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ペルティ・フラッタリー伯爵令嬢がみた婚約破棄劇2

「さすがクラージュ殿下!!」


悪徳商人のような口調で、ライラ嬢は続けた。


「殿下はなにもかもお見通しだったんですね!これで聖フォーリッシュ王国には一点の曇りもない素晴らしい未来が約束されたことでしょう!なんてったって、うちのリリベルが――次期聖女様が王太子妃なんですもの!ああもう本ッ当によかったですッ!!」


「そんなによかったんだ……」と、だれかが呆然とつぶやく。

その言葉に強く同調した。いやほんとそう。婚約を破棄されたのにそんなに喜ぶのか、とペルティも思ったのだ。あんなに元気いっぱいなライラ嬢は初めて見た。あのおなかから声を出す感じ、ライラ嬢に付きまとっているどっかの王子の姿が思い浮かぶ。


ペルティは、のろのろと首を巡らせた。


壇上には、得意げな笑みを浮かべたまま白目をむいているクラージュ殿下。その隣でリリベルは、とびきり臭いものを嗅いだ猫みたいな表情で硬直している。気のせいか自慢の薔薇色の髪までボサッと乱れているようだ。


彼らの後ろに立っていた中等部総会の面々――ノイマン・インテリゲント様だけは俯いていたが、フォールス・オブスティナ様は顎が外れそうなくらい大口を開けているし、ジェネラル・ヴェルデ様は目を限界まで見開き、まるで死んだメバルのよう。


招待客たちも似たような反応だ。360度を死んだメバルにしたまま、ライラ嬢だけは生き生きとしてクラージュ殿下とリリベルを褒め称えていた。


「あの、クラージュ殿下」


ひとしきり賞賛したのち、ライラ嬢が(白目の)クラージュ殿下にぺこりと頭を下げた。


「至らないところばっかりだったわたしを、今まで婚約者として側に置いてくださってありがとうございました。リリベルをよろしくお願い致します」


そして、リリベルを見る。お遊戯会で立派に主役をつとめる孫を見る祖母のような、ひとり娘を嫁にやる父親のような、まぶしそうな表情だ。


「リリベル……あ、もうリリベル様だよね。リリベル様さえよかったら、これからもわたしのこと『おねえさま』って呼んでくれたらうれしいな、なんて。……王太子妃様になっても元気でね」


永遠の別れでもないのに感極まってしまったのか、ライラ嬢はズビビッと(はな)をすすった。何人かのご令嬢がイイ話っぽい空気につられてハンカチで目元をぬぐう。



なんだこれ。



ペルティはおかしくなってきた。

昨夜のリリベル・ウェリタスがどんなに得意げだったか。「みんなの前で婚約破棄されたら、おねえさまはとんだ恥さらしね」とか「泣いてるところを笑いものにしてやるわ」とか散々調子にのっていたのに、こんな結末になるなんてどっちが笑いものなんだか。


センセーショナルな見世物を観覧していたはずが、いつのまにか『感動ドキュメンタリー~新しい王太子妃の誕生~』を見せられていた高貴で低俗な招待客たちは気まずい顔だ。「とりあえず……おめでたいよな?」「そ、そうだよな、うん」「よかった、ですわよね?ね?」


ぱらぱらと元気のない拍手が起こるなか、「待て!」とさえぎる声。


「ライラ・ウェリタス!ちがうんだ!こ、これはその、ただの婚約破棄じゃなくて」


メバルから復活したジェネラル様がしどろもどろに叫んでいる。フォールス様も壇上から駆け下りてきた。


「そ、そうだぞライラ嬢!まだこの話には続きが――」


せっかくの感動的な雰囲気に水を差したのは、このふたりだけでなく。


「ど、ど、どういうことよッ!!一体どういうことなのッ!!??」


ついに、本日のMVP(もっともバカなピンク頭)リリベルがつっかえながら声を上げた。

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