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アクアの交渉

「どうぞ、お入り下さい。」


セリアがそう言って、アクアの部屋の扉を開く。

入って来たのは、白髪に蒼い瞳をした雄々しい男性と、毛先の辺りが赤のグラデーションになっている桃色の髪に黄緑色の瞳をした儚げな女性だった。

ルーデスト公爵とその夫人、アクアとローズの両親である。


ちなみに、お父様の髪はもとはアクアと同じ黒髪だったが、その歳にしては若白髪で髪はほとんど白、薄く青みがかっているので、白銀に近い感じだ。

瞳の色もアクアのイメージとなっているアクアマリンのような蒼だ。


お母さまの髪色はローズが受け継いでおり、現在はまだローズの髪の毛先には赤のグラデーション は入っていない。瞳の色は受け継いでいるが、ローズの瞳はイメージとなっているローゼライト(ロゾライト、ピンクガーネットとも呼ばれる)華やかな、赤に近い薄いピンク色をしている。


ここで重要なのが、私もローズも両親とは違い"まだ”何色も混ざっていない元の髪や瞳の色であることだ。

この世界では、その人の持つ魔力が属性ごとに色として容姿に現れるようになっている。


主に髪や瞳が魔力の影響を受け、色が変化する。お父様は髪と瞳どちらも、お母様は髪だけ色が変化している。黄緑色の瞳は元からで、影響は受けていない。魔力が強いほど影響を受けるので、お父様は魔力が強いことになる。


私も、今はただの黒髪に近いが、ゲームが始まる頃には蒼を帯びてくる。ローズも今は、ピンク色の髪だが、お母様と同じように毛先が赤のグラデーションになる。2人とも瞳の色は既に変わっている。


「アクア……アクア?大丈夫?まだ意識がはっきりしないのかしら?」


「い、いえ、大丈夫です。体はもうほとんど痛くありませんし、意識もはっきりしています。

少しローズのことを考えていたんです。心配をかけてしまってすみません、お母様。」


部屋に入ってきた2人を見つめたまま固まったていたアクアに母、マディラは何度か声をかけた。

しかし、アクアが中々返事をしなかったため、怪我が酷いのかと心配していたようだ。


しまった。また、反応が遅れてしまった。

心配そうに目を向けるマディラを安心させるようにアクアは笑みを浮かべ、落ち着いた口調で丁寧に返事をした。

やっと返ってきたアクアの返答にマディラは安堵の表情を浮かべた。


"ちょっとローズのこと考えてた”この返答万能すぎないか。そんなに納得出来ちゃうの?

そりゃ私はできるけど……

今のところみんな納得してるよね。

若者の”それな"とか"まじか”感覚?やだそれ怖い。


「ほら、あなたもずっと心配していたでしょう?アクアもローズも元気そうで、怪我もなくて良かったわ。……あなた?」


マディラが声をかけるが、夫、カルセドニーは黙って眉間に皺を寄せたまま立っている。その雄々しい姿にアクアは威圧感を覚えたが、マディラは全くそれを感じないかのように微笑んでいる。


「お父様?」


あまりにも微動だにしないため、アクアも心配になり声をかけた。


「……」


カルセドニーは、アクアの声を聞くと無言のまま屁アクアの座っているベッドに近づいてくる。それに合わせてマディラも笑みを深めながら近づいてきた。

怖っ。父よ、なぜ何も言わない!

お母様はなんでそんなに笑ってるの?お父様さっきからあなたの言葉ガン無視してますけど!?


ガシッ!

「……無事でよかった。」


カルセドニーはアクアを骨が折れるのではないかというほど強く抱きしめた。突然の抱擁にアクアの体は大きくビクッと跳ねたが、それも気にせず、噛み締めるように言葉を紡いだ。


「ふふふ、さっきローズにも同じことをしていたのよ。ローズは涙目になっていたわ。」


お母様は笑いを堪えるように扇子で口元を隠し、お父様の行動を説明した。

そういうことかよ〜!無駄に怖かったわ。

そんな無口キャラじゃないじゃん、お父様!子供が危険な目にあうと、こんなに変わるのね!


そして、お父様からの熱い抱擁は数分続いた。


「あの、お父様?」

もう、良くない!?何分する気?

アクアは離してもらおうとカルセドニーに恐る恐る声をかけた。


「あ〜、悪かった。つい動揺してしまった。アクア、無事で何よりだ。ローズを守ろうとしてくれたんだってな、ありがとう。」


カルセドニーはアクアから離れると、いつも通りの人の良さそうな笑みを浮かべ、先程までの無言が嘘だったかのように話し始めた。

ホッ、やっといつも通り、設定通りのお父様に戻った。


本来、カルセドニーは良い意味で貴族らしくない。現王と幼なじみであり、仲が良く、公爵家の中でも高い地位にあるが、勘で生きているような人だ。しかし、その勘が良いため、領地の経営も上手くいっていて、とかなりのハイスペックだ。

だが、話し方はよほど公の場でなければフランクだったりと騎士の方が似合いそうな人なので、家族と話す時なんかは前世の雪乃の父とそう変わらない。異常なほど家族第一!という点は除くが……


