4話 精霊チーチとお店屋さん
パンケーキをおくのにちょうどいい出窓にお皿をならべる。いろんないろのお皿をならべたからとってもきれい♪
だいまんぞくで見てたけど、ぼくは思いついた!
「お花も飾っちゃおう♪」
いつでも開きっぱなしの扉からお外にでる。
「チパチパお花♪ チパチパチー♪」
スキップしながら行けばすぐ森につく。
しゃがみこんで……どれどれ?いた!
「妖精さん、お花さんくーださい♪」
「どうぞ〜」
「何色がいいの〜」
お花をベッドにしてた妖精さんたちが、ぼくの顔までププププと飛んできた。
「ピンク? オレンジ?」
「紫も白も可愛いわよ〜」
「いっぱいほしいの!」
両手をひろげていっぱいをして見せる。
「いっぱいね〜」
「私たちが選んであげる〜」
ぼくがやったみたいに妖精さんも両手をひろげてクルクルまわると、森のお花がふわぁ〜って飛んできた。
すごいすごい! ぼくだけじゃ持ちきれないくらい!パチパチ拍手してたらお花がぐんぐんこっちにくる。
「わぁ! お花にうまっちゃう!くすぐったいよう」
「お花のお洋服〜」
「オベロンさまみた〜い」
お花がぼくの体にくっくいてお花まみれ! しっぽもおみみもお花がさわさわツンツンしてくる。
妖精さんがクスクスわらうけど、ぼくはくすぐったくてわらっちゃう。
「うふふっやーだ! ふきゅきゅっとってぇー」
「妖精の祝福か?」
ぼくの体がひょいって浮いて足がぶらんって宙吊りになった。
うしろからイアスが両手でもちあげたみたい。
「ただのお洋服よ〜」
「すぐとれちゃう〜」
「そうか。では払っても良いな」
イアスがぼくを腕に乗せてやさしく体をなでてくれる。そうしたらお花がひらひらとれた。くすぐったいのがなくなって、ひとあんしん。
「はふぅ。ありがとう」
「早く気づいてやればよかった」
笑いすぎてなみだが出ちゃったのも拭いてくれる。眉毛をさげてぼくの頭をなでなで。
気持ちよくておおきい手に頭をすりすりした。
「ごめんねチーチ〜」
「いたずらしすぎた〜ごめんなさい〜」
「いいよぉ」
妖精さんたちがごめんなさいしてくれたので仲なおり!
お花のなくなったしっぽもピコピコうごいた。
「花をどうするのだ?」
「あのね、お皿を飾ろうとおもったの」
「お皿〜?」
「どこのお皿〜?」
あっちだよって出窓をゆびさす。
そうしたら妖精さんがクルンとまわってお花を浮かせた。そのままお花といっしょに家まで飛んでいく。
「パンケーキが焼けた。私達も家に戻ろう」
「うん!」
ぼくを抱っこしてイアスが歩く。ずんずんって揺れるのがたのしい♪
「イアスの抱っこたかいたかーい♪」
「フフ、私の歌か?」
「そう! おおきくてかっこいいってイアスのおうた♪」
「そうか」
「イアスはおおきいー♪ずんずんずんずん♪」
イアスはおおきいからすぐに家についちゃった。
部屋にはいるとビックリ!
「パンケーキがぷかぷかしてる!」
「ああ、冷めないように魔法で包んでおいたのだ」
たくさんのパンケーキがお部屋のなかにぷかぷか浮いてた。湯気をだして焼きたてみたい。
「おいしそうだねー」
ほっぺに手をあててほわーとしちゃう。
「チーチできたわよ〜」
「みてみて〜」
妖精さんによばれて出窓をみるととってもカラフル♪
たくさんのお花が飾られててお花の窓みたい!
「わあ!とってもきれい!」
「頑張ったわ〜」
「きれいでしょ〜」
「妖精さんありがとう」
「ではパンケーキを乗せようか」
イアスが指をふるとパンケーキがいっせいにお皿へ飛びこんだ!
ぽむぽむぽむっ ぽむっ
四段重ねになったパンケーキ!
きつね色のパンケーキにきれいなお花。お部屋じゅうにいい香りがしてる。
お外は晴れててとってもきれい。
「おみせやさん、はじめまぁーす♪」
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前時代の遺物。
おそらくは住居であっただろうそれ。外観は我々の住まう家とはやや設計がちがい、経年のせいか植物は侵食し、屋根も崩れて吹き抜けになっている。
しかもいまや高濃度の魔力を帯びた遺跡となっているので、はたして家と呼んでよいものか。
そこに私は住むことにした。
不便はない。魔力により結晶化した家具、ランプいらずの光る花、雨や風は結界でも張ればいいし、濃い魔力も賢者にとっては問題ない。
なによりもここは、精霊チーチの遊び場だった。
念願の「おみせやさん」開店日。
私はパンケーキを焼いていた。レシピはチーチから教えられた通りだ。
「チパチパお花♪ チパチパチー♪」
皿を用意していたチーチが歌いながら外へ向かった。子鹿特有のしろい斑点をつけた後ろ姿に、つんとした短い尻尾を機嫌よく跳ねさせて。
焼きあがったパンケーキは保温の魔法をかけて宙に浮かせ、とりあえずとした。
しばらく後にチーチが妖精にからかわれるという事件があったものの、無事に「おみせやさん」が開店した。
「パンケーキひとつくださ〜い」
「はいっどうぞ♪」
最初の客はさきほど花をくれた妖精だ。わざわざ外へ出て出窓のむこうから声をかけて来る気の使いよう。
対してチーチは出窓から乗りだし、皿ごとパンケーキを渡しているがやや爪先立ちだ。身長が足りないのか。
花の妖精一組をさばき、客が絶えた。
チーチは出窓に両手をかけ、鼻歌を歌いながら外を眺めている。
私は扉から外へ出た。家を周りこむとすぐに花で飾られた出窓がある。すぐそばの切り株では妖精たちがパンケーキを食べているようだ。
「あっイアス! いらっしゃいませ!」
満面の笑みのチーチが出迎えてくれた。
「パンケーキをひとつ、ください」
「はぁいっどうぞ♪ おいしいですよ♪」
「ありがとう」
「えへへ!」
皿を受けとり家のなかへ戻る。
チーチがこちらを振り返ってニコリと笑った。
「ぼくも!」
出窓から離れて外へ走っていく精霊。私はパンケーキののった皿をテーブルへ置き、店番をすべく出窓へ。
チーチが家の角からひょっこり現れ私の顔を見て駆けてくる。
「あっ!みえない!」
出窓の下まで来たが、家の段差によってかチーチの額までしか届かないようだ。驚いた気配が伝わってきて、私が身を乗り出すと上を向いてニコッとした。
「おみせやさん! パンケーキください!」
「どうぞ」
小さな手が皿を落とさないよう、ほんの少し魔法をかけて窓越しにわたす。
「うふふっありがとう! イアス、イアス、みんなでお外で食べよう♪」
「ああ、待っててくれ」
「うん!」
テーブルの上の皿をとって外へでた。天然の芝生に座って待つチーチとパンケーキを食べるために。