初夏の聖フォーリッシュ王立学術院より
お父様へ
季節が春から夏へと移り変わっています。
聖フォーリッシュ王立学術院の大庭園ではヒルザカリが満開の今日この頃、お父様はいかがお過ごしですか。
わたしもリリベルも元気でやっています。
もうご存知かもしれませんが、リリベルはクラージュ殿下の推薦により、最年少で総会役員への正式登用が決まりました。わたしは……特になにもご報告できることがないけど、最近は世界歴史学と古代宗教学に興味があっていろんな本を読んでいます。
ところで、先月のお手紙はもうそちらに届いたでしょうか?
お返事がきていないので、すこし心配です(お父様が体調など崩されていないといいのですが……)。
急に、あんなお手紙を送ってごめんなさい。
でも一月たってもわたしの気持ちは変わりません。
わたしは、わたしとクラージュ・グラン・フォーリッシュ殿下との婚約をもう一度見直すべきだと考えています。
せっかくお父様とお母様が結んでくださったご縁ですが、わたしにはとても王太子妃が務まりそうにありません。そもそも婚約者に選ばれたのが、お父様の尽力とありえないような幸運だったのです。
もちろん、今更わたしの不出来さだけで婚約が白紙になることはないでしょう。
でも、フォーリッシュ王家側も、婚約当初から事情は変わってきているはず。もう誰もが気付いています。わたしよりも、王太子妃にふさわしい女性がいることに。美しくてみんなに愛される優秀な女性。クラージュ殿下にも認められ、並び立つに値する令嬢。
その人が誰なのかは言及しませんが、もちろんお父様もよくご存知の方です。
……お返事が来ないのは、きっと怒っていらっしゃるからでしょう。こんなことを言い出した理由が、あんまりにも子供っぽい無責任な我儘でしかないから……。
でも、手紙に書いた通り、わたしはあの方の言葉を信じているのです。
彼に会った16歳のお誕生日から、本当にいろんなことが起こりました。
毎日がとても楽しいです。ずっとこのままでいたいくらい。
お父様、お願いします。
どうかわたしの最後の我儘を聞き入れてください。
なにもかもわたしのせいです。わたしが悪いのです。小さい頃お父様に叱られた頃からなにも成長していない。わたしは自分のことしか考えていないのです。ウェリタス侯爵家に累が及ぶようなことになれば、わたしのせいだとはっきりおっしゃってください。罰でもなんでもお受けします。こんな娘でごめんなさい。
でも、まわりの反対を押し切って、一目惚れしたお母様をバベルニア帝国から迎えたお父様になら、わたしの気持ちが分かって頂けると信じています。
お返事お待ちしてます。
初夏の聖フォーリッシュ王立学術院より
ライラ・ウェリタス




