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第一章 始まり

「おい、聞いたか?今度収容される奴。どうやら本物の悪魔らしいぜ。」


「悪魔!?『悪魔に乗っ取られた人間』なら分かるが、本物の悪魔が来るなんてあり得ないだろう…そもそも収容できるものなのか…」


「いくら俺たちでも、悪魔の相手なんかしたくないしなぁ。」


私は先ほど礼拝堂の廊下で、こんな会話をする修道士2人組とすれ違った。


そう、確かに今日この礼拝堂に悪魔がやってくる。長年存在するかどうかもわからなかったあの悪魔が。


しかも、これからその悪魔と対面する修道士こそ、この私なのだ。


良くも悪くも、きっとこれは神が私に与えてくれた運命。どうなろうとも全てを受け止めよう。


そう思いながら、私は悪魔が囚われている牢獄のドアを開いた。


どんな恐ろしい姿なのか、どんな叫び声をあげるのだろうかと恐怖と期待で胸が膨らむ。


しかし、ドアを開いた先にいた「悪魔」は、私の想像を大きく裏切るものだった。




「…やっぱり、美人なんだな。」


呆れたような呟きだった。そしてなにより





優しい目をしていた。









***************************






「……ん……ここは?」


嫌気がさすほどの眩しい光に包まれて目を覚ますと、辺り一面緑に覆われていた。


草は生い茂り、木が乱立し、そよ風に揺れる葉っぱの音と匂いが脳を刺激する。


心地よい気分で目を覚ましたのは良いものの、なぜ今僕はこんな所にいるのかは全くわからなかった。


しかし寝そべったまま、しばらく辺りを見回すうちに、僕はある二つの仮説を立てた。


一つは、ここは日本どころか僕が元々いた場所ではないということ。


そして二つ目は、





僕が異世界転生をした可能性があるということだ。







先程、僕はマンションの屋上から身投げをした。痛みは覚えていないが、飛び降りる最中に感じたあの心地よい風は覚えている。人生、最初で最後の自由な時だった。


死んだ後のことは微塵も考えていなかったが、やはりこの状況は転生なのではないだろうか…天国にしちゃあ簡素すぎるし、地獄にしても平穏すぎる。


それに着ている服も飛び降りた時と同じ、安物のシャカシャカパーカーとジャージズボン。可能性は十分あり得る。


僕は起き上がり、ゆっくりと背伸びをした。


「それにしても、本当にそうだとしたら自分が異世界転生なんてできると思っていなかったなぁ…」


感慨深さとなんとなく複雑な気持ちが浮かんでくる。何もかも捨てたくて死んだ人間が、何もかもない状況でまた人生を初めるのだからかなり皮肉染みてると言えるだろう。


だが、ラノベ自体はかなり読んでた方だから、異世界での生き方についてはある程度心得ている。


そう、異世界転生したという状況は、普通なら直ぐに舞い上がりたい気持ちになるはずである。


だが、肝心なことは異世界転生にも様々なジャンルがあるということだ。


自分が何系の転生者となっているかを確認することで、立ち回りが確定する。まずはそこを調べなければいけない。


一番いいのはやはり無双系だろう…とりあえず、圧倒的な暴力を振りかざし、イキリ、ハーレムを作ればストーリークリアも同然…


ギャグ系もそんなに問題じゃない。最終的にはいい感じになるからな。


ただ、問題なのは死に戻り系だ…あれだけは絶対に嫌だ!もう辛い思いはしたくないんだ!


すぐに真相を確かめるべく、とりあえず僕はステータス欄を確認することにした。ステータス欄に書いてある内容でどのような設定になるか、ある程度把握できるからだ。


ただ…


「…どうやって出せばいいんだ?」


それもそのはず、前の世界の人間にとっちゃ日常生活でやったことない作業だ。どうすればいいかわからないに決まってる。


なんとなく、ステータス出ろと念じてみることにした…ダメだったらまた考え直そう。


「ふんぬ〜…」


そうやって闇雲に念じると、あっさりとよく見る「アレ」が目の前にポンっと出てきた。


そうステータス欄だ。


「おお〜…これがかぁ…」


ほぼ確信に近かったが、これを見て100%納得した。これから、僕の異世界転生者としての人生が始まるということを。


早速ステータス欄にざっくりと目を通す。


「流石は異世界転生…文字は謎だが、なんとなく書いてある意味が分かってしまう…」


幸先のいいスタートだ。文字もわからない、言葉も通じないとなったら最初から詰んでるようなモノだ。これはありがたい。


で、肝心のステータスは…





「お……おぉぉぉ!!!嘘だろ!?」


そこには見ているだけで至福と言わんばかりの、素晴らしい内容が記されていた。


なんと値が99999999999!


それもたった数個ではなく、何十、何百とある様々なステータスにおいて99999999999という値を叩き出している!


これは間違いない!僕は「無双系」の主人公となったんだ!


「……やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


僕は前世では出したことのないような凄まじい叫び声をあげ、歓喜した。


先程述べたように無双系は本当に楽な作業ばかりだ。立ち回りなどあまり考えなくていい。


後は身を任せるだけ。思う存分力を発揮すればいいのだ。


「とりあえず、どこかに村でもありそうだし散策するか。」


そう、物語は何かに遭遇しない限り始まらない。とりあえず、無難に村でも探してこの世界のことについて聞くのがベストだ。


そんなことを考えながら、僕は一歩足を踏み出した。


素晴らしき異世界転生ライフを送れる。もう何も恐れることはないんだ。


そう思った矢先であった。









「ガルルル………」


「…っ!?」


背後からの異様な音に気付き、振り返ると、そこにはティラノサウルスによく似たモンスターが現れた。


「…まぁ、そういうことだろうね。」


僕は一瞬驚きはしたが、瞬時にその場の状況を理解した。


そう、今まさにこの状況は異世界転生の無双系における最初のイベント。モンスター討伐イベントに遭遇してるのだ。


もしこの世界のストーリーがコテコテのテンプレならば、このモンスターを倒した暁には、一部始終を見ていたヒロインに村を案内され歓迎されるという展開になるだろう。


「よし、とりあえずやっちゃいますか…ね?」


適度な煽りも加え、身構える。


能力自体まだ使ってないので多少の不安はあるが、先程ステータスを見た時のように心に念じればきっと何かしらができるはずだ。


「グルル…ガァルルァァァァァ!!!!」


モンスターは、咆哮を上げると同時に僕の方へ突進してくる。もう逃げても間に合わない距離まで来ている。


「よし、とりあえず無難な炎魔法でも出してみようかな…」


僕は両手を前に押し出し、心の中で強く念じ始めた。頭の中でもイメージし、巨大な炎が両手から放たれるのを完璧に捉えた。


「よし、出でよ!炎!」


そう唱えた瞬間、僕の両手からこの草原全体を焼き払ってしまうくらいの巨大な炎が噴出され、モンスターは火だるまとなった!………










はずだった。








グチャッ!









僕の両手に変化は起きず、そのままモンスターに踏み潰されてしまった。



続く…




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