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朝のひととき

「おはよ!ライラお嬢様」


「おはよお、ホロウ君」


(はわあ、朝から癒される……)


思わずヘラッと口元がゆるんじゃう美少年っぷり。

今日もキュルルンスマイルと半ズボンがまぶしい、少年執事ホロウ君が「よく眠れた? 」とか「夕方から雨がふるってさ!あったかくしとこうね」とか小鳥のようにさえずりつつ、寝ぼけたわたしをかいがいしく世話してくれる。


部屋中にただよういい匂いに、おなかが鳴った。


広々としたテーブルに広がる、できたてほやほやのお料理。それを端から端まで見渡し、わたしは疑問に思っていたことを今日こそ口に出した。


「…………ねえ、ホロウ君」


「なあに?」


「ちょっと前から気になってたんだけどね、なんかちょっと……メニューが豪華すぎない?」


そうなのだ。朝ごはんなのに、見渡さないといけないくらいメニューがある。


蓋付の大きな銀器にはスープが2種、花びらみたいにハムやサラミがみっちり飾られたトレイもあれば、様々なチーズが盛られた大皿、フルーツがあふれそうな陶器の鉢もある。半熟卵の黄色や焼いたトマトの赤、茹でインゲン豆の緑、色とりどりのジャムが目にも鮮やかだ。どっさりあるパンからは湯気が上がり、バターなんか薔薇模様のカットがほどこされている。


冷たいパンとぱさぱさのチーズくらいしか食べる物がなかった時代からは考えられない贅沢!とわたしは毎朝感動してるんだけど、ホロウ君は「そうかなー」とおすまし顔。


「ボクやアバリシアも一緒に食べてるんだし、これくらいフツーだよ。さ、もう朝ごはん始めちゃおう。アバリシアは二日酔いでまだ寝てるから」


「最近よく二日酔いだねえ、アバリシアさん」


「ヤケ酒だよ」


ホロウ君は、フフンと大人みたいな顔で笑う。


「え、ど、どうして?なにかイヤなことあったのかな」


「フラれたの。オトコに」


フラれた……え?フラれた?


骨付きチキンをバリバリ骨ごと食べちゃうアバリシアさんが……ワインは基本的にラッパ飲みしちゃうアバリシアさんが……きれいなお庭のどこにでもタンを吐いちゃうアバリシアさんが……「フ、フラれたッ!!??いつ!?だれに!??」


「さーて、誰にでしょう?」


「ホロウ君の知ってる人?わ、わたしも知ってる人かな?」


「どーかなー?そんなに知りたそーにされたら教えるのもったいないなー。せっかくだから本人に聞いてごらんよ。いやってほど教えてくれるからさ」


(き、気になるなあ、ぜんぜん気付かなかった……!)


わたしが狂犬のごときメイドのお相手を予想している間に、デキる執事は完璧な朝食を整えてしまった。そうなると探求心よりも食欲が勝ってしまうのはしょうがない。ホロウ君と「いただきます」して、頭はごはんに切り替わってしまった。(以前は精霊と聖女様に食前のお祈りをしてたんだけど、ホロウ君やアバリシアさんは習慣がないみたいだからわたしも止めてしまった)


「今日のパンもおいしいねえ」


ごはんそのものがおいしいのはもちろんだけど、誰かと一緒に食べると本当においしい。みんながいてくれたら、ただのお水でもきっとおいしいだろう。


夢中でパンを頬張っていると、向かい側からクスクス笑われた。


「いつもいつもおいしそーに食べるねえ」


「え、だ、だっておいしいもん」


ガツガツしすぎたかな、と口元のパンくずをこっそりぬぐう。


「よかった」とホロウ君はやわらかく微笑む。「ボク好きなんだ。こどもが――おいしそうな顔でごはん食べてるとこ」


思わずきょとんとホロウ君を見つめてしまった。


(ふしぎな言い方。ホロウ君だって、わたしより年下の子供なのに。でも、そういう感覚だから若くても執事として優秀なのかな?)


「それが、ホロウ君が執事になった理由なの?」


今度はホロウ君が目を丸くする。

それから焦ったみたいに「え?あ、執事?いや、執事になったのはたまたまというか仕事というか……」と言いかけ、なにかを思い出したのかちょっと笑った。


「執事ね、はじめはどうしようかなーって思ったんだ。まあ『これも仕事だから上手くやろう。ダメだったら辞めちゃえばいいや』ってカンジだったんだけど」


(そっか、別にわたし付きになりたいってわけじゃなかったのかな。そうだよね、相手を選べるわけないし)


「でもね、すぐに『ライラ・ウェリタスの執事でいよう』って思ったよ!」

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