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聖女、吟遊詩人と共に結界を目指す

 カルミネは巫女たちが浄化してくれた元の服に着替える。

 信者に聖職者だらけの神殿で派手な服は目立つが、このほうが吟遊詩人らしくて、自分らしいと自負してみる。

 服を着替えて出て行ったら、神殿の出入り口でアンナリーザが錫杖を携えて立っていた。先程とあまり変わらないように見える。

 ……昨晩戦っていた騎士や神官たちは全員交代して眠りに行ったのに、彼女はもう起きて活動している。

 傍から見ていると、とてもじゃないが命を削って国の結界を張り続けているようには見えないくらいに、なにも変わらないように見えるが。それでは聖女の味方をしている巫女たちや神官たちがあれほどカルミアに対して塩対応は取らないだろう。


「ええっと、聖女様。お待たせしましたー」

「あら、服着替えたのね」


 アンナリーザがきょとんとした顔をしているので、カルミネは「ははは」と笑う。

 神官の出入り口の棺のバリケードを、騎士たちがせっせと移動させている。


「アンナリーザ様、お気を付けて」

「本当にお気を付けください」

「わかってます。それじゃあカルミネ、行きましょう」

「ふぁ、ふぁい……」


 弱体化しているとはいえど、リビングデッドの徘徊している聖都を再び歩き回りたくないが、彼女も騎士たちも有無も言わせない以上、行くしかなかった。

 そもそも戦闘技術がなにひとつないカルミネは、逃げるかアンナリーザにすがる以外に、生き延びる術などなかった。

 今更ながら、聖都ルーチェに入ったことを後悔していた。


****


 本来ならば白亜の美しい街並みも、人が歩いていなかったらただのゴーストタウンだ。

 リビングデッドたちが我が物顔で、ときおり店番しているのが見え、そのたびにアンナリーザとカルミネは、走って逃げていた。


「そ、れで……聖女様は、いったいどうして結界のほうの様子を見に行こうなんて……!? そんな危ないところに行かずとも、神殿で籠城してればいいでしょ」

「そうも行かないわよ。現状がなにも変わらないもの。国から見捨てられたからと言っても、聖都から脱出できなくなっても、私たちは生きていかなきゃいけないんだから」


 既に息が切れている運動不足なカルミネと違って、アンナリーザは息切れひとつない。

 鍛え方や心構えの問題なんだろうか、とカルミネは首を捻っていると、アンナリーザは言葉を続ける。


「今はまだ国中から届いたお布施のおかげで備蓄があるけれど。あれだけの信者を養っていたら、一年も持たない。あと数か月で切れるのよ。聖水が切れたときは、それが原因で混乱して神殿から飛び出してリビングデッドになってしまった人たちだっていた。だから結界の外に脱出できるなら、女子供たちから順番に聖都から出さないと駄目なのよ」

「そんな……」


 聖水があったなら、たしかにリビングデッドは浄化しきれる。もうリビングデッドを倒すことができないと知ったら、そりゃ混乱に陥るだろうが。

 結界から出られないということを忘れての発狂は、たしかに無謀とか蛮勇とかいうものだ。

 カルミネは「あー……」と唸った。


「自分の聞いた話だったら、聖都は聖女様がおられるから、今は聖都の民も耐えている。祈りを捧げましょうーっ的なことを王都の姫君がおっしゃってましたよ」

「出すもん出さなかったらいくらでも言えるわよね、そういうこと」


 アンナリーザの切って捨てた言動に「そりゃそうだな」とカルミネも思う。

 自分が聞いた話と聖都の現状は、大分異なるのだから。

 カルミネは言葉を続ける。


「だから、今は結界の向こうから応援しよう~……みたいなことになってますけど」

「……ちょっと待って。結界の向こうから応援って、なに?」

「結界を張っている王宮魔術師たちに、魔術師の魔力を定期的に回復できるアイテムで、聖都に張り巡らせた結界を維持していると」

「……そのアイテム! それ、どんなものだったかわかる!?」


 アンナリーザがそれに大きく食いついた。

 それはそうか、とカルミネは思う。元々魔力が枯渇しているアンナリーザは、さらに一日呪文詠唱ができなかったら、この聖都一帯のリビングデッドを浄化しきれないのだから。

 もしそんなものを王宮がばんばんと使っているとなったら、ひとつくらいよこせと思ってもしょうがあるまい。

 カルミネはどうにかして思い返す。


「ハーブとかではなかったですよ。なんか円盤みたいなものに触れて、定期的に魔力を回復してたみたいです。俺もたまたま王宮魔術師たちが交代するときに人がいなかったから結界を通り抜けられたようなもんで、そこまでしか見られませんでしたけど」

「ああん、それ! 王宮の重宝じゃない! 本当に王宮魔術師は国から贔屓されてる! うちは信者がいるからいいじゃないって、魔力供給のアイテムとか一切合切もらえてないんだから! 魔力がなかったら、仕事ができないじゃない! 魔力がなかったら結界だって張れないし、浄化だってできないし、死者を眠らせることだってできないのに! 本当にずるい! 王宮魔術師ずるい!」


 アンナリーザがものすごくヒステリックに声を上げるのに、カルミネは呆気に取られた顔で見ていた。

 聖女様聖女様と持ち上げられながらも、なにも補償されないことに、相当ストレスが溜まっていたらしい。

 しかし。カルミネは思わず口にしてみる。


「でも、聖女様……そもそも結界のほころびなんか見つかるんですかね? 俺もたまたま人がいなかったから入れたようなもんで、結界のほころびがあったら……」

「ああ、多分あのブラック国王のことだから、聖女の私がうろついていたら、結界の外に連れ出そうとするから」

「え?」

「不幸な事故があったとかで、何度も何度も聖都まるごとひとつを、ならしたがっていたからね、あのクソ……国王」

「言っていますよね? もうクソって言ってますよね?」

「とにかく、私が結界の近くに行けば、なんらかのアクションをするはずだから、その際に結界の外に出て、どさくさに紛れて重宝をいただく。そうすれば皆、魔力にも困らないから、もうちょっとリビングデッドの浄化もはかどるはず」


 アンナリーザが鼻息荒く言う。

 そう簡単に上手く行くんだろうか。カルミネだってそれくらい思うが。

 はっきり言って、リビングデッド対策は現場で浄化して回っていたり、物理で退けている神殿側のほうがよっぽど上手くできているし。

 それに対して国がやったのは、聖都全体に結界を張って、魔力も使い放題で結界を維持することなのだから、お茶を濁しているだけでなにも解決していないのだ。

 気持ちだけでどうこうできるとも思わないが、アンナリーザのほうを信じたいと、カルミネはそう思うことにした。

 しかし。

 そこでふとカルミネに疑問が浮上した。

 どうしてそこまでお茶を濁して、聖都を滅ぼしてしまいたい王都は、アンナリーザだけは確保したいのだろう?

 ルーチェがなくなってしまったら、国内の信者たちの心証が悪くなるのは目に見えているのに。

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