初めての稽古(笑)
第一章
初めての稽古(笑)
ここ、龍人の国ドラグメイト王国の最も東に位置する山の麓の里に一人の男の子が生まれた。彼の名は「アポロ・バルミュット」。その里の長である「ジーク・バルミュット」と、その妻「ルミナ・バルミュット」の間の子である。
オギャアオギャアという鳴き声が辺りに響いた。
(は、なんでだ。鳴くのが止められねぇんだ。)
そして、アポロはふと思い出した。
(あ、俺転生したんだ。そうか、赤ちゃんになったんだ。)
彼は、辺りを見回した。すると、そこには人の姿をしているが、龍のような角や尾、羽を持った、者達がいた。 また、自分を抱えていた人もそうであった。
(あーー・・・・・・俺、龍人に転生したんだ。)
6年後
あの里の近くの山を駆け回り、木々を縦横無尽に渡り、空を駆けるひとつの影。その影をよく見ると、髪は黒色で、背丈は六才ぐらいの平均、そして、黒色の角や尾、羽(意識すると、体内に戻し、人と同じ姿になる)を持っている。そう、彼こそが「アポロ」だ。
(あ、やべぇ最高。人であった時より、動きやす!)
そう思いながら、転生前の忍としての動きを呼び起こそうと枝から枝へ次々に飛び移っていると、大太鼓を耳元で鳴らされたような大きな声が山に響き、辺りの空気を震わした。鳥たちはその声に驚き、一斉に大空へと飛び立った。
「おーい、アポロ。どこいった。早く戻ってこい。」
アポロはその声にどやされ、家へと風を切りながら、全速力で飛びジークの前に降り立った。息を切らすこともなく、気さくに声を掛けた。
「只今、父さん。なにかな?」
(あれ、なんかやらかしちまったかな?)
アポロは少しの間、最近の父との会話を思い起こしながら、ジークの言葉を待った。
「おかえり、じゃねぇーよ。アポロ。今日から、稽古やるぞって言っただろうが!」
(はぁぁー、言われてないんだけど。え、まじか、マジ逆ギレしようかな。でも、疲れるからいいや。いつものことだし。)
アポロは心の中でこんなことを思いながら呆れていた。だが、彼は心に留めることができてなかったらしく、言葉に漏れていた。
(そんなこと思ってたのか。やばい、そういえば、昨晩言うの忘れちまった。ごめんな。)
一瞬の沈黙がそこにはあり、二人は心の中でそんな会話をし、互いに誤りあった。そして、ジークは苦笑いを浮かべながら、バツが悪そうに空を見上げた。
「親父、稽古つけてくれるんだろう。よろしく。」
彼は何もなかったように、気軽に声をかけ、さっきのことを蚊ほども気にせず、流した。
(まあ、剣の稽古ならいいや、前世で培った剣の腕前がどこまで通用するか、知りてーし。)
「ありがとうな、アポロ」
ジークはボソッと聞こえるかか聞こえないかの程度の声で、感謝を述べた。そして、彼の顔は、赤くなりつつも、息子の優しさに包まれたからか、それとも、子の成長を間近で見れたか、分からないがどことなく嬉しそうであった。
そして、やる気に満ち溢れ、テンションを高く、一つまた一つ次々に早くなる鼓動とともに、声を張った。
「じゃあ、やるか。まずは、お前の実力を知りたいし、摸擬戦をやるか。」
(え、マジで最初から模擬戦、最後に確認としてやるんじゃなくて。)
アポロは驚きを隠せず顎が外れたかのように口を開けて立っていた。その一方、ジークは当たり前のように右手に持っていた二本の木刀のうち一本をアポロに手渡した。そして、もう一方の木刀を両手で軽く握り、構えた。その後、まだ準備に取り掛かっていなかったアポロに優しく声を掛けた。
「何してる?早く構えなさい。やるんだろう。」
アポロは受け取った木刀を、言われるがままに構えた。
(あー、もー、やるしかねーか。)
と心の中でボヤキながら、深く深呼吸を行い、心を清らかにし木刀を構え直した。「さすが。」と言わんばかりにとてもしっくり来ていた。久しぶりの摸擬戦に興奮する気持ちを押さえつけていた。彼から発せられる空気感はとても研ぎ澄まされた光輝くサファイヤのようで、凄まじい圧迫感さえも感じさせる程であった。それを感じ取ったのか、少しだけ、ジークが木刀の握りを強くしたのを見過ごさなかった。
静まり返った空気と、爽やかに人の背を擦るような易しいそよ風が二人を包む。そんな中、一枚の葉が木々の隙間を潜り二人の上をゆらゆらと舞いながら地に落ちた。
次の瞬間、アポロは引いていた足に力を込めて地面を思いっきり蹴り、ジークとの距離を一気に詰めると同時に上段に剣を振り上げ、ジークの隙きを付く。それはジークがアポロに作る最初で最後の隙であった。
ジークはアポロから発せられる異様なオーラを感じ取り、身構えた。たが、彼の中には子供だしと高を括り、下に見ていたのだ。それが仇となるとは、微塵も考えていなかったし、知るところでもなかった。
想定していた速さよりも数段速く距離を詰められ、懐に入られるジーク、彼は振り下ろされる剣を咄嗟の反応で剣にて、防ごうとする。だが、意表を突かれたことにより、態勢を崩してしまっていた。そのせいで、剣の握りが弱まり、容易く弾かれてしまう。
そして、此処ぞとばかりに流れるように二撃目を繰り出そうとしたが、流石村の長と謂わしめる占めるほどに、彼は即座に後ろに飛び、距離を取った。相手の間合いであることに気づいたのだ。彼は前にいるジークという自分の息子に驚愕してしまい、末恐ろしいと感じ、格闘戦へと移行した。
(なんていう殺気だ。剣を手放し無防備であるにも関わらず、素手で剣に立ち向かう気なのか?今の太刀筋を見ても、なおも勝てる気でいるとは・・・・・おっと、これはこれは傲慢であったな。俺としたことが、前世の感覚で考えていては駄目だな。考えを改めなくては。)
と感嘆しつつ、模擬戦に集中し直すのであった。そして、互いに一歩また一歩と距離を詰めていると、急にジークが自分の前から姿を消していた。
次の瞬間、俺の目の前は白く染まり、糸が切られたかのように前へ倒れていった。だが、俺の父、ジークはしっかりと俺を抱き留め、微笑みを浮かべながら頭を優しく撫でていた。