ひとりぼっちのお誕生日
(クラージュ殿下、リリベル……)
花園で笑いあうふたりは、世界中から祝福された恋人同士みたい。
そのまま絵として美術館に飾れそうなほど美しい、お似合いのふたり。陽射しも、あの場所だけひときわ柔らかくきらめいて見える。
すぐに離れようとしたが先に気付かれてしまった。「そこにいらっしゃるのは、おねえさま?」
(あぁ、どうしよう)
びくびくしながら振り返ると、ふたりはゆっくりこちらに歩いてきた。
クラージュ殿下は嫌そうな顔――まるで服についたホコリを見るような目つきで、わたしを睨む。
せっかくの楽しい時間をわたしが台無しにしてしまったみたいだ。これが初めてのことではないけれど、憧れの人にそんな顔をされるとやっぱり胸が痛い。
「なんだ、おまえか」
「あ、あの、殿下におかれましては、本日も」
「うっとうしい」と一蹴された。
リリベルが殿下に寄り添ったまま、聖女の微笑を浮かべる。
「ねえ、おねえさまも一緒に観劇に行かない?今夜殿下が連れていってくださるんですって」
クラージュ殿下はリリベルに目を移し、愛おしそうに微笑む。
「リリーは優しいな。だが僕はリリーとふたりだけで行きたいんだ。それに、こんな陰気な女が隣にいたのではどんな喜劇も楽しくなくなってしまう」
「殿下ったら!」
リリベルが頬をふくらませて殿下をつつく。彼は声を上げて笑い、リリベルの肩を抱き寄せた。その仕草があんまり優しくてわたしは小さく息を漏らす。
わたしなんて殿下に手を握っていただいたこともない。当然か。だれだってわたしの手なんか触りたくない。
観劇にだって誘われたことはないし、一緒にお庭を散歩したこともない。
(名ばかりの婚約者……)
わたしのうらやましそうな視線に気づき、リリベルが口角を上げる。
「おねえさまはランチの途中だったのではなくて?お邪魔しちゃったかしら」
「ランチ?その粗末な食事が?」
恥ずかしくなって、ジャムが挟んであるだけのパンを隠す。
「おまえは本当にリリーと同じ侯爵家の娘なのか?辛気臭い顔、貧相な体型、みすぼらしい恰好、おまけに残飯を食い漁ってる。少しは僕の身にもなってくれ。おまえみたいな奴が婚約者だなんて野良犬にも紹介できやしない」
殿下は自分の冗談に笑っている。
「おねえさま、勘違いしちゃってごめんなさい。それランチじゃなくて小鳥のエサなのよね。地面にまいておいた方が小鳥たちが食べやすいわよ」
リリベルは優しくそう言うと、わたしの手からパンをひったくり地面に落とした。
「あ……」
「なあに?わたくしなにかいけないことした?」
「い、いえ……気が付かなくてごめんなさい。どうもありがとうリリベル」
「どういたしまして、おねえさま」
歩いていこうとしたリリベルが足を止めた。「あ、そうだ忘れてた」
クラージュ殿下を先に行かせて、わたしに向き直る。
「お誕生日おめでとうございます、ライラおねえさま」