通を俺にくれないか?」
目を丸くさせ面食らったことが容易にわかった。
「…それ私以外に言わない方がいいよ」
「やっぱヤバイ?」
「この世界じゃ『足ちょうだい』って言ってるのと大差ないからね?」
「オイやばすぎるおねだりしてるじゃねぇか俺!」
スキルは運動神経と同じような扱いだと思っていたけれどもう少し重いのかもしれない。
そうでなくてもそれを欲しがるのは相当ヤバイやつなのだが。
「そう理解した上でもこのスキルをくれと言えるか?」
レイは知っていると思うが俺には言語能力も発声器官も存在しない。
だからレイと離れた時俺は誰ともやり取りをすることができなくなってしまう。
レイにとって意思疎通は大事なものかも知れないが、俺にとっても喉から手が出るほどに欲しいのだ。
良心に漬け込んでいると悪いことをしている引け目はある。
だけど1%でも可能性があるというのならば、
「俺はそれでもくれと言う」
仮面上の目とレイの目が交差する。
数秒間に及ぶ目線の会合の後ため息をつきながら、
「そうだよね。君の方が有効活用、いや有効活用せざるを得ないもんね」
と微笑みながらそう言った。
「ほ、本当にいいのか?足と同列なんだろ?」
「そりゃあ色々と葛藤はあるしあげなくていいんなら上げないけど、今は時間がないしその話はいつかしよう。ほらちゃっちゃと貰って」
肩に手をかけ意思疎通を奪取する。
こそばゆいのか体をくねらせ妙な吐息をこぼしている。
「…これは…すごいね」
奪ってる側はわからないがどうやら凄いらしい。
具体的なことは言えないがとにかく凄そうだ。
「で、この能力はどうやって使うんだ」
「できることは2つ。1つはテレパシー、念じればできる。もう1つは意思のある音を理解でき、また意思のある音を作り出すことができる。簡単に言えば全人類の言葉を理解出来るし全人類に伝わる言葉を話すことができるってこと。こっちも念じればできるから」
早口で捲し立てながら地面に置いていた救急箱等を手早くリュックにつめていく。
「細かいのが他にもあるけど今はそれだけ理解しておけばいい」
「この子に話は通ってるのか?」
思い出したかのようにいきなり素早く身支度を始めるレイに驚きつつこちらも準備を進める。
ラグドールの前で膝をつき安心させるようできるだけ優しい笑顔を見せた。
が仮面の表情が変わったのを見て引き攣ってしまった。
やはりこの仮面は初対面の人にはウケが悪そうだ。
「伝えてないから移動中に言っといて」
「まじかよ」
ラグドールを担ぎ上げ「ひゃっ」と小さく悲鳴をあげられた。
負担のかからない持ち方が思いつかずお姫様抱っこになったがまぁ仕方ないだろう。
「じゃあ私はこっちを探すから君はそっちを頼む」
「ちょっとまて、これ持ってけ」
自分の体をちぎり、形を整えレイに向けて投げた。
「これは…?インカムか!」
「お、おお。知ってるのか」
「私は物知りだからね」
少しおぼつかないが迷うことなく耳に付けようとするレイをみて少し驚いた。
「これで連絡は出来るし見つけたらこれで報告してくれ」
「了解。じゃ、ご武運を祈る」
突風が吹き抜けたかと思えばもうレイの姿は見えなくなっていた。
「ラグドール…さん。安心は出来ないと思うけど頼ってくれ。死ぬ気で守るから」
という意味をのせて自分の体を震わす。
レイの説明通りならこれで伝わるはず。
「はい、お願いします」