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一日の終わりにもう一波乱

とぼとぼと寄宿舎への道を歩きながら、深いため息がもれる。


「はああああ、つ、つかれた……今日はいろんなことがあったなあ」


一番の大事件は、やっぱり実技授業の件。

あのあと、わたしとキンピカさんはすぐさま医務室に連れていかれた。火傷がないか確認したり、魔力切れになってないか栄養剤を飲んだり。医務室は男女別々の棟にあるので、それっきりキンピカさんには会ってない。見学者だと言ってたからわたしより丁寧に手当てされているのかもしれない。


医務室から戻ったら学院長室に呼び出され、いろいろと説明をしなくてはならなかった。マルス先生はもう帰ったのかいらっしゃらなかったが、正直わたしはそれどころじゃなかった。炎が消えた円形教室は大惨事だったからだ。


(でも誰にもケガがなくて本当によかった……学院長はしなくていいって言ってたけど、みんなに謝って回らなくていいのかな。授業を台無しにしちゃったし、円形教室だってしばらく使えないだろうし。広場は焼け野原で、座席も焦げてて……弁償しろって言われなくてほんッとうによかったッ!!)


侯爵家には報告されるらしいが、それはもう仕方ない。めちゃくちゃ怒られるだろうけど、そもそもわたしが加護を扱いきれなかったせいだから。


ぐうううとおなかが鳴いた。


「おなかすいた……」


晩ごはんはまだ食べていない。食堂に取りに行きたいが、今はみんなも夕食どき。


(行けば絶対なにか言われるよ。だって円形教室を火だるまにしちゃったんだもの。やっぱり出来そこないだとか、ダメな姉だとかヒソヒソされるに決まってる。今そんなの聞いたら、ますます落ち込んじゃう)


「そうだ、お昼ごはんも食べてないんだった。キンピカさんが現れて――」と、例のキラッキラスマイルを思い浮かべ、一気に血圧が上がった。


(あ、あ、あの人、やっぱり変だよね!?でもキンピカさんのおかげで魔法が上手になるキッカケを掴めたような……いやいや広場が丸焦げになっちゃったんだよ!?あんなのわたしの魔力じゃできっこない!キンピカさんの力に決まってる!だって手を握って)


暖かい手。大きくて頼もしくてそのまま包み込まれそうな。


「わあああああッ!!お、思い出しちゃダメ!ダメダメッ!!」


バサバサと手を振り回して、回想を断ち切る。


5歳で婚約者が決まってからお父様以外の男性と関わる機会がほとんどなかったし、その婚約者からもうっとうしがられて相手にされないため、わたしの対男性能力はとっても低い。自覚はある。


成人したら大人のパーティーにもじゃんじゃん出席しなくてはならないから、今のうちに親族のお茶会とか夜会にお呼ばれして練習をした方がいいんだけど、残念ながら呼ばれるのがリリベルだけなのだ。学術院にいる間にマナー講座や会話術の授業をもっと受けることにしよう。それはさておき。


「……キンピカさんには、謝っておいた方がいいよね。わたしが巻き込んだような気もするし、せっかく手伝ってくれたのに恥ずかしすぎて怒っちゃったし」


生まれてこのかた2・3回しか怒ったことがない(ボーっとしているとも言う)わたしが、あのときは思わず声を荒げてしまった。お義母様がいれば「はしたない!」とひっぱたかれるところだ。


(ひょっとしたら全然気にしてないかもしれないけど、次会ったらきちんと謝っておこう。侯爵家の令嬢らしく……というか名前もちゃんと聞いてないよッ!今度は教えてもらえるかな)


思い出さないようにしても、印象的すぎてグイグイ思考に入ってくる笑顔、琥珀色の瞳。世界で一番好きなものを見るような、楽しそうな目。わたしをあんなふうに見てくれる人は――


「今までいなかった」



物思いに沈むわたしの耳に、ぱたぱたと足音が聞こえた。


「ライラ・ウェリタス様!こちらにいらっしゃったんですね!」


夕闇が迫る小道を、若い侍女が駆けてくる。


「お部屋が大変なんです!すぐに戻ってきてください!」


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