「お父様、ローズの様子はどうでしたか?」


「ん?あぁ、アクアが守ってくれたおかげで傷1つなかった。転倒したことで落ち込んではいたが、元気だったぞ。」


「そうですか。良かった。」


良かった。ローズに怪我がなかったなら体を張った甲斐がある。

快活に笑う父からローズの様子を聞き、アクアは安心して肩の力を抜いた。


しかし、アクアには父としなければならない重要な話がある。そのため、再び肩に力を入れて気を引き締めた。

よし!ローズの無事も分かったことだし、街に下りる許可を貰わなきゃ。


「お父様、お願いがあるのですが……」


「アクアの頼みなら喜んで受けるぞ。なんでも言ってみろ。」


「今日は元々の予定通り、午後から街に下りる許可をいただけませんか?」


滅多にないアクアからの頼みに、カルセドニーは意気揚々と頷いた。しかし、アクアからの頼みの内容を聞くと、すぐに表情を曇らせた。


先程までカルセドニーのそばで聖母のような微笑みを浮かべていたマディラも困ったような顔をしている。からのグラスが乗ったトレイを持って整然と立っていたセリアもトレイを落としそうになって慌てていた。


「アクア……それは難しい。お前もローズも危険な目にあったばかりだ。明日ならまだ考えることはできるが。」


「はい。難しいことだと分かってはいるんです。でも、どうしても今日、街に行きたいんです。ローズはこのままだとせっかくお母様から貰った靴を履けません。調整のためにも靴の中に入れるクッション材のようなものを買いたいんです。」


「それは従者に頼もう。そうすれば何とかなるだろう?だから、今日は諦めるんだ。」


アクアは用意していた理由で説得しようとするが、やはり予想通りに他の人に頼むように言われてしまう。

くっ、難しいか。それなら奥の手だ。


「お父様、私、まだローズに誕生日の贈り物が出来ていないんです……今日贈ると約束したのに……

だから、できるなら自分で贈りたいんです!」


昨日約束したのは、男装令嬢になることだったけど誰にも言ってないし!ローズ第一主義の父ならわかるはずだ、ローズの約束を破ってしまう私のこの辛さが!

アクアは、その蒼眼でカルセドニーのことを見つめた。若い頃のカルセドニーを思わせるようなその眼には、強い意志が宿っていた。


「はぁ……護衛の数を増やして付ける。ローズのことを気にかけるだけではなく、自分のことも考えること。」


カルセドニーは、仕方ないというようにため息を吐くと、アクアに優しい目を向けた。


「では、いいのですか!?」


「あぁ。行って来るといい。楽しんできなさい。」


はっきりと許可が下りたのを聞き、アクアは喜色満面の顔になった。

やったー!これでイベントが起こせる!ローズ、初恋もすぐそこだよ!


「なら、私達はそろそろ部屋を出ましょうか。ローズにも護衛にも話をしなければいけませんし。」


「あぁ、そうだな。じゃあアクアまた後で。」


「はい!ありがとうございます!」


カルセドニーとマディラはもう部屋を出ることをセリアに伝えると、アクアに笑いかけてから扉に向かった。セリアが扉を開け、2人の姿は扉の向こうに消えた。


ガチャリ

セリアが扉を閉めるとすぐにベッドに向かってきた。


「お嬢様!何を考えてらっしゃるんですか!?街に下りるなんて……しかも今日って。」


「うん、ごめんね。セリア。どうしても今日行きたいんだ。」


セリアが物凄い勢いでアクアに問いかけるが、アクアは街に行くことを止めるつもりはないため、謝るだけだ。


「いいですか?絶対に大通りを通ってくださいね!そして、危険だと思ったらまずご自分を優先してすぐに逃げてください!あと……」


「分かったよ。だから落ち着いて、セリア、ね?」


セリアはまだ言い足りないようで、途中で遮られて頬を膨らませている。

何それ可愛い。アクアにこんな可愛いメイド、いや侍女がいたなんて。


「心配してくれてありがとう。」


アクアが笑いかけると、小さく息を吐きながらセリアは離れた。しかし、その後もしばらくは、アクアの部屋にはセリアの心配の声が響いていたのだった。


_______________________


「あなた、良かったんですか?街に下りる許可なんてだしてしまって。」


アクアの部屋を出て、廊下を進もうとするカルセドニーにマディラは問う。


「仕方ない。あんな顔をされては私には止められない。きっと何を行っても聞かないぞ、あれは。」


若干ため息混じりに言ったカルセドニーだが、その顔には喜びが現れたていた。


「ふふっ、幼い頃のあなたにそっくりでしたね。姉だからと大人っぽく振舞って、落ち着いていたけれど、意志の強さはあなたから受け継いでいるわね。」


マディラも嬉しそうに顔を綻ばせ、カルセドニーを見る。カルセドニーは少し照れたように頬をかいて、ふっと笑った。


「アクアのしたいことを、すればいいさ。それに意志の強さでいえば、君もだろう?マディラ。」


「あら、なんのことかしら?」


また、いつも通りに笑っているマディラにカルセドニーは敵わないという表情を浮かべた。


アクアの部屋の扉からは、あの侍女の声が響いてくる。2人はそれを聞いて、ローズの部屋に向かった。













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