破滅への甘い密談2
披露された計画は、とんでもない代物だった。
「ようはショック療法だ。わざと大勢の前で婚約破棄を宣言し、自分の立場を忘れて浮かれているライラの目を覚まさせる」
「お、大勢の前で?本気ですか?」
クラージュはニヤリと笑う。
「ま、今のところは狂言のつもりだ。でも証人が必要だから、できれば高位の者たちが集まる正式な場でやりたい。成人の式典がいいんじゃないかと考えている」
ノイマンは言葉を失った。莫大な費用と人手がかかった大切な式典で、まさかそんなことをしでかすつもりだったとは。
「考え直してください殿下!そんな茶番になんの意味があるんですか!追いかけ回していた矢先に婚約破棄だなんて……ライラ嬢の気持ちが完全に離れて、余計にローガン・ルーザーへ傾倒してしまうだけでしょう!」
クラージュはムッと顔をしかめた。「随分な言い草だな」
「お前こそよく考えろ、ノイマン。ローガン・ルーザーの狙いは次期王太子妃だ。僕が婚約破棄をすれば、奴はライラを相手にしなくなる。そのうちどんなバカでも気付くさ、自分がだまされてただけの『いらない令嬢』だって」
クラージュは完璧な計画に酔いしれる。
盛大な式典でいきなり婚約破棄を突き付けられたライラ。プレゼントした花嫁衣裳のようなドレスに舞い上がっているところを、突然地獄の底に叩き落とされる。泣き喚いて僕にすがってももう手遅れ。頼みの綱のローガン・ルーザーはライラに興味を失い、とっとと帰国するだろう。ルーザーの国王に、丁重な返品の手紙と奴が破損した物の請求書でも送ってやろう。国内に残った害虫は全員不敬罪で投獄だ。
あてが外れて悔しがるローガンを思い浮かべれば心が踊り、はいつくばって自分に許しを乞うライラを想像すれば歪んだ笑みがこぼれた。
「これで、すべては元通りになる。我が学術院も、ライラもな」
「しかし」とジェネラルが切り出した。さすがに不安そうな表情だ。
「参加者はみんな、今回の式でクラージュがライラと正式な婚約を結ぶと思っている。あらかじめ話を通しておかなくては陛下や王妃様が許さないだろう」
「そう大きな問題にするつもりはない。父上たちが来る前に済ませるさ。ただ、あんまりわざとらしくなっても意味がないから招待客には真相を伏せておくつもりだ。なあリリベル」
リリベルがこくりと頷く。
「式典は午後ですから、証人にふさわしい方々とおねえさまにだけ『挨拶があるから早めに列席するように』と声をかけておくつもりですわ。もちろんローガン・ルーザーには知らせずに」
よどみない答えにクラージュは満足そうだ。「そういうことだ。成人式なら招待した者しか参加できない。奴がいたら絶対にジャマをしてくるからな」
ノイマンは大きなため息をついた。
どうやら自分のいないところで、クラージュとリリベルはかなり前からこの計画を練っていたらしい。今更反対をしても理屈をこねて敢行するつもりだろう。だったら希望通りさっさと茶番を済ませたほうが傷は浅くて済みそうだ。どうせ割を食うのはライラ・ウェリタスだけなのだから。
「……わかりました。それで、当日の流れはどのように?」
「ようやく乗り気になったか!なに、簡単なことさ!人が集まったら、みなの前で宣言するだけだ」
クラージュは両手を広げて、上機嫌でのたまう。
「『ライラ・ウェリタスとの婚約を破棄し、心から愛するリリベル・ウェリタス侯爵令嬢を新たな王太子妃候補とする』ってな」




