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ペルティ・フラッタリー伯爵令嬢がみた婚約破棄劇3

「お、お、おねえさまは殿下が好きだったんじゃないのッ!!??それに王太子妃にならなきゃ『いらない令嬢』になっちゃうでしょう!!?どうして、どうしてそんなにあっさりッ!どういうことなのッ!!?」



――なに言ってるの、自分が婚約を破棄させたくせに。



顔を真っ赤にして脈絡のないことを叫んでいるリリベルを、ペルティは呆れて眺めた。


お望み通り王太子妃におさまりそうなのに、ライラ嬢が気にしてない(むしろ大喜びしてる)のがそんなに許せないんだろうか。それにしたって、せめて今くらい癇癪をガマンすべきだった。



「あんなに取り乱してどうしたの、リリベル様ったら」「ライラ・ウェリタスのふるまいがお姫様のお気に召さなかったようね。悔しがってほしかったのに笑顔で見送られて当てが外れたってとこかしら」「ちょっとおやめなさいよ」「そうよ、次期聖女様がそんなこと考えるわけないわ……たぶん」


「僕らはちゃんと言われた通りにやったよな?拍手だってしたし」「このあとどうすればいいんだろう。ライラ・ウェリタスが逆上して暴れたら取り押さえる役なんだけど」「なんかリリベル嬢の方が暴れ出しそうだが……」


「おやまあ、とんだ挨拶会ですこと。陛下や王妃様がよくお許しになったものね」「まさか婚約破棄の証人として呼びつけられるとは」「奔放なクラージュ殿下はともかく、品行方正なリリベル・ウェリタス侯爵令嬢までこんな真似をするなんて」「彼女が王太子妃ねえ……」



不穏な会場の様子に、興奮しきったリリベルは気付いていない。


――せっかくの計画を自分で台無しにしちゃってるわ。


公開婚約破棄なんてやめておくべきだったのだ。ライラ嬢のためというより、どちらかといえば彼女自身――リリベル・ウェリタスのために。


勤勉で努力家な優等生の顔、健気で思いやりにあふれた聖女の顔、初々しい令嬢の顔、無邪気に男心をくすぐる女の顔。その場にふさわしい姿をリリベルは巧妙に演じ分ける。ただ(彼女自身は無意識にかもしれないが)ライラ嬢が関わると、その本性がなんのベールにも覆われずにくっきりと現れてしまう。


もしこれが内輪のことであれば、いつもどおり癇癪を起こすなり、自己中心的な理論で煙に巻くなり、拗ねて人のせいにするなり、容姿でごまかすなりどうとでもなったのに、高位貴族(おとな)の前でそんな児戯が通用するわけもない。


「リリベル、お、落ち着けよ」


白けた会場に気付いたフォールスが、冷や汗をかきながらリリベルをなだめにかかる。


「だ、だって……!だって、おかしいじゃないッ!!」


まるで駄々っ子だ。

ペルティはフンと鼻を鳴らした。


少しでも伯爵家(うち)の覚えをよくしておこうと気を配って、ごきげんとって、おべっか使って……でも、もういい。あんなの聖女でも王太子妃の器でもない。こちらこそもうおしまい、だ。


――私にとって『いらない令嬢』はアンタよ、リリベル・ウェリタス。


ペルティはドレスを翻し、広間の出口に向かう。もはやこの場にいる理由はひとつもなかった。


ライラ嬢はもう大丈夫だろう。リリベルの態度におろおろしているが、やっぱり傷ついている様子はない。こんなことなら、あの暴力メイドに婚約破棄計画を知らせる必要なんてなかった。学術院の護衛にケンカをふっかけ、嘘かまことか大貴族令息に膝蹴りをかましたのにお咎めゼロだった彼女なら、この茶番をぶち壊してライラ嬢を助けてくれるかもしれない。そう思って、今朝使用人部屋のドアに手紙を挟んできたが、まだ読まれていないなら回収した方がいいだろう。


出口から一歩踏み出そうとしたとき。


「わかったぞ!また奴の仕業なんだろう!ローガン・ルーザーッ!!」


ビクッとペルティが振り返れば、クラージュ殿下がわなわなと震える指先をライラ嬢に突き付けていた。口角から泡を飛ばし、笑みを浮かべ損ねたような狂気じみた形相で。

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