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イレギュラー

当初予定していたものとは違ったものの、ベリルとの出会いを何とか果たし、ローズの初恋イベントを起こして私は喜びの中にいた。


そして、その予定とは違ったことから発生した、更なるローズとベリルの仲の発展となりそうな"ベリル家訪問”に意気込んでいたのだった。


そう、数十分前までは……


______________________


今、アクアは目の前にいる人物を見て、驚愕の表情を浮かべている。


__なんで、お前がここにいる!?


こうなるまでの話をしよう。


_______________________


ベリルの案内で、防具屋に移動した。ベリルの父が営んでいる防具屋の裏手には扉があり、そこから入って階段を登ると、生活スペースが広がっていた。


1回は店、2階は家になっているようだ。

防具屋から入って奥まで進んで、カウンターの向こうの階段を登っても家には入れるらしいが、お客さんがいる前ではそれはしないように言われているそうだ。


2階は、階段を登ってすぐ、家族でくつろぐような部屋だったが、その奥に廊下が続いており、扉が寮側に1つずつついていた。どうやら個人の部屋は2部屋のようだ。


ベリルは父と2人で暮らしている設定だったのでおそらく、2人ともそれぞれに部屋を持っているのだろう。


ベリルの母親は早い内に亡くなっており、2人とも料理が得意ではないので、食事などは近くの食堂でとっていたはずだ。そのためか、1階にあった台所は防具が置かれ、ほぼ物置のようだった。


ベリルの部屋は、丸テーブルが1つ置かれているだけで、家具という家具はあまり置かれていなかった。しかし、本や剣が幾つも置かれていて、物寂しい感じはなかった。


「そこの丸テーブルの辺りに座ってくれ。」


ベリルはそう言うと丸テーブルの上に置かれていた本を別の場所に移動させた。

ベリルに促され、丸テーブルを囲むように私達は座った。


「さて、まずは自己紹介でもするか。本名じゃなくていいぞ、そこの外套のは貴族だろうし、お嬢さん達もいい所の人だろうからな。なんて呼べばいいかだけ言ってくれ。」


外套の少年は少し驚いた顔でベリルをみて、「ヴィル」と名乗った。確かにベリルの今の発言は普通の平民が出来る配慮じゃない。


「なんだよ?」


「いや、随分と貴族への気の利かせ方を分かってるなと思ってね……」


ヴィルが驚きの表情を浮かべたことを変に思ったのか、ベリルが訝しげにヴィルを見返す。

私もヴィルの言葉に頷くと、ベリルは私達の様子を見て、納豆した表情を浮かべた。


「別に、ただ知り合いの司書が元商人で、そいつから色々教えられたんだよ。」


「ふーん。」


ヴィルは、ベリルの返答に興味の無さそうな反応をしたが、その目は納得出来ないと言っているような気がした。

確かに、そんな司書は珍しい。でも、ベリルが嘘をついているようには見えないし、1度その司書と話をしてみるのがいいかもしれない。


でも、これ以上よく分からない司書のことを話していても進まないので自己紹介を続けることにする。


「私は、アクア。妹はローズ。です。」


偽名を使おうかと思ったが、知らない男に襲われた時にローズの名前を何度か叫んでしまっているのでそのまま言うことにした。

自己紹介が終わるとヴィルは急かすように、ベリルを見た。


「で、僕に話って?」


「ああ、あんたさっき雷魔法を使ってたよな?その複属性魔法の使い方を教えて欲しいんだ。」


「……?平民の君が知ってどうするの?平民なら4大属性魔法で十分なはずだけど。」


ヴィルはベリルの頼みを聞いて疑問に思っているようだ。それはローズも一緒だったが、私はゲームの設定を知っているので納得していた。


そもそも4大属性、複属性魔法とは何か。

4大属性魔法、それは火、水、風、大地の4つのことで、

複属性魔法は、氷、雷、治癒の3つのことだ。


使える魔法の属性は産まれた時に決まっているのだが、複属性魔法の適正を持つのは貴族だけだ。

そして、もう1つ貴属性魔法とも言われる光魔法、これは王族のみが使える。


つまり、4大属性しか使えない平民のはずのベリルが複属性魔法のことを聞くなんておかしいのだ。


しかし、ゲームの設定上、ベリルは光以外の全ての属性が使えるという、稀な存在だ。


4大属性と複属性の魔法の使い方は違うため、街にある本では分からなかったベリルは目の前に現れた雷魔法の使い手ヴィルにその使い方を聞きたいのだろう。


それを知らないヴィルは意味が分からないといった感じだが。


「俺は、確かに平民だが複属性魔法の適正を持ってる。」


そう言うとベリルは右手テーブルの真ん中当たりに移動させ、「氷よ……」と呟いた。


ヒヤリと冷たい空気がアクアの頬を撫でる。

ベリルの手のひらの上に白い煙のようなものが集まっていく。しかしそれは、氷の塊になったかと思うとバキッと音を立て崩れてしまった。


ヴィルは崩れた欠片を手にとった。その欠片をヴィルの手に触れた所から角がとれ、少しずつ水になっていく。氷だった。ベリルの魔法は失敗したが適正を持っていることは十分に伝わった。


「なるほどね。これは……厄介だ。」


ヴィルは落ち着いた口調だったが、声色は驚きを隠せないようだった。

本来なら、貴族しか使えないものがベリルに使えてしまったのだから当然だろう。


「君、このことは誰にも言わないでね。命を狙われる可能性だってあるし、国が混乱する可能性がある。もしかしてもう言った?」


「いや、まだ誰にも。」


「そう。なら、言わないで。君のことは国が対応する。複属性魔法の使い方はいずれ教えることになるだろうから、今はまだ待ってて。」


そう言って、重苦しい空気が漂う中でヴィルは外套のフードを脱いだのだった。


_______________________


さて、ここで最初に戻ろう。


フードを脱いだヴィルの容姿は、天使のようだった。眩しいほどの金髪はふわふわとしていて、毛先が僅かに朱色に色づいている。瞳は、真っ赤でそう宝石で言うのなら、ルビーのようだった。もう1度、重要なことを繰り返そう。宝石、ルビー。

さて、ここでこのセリフ。


___なんで、お前がここにいる!?


攻略対象の1人、ヴィランティア王国第一王子、ルイ・ヴィランティア・モート!


