『傲慢』な王子の独壇場2
「ええいッ!離せ、この野蛮人!!」
わめくクラージュ殿下を小脇に抱えているのに、ローグさんはキラッキラスマイルのままだ。2階の窓や回廊には、授業を中断したのかたくさんの見物人が集まってきているけど、まったく気にしてない。
「あのさあ、逃げた方がよくね?」と庭師さん。
わたしもそう思う。こんなに騒いだら、そのうち先生が来るだろう。
「む、どうしているんだ?」
ローグさんは初めて存在に気づいたのか、庭師さんを見てあからさまにぶすくれた。
「今更かよ、ちょっと話してただけッスよ」
庭師さんはお手上げの恰好。「つか、アンタが目を離すなって言ったんでしょーが」
ローグさんがハッと息をのんだ。
「あー!!まさか、さっきのキッカケは!!」
「ちがうちがう、オレじゃない。たぶん旦那」
「…………」
「いや、マジで」
ローグさんの両頬がこれ以上ないくらい不満そうにふくらんでいる。やがて、疑いの眼差しはそのままに「ふうん」と鼻を鳴らした。
「ふうん、ならいいけどお」
ローグさんはそそそっとわたしに寄ってくる。
「じゃあ、もう私が来たからおわり!今は庭師なんだから庭師の仕事してきて!」
「へえへえ、邪魔者は退散しますぅ。やっぱ暗殺しときゃよかった」
「再チャレンジは、規定の台紙にシールを集めたら認めてもいいぞ」
「春のパン祭りかよ」
冗談なのか本気なのか、分からないやりとり(いやもちろん冗談に決まってるけど)。どういう関係か結局ナゾだ。まあ仲がいいのはまちがいないだろう。
庭師さんは立てかけてあったシャベルを手に取ると、「そうだ」とわたしを見た。
「さっきはイイもの分けてくれてありがと」
「いいもの?」
ローグさんが繰り返す。
「またヨロシク」
「またよろしく!?え、ライラ!いいものってなに?ま、またよろしくするようなものなのか!?」
思わせぶりなセリフを残し、庭師さんは去っていく。「男の『嫉妬』はいやだねえ」なんてニヤニヤしながら。
「ローグさん、落ち着いてください!お菓子を分けてあげただけですよ!ほらキャラメル!」
かわいらしいクマのパッケージを見て、ローグさんはホッと眉を下げた。
「あ、いつもボアがくれるやつ」
「ローグさんももらってるんですか!!??」
「でも、ライラのキャラメルの方がいいやつだ!箱を分解するとここんところにクマ占いが」「おい……」
疲れ切った声が割って入った。
「いつまでくっちゃべってる……いい加減降ろせ……」
いけない、忘れてた。
「ローグさん、殿下の元気がなくなってきたので、もう離してあげた方が……」
「おお!そうか、身体が乾いたからだな!」
「最初から乾いてる……降ろして……」
ぐったりしたクラージュ殿下を、ローグさんは「ほら地面だぞ」と言いながら優しく降ろした。殿下はそのまま座り込む。
「災難だったな、クラージュ王子!」
「いや全部お前のせいだけど」
「休んだらクラージュ王子ももうどっか行っていいぞ!」
「なんでだよッ!」と、殿下は再び元気を取り戻した。やっぱり地面の方がいいみたい。
「なんでそれをお前が決めるんだよ!僕はライラに用があるんだ!!」
「用?どうせ立派な大豆モヤシになりたいとか、早く湯通ししてほしいとか、そんなんだろう」
「つくづく僕をなんだと思ってんだッ!!?」
緑豆モヤシだと思っているんですよ、とは言えないので、わたしは沈黙を貫く。それが気に入らなかったのか、急に矛先が変わった。
「おいライラ!お前からもなんとか言え!そもそもコイツが増長したのは、お前の責任――」
「殿下!一体なにをやってるんですか!」
いつも冷静沈着なノイマン・インテリゲントが、息を切らして回廊から走り出てきた。ずり落ちた眼鏡を直し、ローグさんに軽く会釈する。
「失礼致しました、ローガン・ルーザー王子」
「ノイマン!僕は謝罪するようなことはなにも」
「殿下、ここは場所が悪すぎます。注目の的ですよ」




