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ローズの初恋1

自分が『Polir(ポリール)Bijou(ビジュー)』の企画をするまでを振り返って見たが、我ながらなんとも残念な役割決定だった。ローズには謝っても謝りきれない。そんな風に物思いに耽っていると、


ガチャ


「お嬢様〜、果実水を持って参りました。」


メイドのセリアがアクアの部屋の扉を開けた。手に持ったトレイには水のような液体が入ったグラスがのせられている。果実水だ。


「ありがとう。」

「いつも言っていますが、お礼などは仰らなくても良いのですよ?お嬢様のお世話をすることは私が望んでしている仕事ですから。」


笑顔でお礼を言うと、セリアはトレイにのった果実水を私にさしだした。確かに貴族の令嬢が召使いにお礼を言うのは変なのかもしれないが、前世が庶民であった雪乃はお礼も言わないのは気がひける。

アクアも以前からお礼を言っていたことが有難い。


「ですが、珍しいですね。お嬢様がローズ様から目を離してしまわれるなんて。ローズ様は少々抜けてらっしゃるからと、いつも段差があるところでは気をつけて見ていらっしゃるのに……」


「あはは、ちょっと考えることがあってね。でもローズに怖い思いをさせてしまったのはダメだったな。」


確かに転倒の衝撃で思い出したアクアの記憶によるといつもローズの周りは気にしていたみたいだ。

アクアは人気すぎてアンケートなんかがある度に追加で細かい設定がされてたからなぁ……

まさかここまでの過保護設定があったとは思わなかったけど。


「お嬢様が気に病まれることはありません。私共がつい気を抜いてしまっていた結果ですから。転倒の原因は今朝ローズ様が履いていらっしゃった靴に少しヒールがあったからのようです。」


「そうだったんだ。ヒールか……まだ早かったかな。でもローズに履かないように言ったら悲しむだろうな。」


ヒールは女の子からすると、憧れがあるものだろう。大人になれるような気がするからかなぁ、

実際は大人になると筋肉の付き方とかが気になって避けるようになったりするけど……

まさに夢見る年頃の女の子って感じのローズは、履けないってなったらショックだろうな。


「はい。それに、先日のお2人の8歳の誕生日に奥様から贈られたものですから、余計に履けないのはお辛いと思います。」


そっか誕生日プレゼントか。それなら余計に履きたいだろうな。

ん?昨日が8歳の誕生日?


何か引っかかるものを感じて、ゲームの記憶を辿る。

アクアの8歳の誕生日、その翌日に起こるのはローズの転倒ではなかったはず、もっと重要な……


思い出そうとしていたことが頭に浮かび、アクアは俯いていた顔をあげる。無意識にヤバイ……という声色で言葉がこぼれた。


「あ……」

「お嬢様?」

「ねぇ、セリア。昨日の誕生日でローズがお父様にお願いしたのってなんだっけ?」


冷や汗が背中を伝う不快感にアクアの背筋が伸びた。


「ローズ様が旦那様にですか?確か……

王子様がいたらいいのに……

ではなかったでしょうか。あれはお願いという感じではありませんでしたが、旦那様は本気にしてらっしゃいましたね……」


セリアは考える素振りを見せると昨日のローズのお願い、とは言えないようなつぶやきを思い出し、苦笑しながら答えた。


雪乃、いやこれからはアクアとして生きるとしているため、アクアと呼びべきか……


セリアのその言葉によって、アクアは思い出したものの若干の疑いがあった記憶に確信を持った。


「あぁ、そういえばお嬢様も少し本気にされて、手伝って欲しいと仰っていましたが、何のお手伝いだったのですか?」


やっぱり、そうだよね〜。

よりによってこの日に転生してしまうなんて最悪である。アクアとローズの8歳の誕生日、


その翌日は、アクアが男装令嬢となる最初の日だ!


先程までのセリアとの会話からも分かるように、誕生日にローズが小さく口にした、お願いとは言えない叶わないと分かって夢見る願望をローズの父、そしてアクアは真に受けてしまう。


その結果、父は王太子との婚約の話を持ってきて、アクアは男装をすることでローズの王子様を演じ始めるのだ。


本来ならば、誕生日の翌日である今日、アクアは朝から腰の辺りまで伸びた髪を肩ほどまでに切り、ローズの王子様になっていたはずなのだ。


しかし、夢だと思っていた雪乃がアクアとして行動したため、髪は長いままである。

しかし、アクアの男装はまだセーフだ。今日の夜にでも切れば誤差の域になるはず……


そんなことよりも重要なことが今日はあるのだ。

誕生日にローズが王子様がいたら……といったのに対し、アクアは街に下りる許可を父親にお願いした。

その願いは叶えられ、今日の後からローズとアクアは街に下りることが許されたため、2人は街を見て回る。


そこで起こるのが、ローズの初恋である!