ローズとベリルが出会うだけのイベントのはずだから、こんな所にルイがいるのはおかしいのだ。


ヴィルの姿を見て、ルイだとわかったのはおそらくアクアとローズだけだろう。貴族の令嬢、令息ならば王子の誕生日にお茶会に招待されるからだ。

しかし、平民のベリルは王子に会う機会はないため、まだ分かっていないようだ。


ルイは、ベリルが分かっていないことに気づくと、先程、氷魔法を使ったベリルと同じようにテーブルの真ん中に手を置いた。ルイの手のひらからふわりと柔らかな光が発せられ、その光は球状になるとふわふわ浮かび出した。

貴属性魔法、光魔法だ。


シーン


沈黙が流れた。アクア、ローズ、ベリルの3人は目を見開いて信じられないものを見たという顔をし、黙っている。


「王族として、君への今後の対応を約束するよ。複属性魔法の使い方は必ず教えよう。だから、君もルーデスト嬢達も僕がこの街に来ていたことは、黙っていてくれるかな。」


3人は黙ってこくこくと頷いた。衝撃のあまり声を出すのも難しい。


「まぁ、そういうことだから、今日は僕のことはただのヴィルとして接してよ。」


ルイは口調を少し楽にしてそう言った。

おそらく、他の3人の心はこの時一致していただろう。

いや、王子って分かったらそんな対応できねぇよ。と……



しばらく不自然ながらもその後の対応を話すと、とりあえず、その話は終わりということになった。


そこでアクアは、ルイの登場で忘れそうになっていたが、ローズとベリルの話す機会を作りたかったことを思い出した。


どうしよう。正直、出会いは果たしたからもういいかとも思うんだけど……いやでも家まで来てるし、ちょっとくらい機会を作った方が……


そんなことを黙り込んで考えていると、


バシャッ


いきなり顔が冷たくなった。


「「あ……」」


どうやら、少しでもと氷魔法の使い方を習っていたらしいベリルの魔法がまた失敗したようだ。まだ。水の状態だったのがアクアに飛んでしまったらしい。2人してやばいという顔をしている。いや、ベリルはそれどころではないかもしれない。真っ青だ。


「あの、これくらいなら大丈…」


「ベリルさん、少しお話があります。」


安心させようとした所でローズがベリルに話しかけた。非常にニコニコとしているが、なんだろう、背筋を伸ばしたくなる。そんな表情だ。


「お姉様、ヴィル様少し席を外して頂いてもよろしいでしょうか?」


ローズは有無を言わせない雰囲気だ。


「う、うん。」

「そうしようかな。」


私とルイは、一言発してベリルの部屋をでた。

いや、2人きりにしてあげたかったよ?でもなんか違くない?さすがにあのローズが初恋の相手と仲良く話そうとしているようには見えない。


「大丈夫かな……」


「まぁ、わざとではないからローズ嬢も手加減してくれるよ。多分。」


どうやら、心配が声に出ていたらしくルイから返事が返ってきた。

多分って、不安増長なんだけど。


その後、廊下に立っているのもなんだからと、家族でくつろぐような部屋に移動し、椅子を拝借して座った。

なんで、向かい側に座るのこの王子。

話すことなくて気まずいわっ!

何か、話題ないかな。あ、そうだお礼!


「あの、助けて頂いてありがとうございました。」


「ああ、さっきも言ったけど大したことは出来なかったから。気にしないで。」


表情や声色からもルイは本当に気にしていないようだ。


「ですがあの時、あなたが魔法を使ってくださらなかったら、ローズはあの人に掴みかかられて、怖い思いをしていたでしょうし……」


そう、あの時のアクアは、ベリルを待つあまりにローズを危険に晒す所だったのだ。ローズの恋を応援するのは確かに大切だったが、それ以前に危険な目に合わせてはいけなかったのに。


「でも、その後君が襲われそうな時、バレないように助けられないから何もしなかった。だから、そんなに感謝されることはないんだよ。」


「それは、あなたの立場上仕方がないと思います。それにローズが助かるなら怪我くらいなんともありませんから。」


それは、アクアの本心だった。確かに殴られそうになってかなり怖かったけど、怪我はなかったし、ローズのことも助けられたので結果オーライといった感じだ。


「君は……凄いね。他人のことをそこまで……」


そういったルイは眩しそうに目を細めていた。


「え……?いえ、そんなことないです。ローズだから、大事な人だからですよ。知らない人のために命をかけられる訳ではないですし……」


ルイが言っていることは大袈裟だ。ローズのためなら命を懸けて守るのは、前世からの推しで、不幸にしてしまった相手だからだ。まぁ言えないけど……


「そう。大事な人の為に体を張れ…………き…………だね。」


「え?」


ルイの声は小さくなってしまい聞こえなかった。聞き返すが、微笑むだけでもう一度言うつもりはないようだ。


その後何度聞いてもルイは教えてくれなかった。

しばらくして、部屋から出てきたローズはスッキリとした顔をしていて、ベリルは遠い目をしていたが、そちらも詳しいことは聞けそうになかった。





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