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サンドイッチ・パーティー2

「ライラ?」


ローグさんが不思議そうに目を瞬かせる。

見とれていたのをごまかそうと、わたしはあわてて手をふった。


「す、すみません、ボーッとして!あの、わたし本当にほしいものなんて」


言いかけて口をつぐむ。


「……ないの?」


明らかにガッカリした顔で、眉を八の字に下げるローグさん。


(どうしよう!髪がへショッとなってる!だけど本当に贈り物はもう十分!もらいすぎなくらい!それに『ほしかったのは、ひとりじゃない自分』なんて言えない!だって、だって、そんなの)



――『ずっと一緒にいてほしい』って言ってるのと同じだもん!



ドッカーン!と大噴火を起こす火山が脳裏に浮かび、グラスに映る自分の顔がどんどん赤くなっていく。なんとか、なんとか非の打ちどころのない答えを!ローグさんがションボリしない回答をしなくては!と焦るものの、うまい具合に思い浮かばず。


「秘密です!」


苦し紛れに、そう絞り出した。


「ヒミツ?」


「はいッ!わ、わたしがほしいものは、ま、まだ秘密、ですッ!!」


意外にもローグさんはあっさりと引き下がった。「そうか」


「ヒミツなら仕方がない!私にも覚えはある!君が話してくれるときを待つこととしよう!」


(え、ローグさんの秘密?)


なにそれ。逆にわたしの方が気になっちゃう。秘密ってなんだろう。左巻きのカタツムリをめっちゃ集めてるとか、そういう内容だろうか。それとも。


(――ひょっとして)


実は彼の秘密について、わたしにはひとつ思い当たることがある。

でも、それはあんまり考えたくないことだった。


「あの、ローグさん!」


気分が落ち込むのを振り払って、わざと明るい声を出す。


「わたしこそ、いつもよくして頂いてるからお礼がしたいです!ローグさんはなにかほし」「ライラッ!!!」


はッや。


わたしは黙ってうつむき、額をおさえた。目を閉じて呼吸を整える。


「な、なるほど……そそ、それ、以外ではなにか」


「ライラ以外で?」


「は、はい」


「ライラ以外でほしいものってこと?私にとって?」


「あの、そんな、繰り返さないでもらっていいですか……わたしの心拍がハイパーインフレグラフみたいになっちゃうので」


蚊の鳴くような声で囁くと、ローグさんは「それはいかん!」と押し黙った。彼がどういう意味で「ほしい」と言ってくれているのかは一旦見えないところに置いておくことにする。わたしの心臓のために。


ややあってローグさんが「よし」と頷いた。彼が導き出した、ほしいものは。


「じゃあ世界平和」


いきなりワールドワイド。


「……え?それはそのままの意味で?いわゆる……世界の平和ですか?」


「そうそれ」


おお、まさかこんなにも純粋無垢なお願いをされるとは思わなかった。さすがにそれはプレゼントできそうもない(手持ちのお金がないから高い品も無理だし、不器用だから手作りの物も贈れないけど)。


「す、すみません。それはさすがに――」「いや、これはほしいものにならないか。ライラがいればそのうち実現できることだ」


「へ?」


「世界に対する抑止力がすごいし、なんといっても!私のやる気が出るからな!!」


と言いながら、ブンブンと両手を振り回すローグさん。「こんくらいやる気が出る!」というアピールのようだ。思う存分ブンブンして、ローグさんは晴れやかに笑った。


「世界がひとつになった暁には、きっと退屈で静かな夜が訪れるだろう!当たり前の朝と賑やかな昼と明日が楽しみになるような夕暮れもな!楽しみだな、ライラ!」


「は、はあ」


ローグさんの言うことはやっぱり飛んだり跳ねたりしてよく分からない。でも、彼が語る平和になったその世界は、なんだかとても素敵に思えた。その実現のためにわたしの存在が彼のやる気を支えられるなら、とってもうれしいことだ。


(きっとそう思う人は多いだろうな……わたし以外にも)


「ご歓談中に失礼致します」


抑揚のない声とともに、音もなくテーブルの傍らに男の人が現れた。

ひょろりと背が高く、髪型も服装も定規で測ったみたいに整った片眼鏡の侍従――ローグさんの側近イーズさんだ。


「どうした、ソロバンカマキリ」


「だれがカマキリですか。ライラ嬢、このピカピカ王子をちょっとお借りしますよ」


不服そうなローグさんを促し、ふたりは少し離れた木陰で話しはじめた。


曇り空の下でも、大勢の人がいる中でも、鮮やかな金髪と英雄像のごとく均整のとれた立ち姿は、そこだけ世界がちがうみたい。近くのテーブルに座っている女学生たちが彼の横顔を熱っぽく眺め、ため息を漏らすのも納得だ。


(ホントにピカピカ王子様だなあ)


イーズさんは嫌味で言ったんだろうけど、ローグさんは本当に光って見える。わたしが付けた愛称――『キンピカマントさん』というのは的を射ているんじゃないだろうか。


(あんなにステキな人だもん。わたしみたいに舞い上がって、彼を支えたくなる女の人はいっぱいいるだろうなあ)


わたしが思うローグさんの秘密はこれだった。彼ほどの人なら、きっともう母国に婚約者がいるだろうということだ。

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