ローズの初恋の相手は、街の防具屋の息子のベリルである。ローズとアクアは街を見てまわる途中、悪戯心で護衛を巻いてしまう。その後に運悪く2人は妙な男達に絡まれてしまう。ベリルはその時に、2人を助けてくれる。


護衛が役立たず過ぎでは?と思うかもしれないが制作側としてはそこはご都合主義だと思って欲しい。


助けてくれたベリルにローズは恋するのだが、この恋がローズが悪役令嬢になる原因となる。

実は、ベリルは平民だが魔法を使える珍しい人物だ。ここまで言えば、分かってしまうかもしれない、そう攻略対象の1人である。


しかし、なぜそれでローズが悪役令嬢に?と思うだろう。前世の雪乃の失敗により、ローズを悪役にしなければならなかったので、主人公がベリルを選ばなかったとしても、ローズの恋は実らない。


その理由は2つある。

1つは、身分の差。ローズは貴族の中でも最上位の公爵家であるので厳しい。

ローズもアクアも女の子だから、基本的には貴族の婿入りが不可欠ってことだ。

もう1つは、誕生日のローズの言葉から父親がローズを第1王子の婚約者にしてしまうことだ。


ローズはこれらの理由からベリルへの恋を諦めなければいけなくなり、その悲しみ、主人公への嫉妬などから、最終的に悪魔に魂を売って主人公達に倒されてしまうという結末である。


しかし転生した今、ローズがそんなことにならずにベリルとの恋が出来るようにするため、アクアは出来るだけのことをしたいと思っている。前世から推しているのだから、もう自分の身を捧げる覚悟である。身分の差は後継者の問題を解決すればいいため、アクアが領主になるのが早い上に、確実だろう。


だが、問題はもう1つの方だ。ゲームの設定で今日は、父が婚約を取り付けに行くことになっているため、もうどうしようもない。

打つ手なし、最悪だぁ……どうすれば、

アクアは必死に婚約の対策を考える。しかし、それはセリアの声で遮られた。


「……様、お……様、お嬢様!」

「はいぃ!」


「ぼーっとされてどうしたんですか?もう少ししたら旦那様と奥様が様子を見に来られるそうですよ。」

「あ、ごめん。ローズのことが気になって……」


対策を真剣に考えるあまり、セリアがずっと呼んでいたのにも気づかなかった。大声で呼ばれて情けない声が出てしまったが、ローズのことを考えていたというとセリアは戸惑いながらもうなづいてくれた。


企画の時に質問に答えるために言葉で逃げるのは鍛えられていたが、こんなところで役に立つとは。

まぁ大したこと言ってないけど。


「……ん?ねぇセリア、お父様はこの屋敷にいるの?」

「はい、いらっしゃいますよ?ローズ様とアクア様がこんな状態ですから、非常に心配していらっしゃいます。」


お父様がまだ屋敷にいる。転倒したのは朝だからもう王宮に行ったということもないはずだ。手紙などがあるからまだ正確ではないが、ローズと第一王子の婚約は決まってないかもしれない!


アクアとローズの階段からの転倒。

これは、雪乃がアクアに転生したから起こったイレギュラーだ。おかげでローズの悪役令嬢の要因のもう1つを潰せると思うと、この日の転生で良かった。


よし!お父様が来たら確認して見よう。

ひとまず落ち着いたアクアはまだ1口しか飲んでいなかった果実水を飲み干した。

記憶を思い出して色々と考えていたからか、思ったよりも頭を使っていたようで果実水はとても美味しく感じた。


アクアは、気分が落ち着いてから再び考え始めた。それは今日街で会うはずだったベリルのことだ。主人公のものではないが、ある意味、1つのイベントであるため、日が変わってしまうと、状況が変わってしまうかもしれない。

できるなら、今日街に下りてイベントを起こしたい。


まだ、お昼にはなっていないし、上手く説得出来れば、予定通りにイベントを起こせるかもしれない。貴重なローズの初恋イベントだ。自分の推しに好きな人がいるというと、応援はしづらいが、推しの幸せが第一なので、出来るだけ叶えてあげたい。


ローズが悪役令嬢となってしまった原因が前世での自分の失敗であるから余計に、自分の気持ちでローズの幸せを奪ってはいけない、と思う。アクアはそんな使命感にも似た気持ちを抱いた。


でも、どうすれば街に行けるかな。まだ少し痛みはあっても、動くのは問題なさそうなんだけど……

セシルは体を起こそうとしただけでかなり慌ててたし、中々説得が難しそうだなぁ。大きな怪我はないって医師は言ってたみたいだし、それは主張するとして。


護衛を巻かなくてはいけないことを考えると、護衛がいるから、はもはやフラグだし……後が怖そうだ。

そうだ!ローズの靴の調整のために必要なものを買いに行くって言えば、何とかなるかも。


ローズが誕生日に貰った靴を履けないのはみんな可愛いそうだと思うだろうし、そこを突けば子煩悩で愛妻家のあの父はいける!はず!

他の人に頼まれそうになったら、もう全力でお願いをするしかないな……


「お嬢様。」


本日、何度目かと言うほど傍から見れば、ぼーっとしていたアクアにセリアは声をかけた。


「旦那様と奥様がいらっしゃいました。」


ついにローズの幸せのための第1関門である。

そう意気込んでアクアはセリアが開けるドアを見つめた。



_______________________


今回は説明がかなり多くなってしまいました。

読みづらかったらすみません!


次回はついにアクアの両親登場です。どんな人物なのかご期待ください。








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