悪魔18
感じるデス。いや、感じなくなったというのが正しいデスね
よもやキャリーに次いでミザリーまでやられるとは思ってもみなかったデスよ
特にミザリーはワタクシたちの中でも二番目に強かったデスのに…
仕方ないデス、これはワタクシも動く必要が出てきましたね
ワタクシの前に跪いて頭を垂れている男の頭を踏みつぶして立ち上がる
男の体は一瞬ビクンとなって動かなくなったデス
飛び散った脳漿を掃除するよう命じて部屋を出るとワタクシは本来の姿に戻ったデス
「ふぅ、ガキの姿でいるのも肩が凝るっての。さて、まずはヨローナを殺そうっと。それに魔王もね。あたしの邪魔をしたつけはきっちり払ってもらう。魂が魔界に逃げないよう捕まえて永遠に苦しめて後悔させてやるわ」
あたしの姿は子供から大人へと戻っていた
本来のあたしは中位の悪魔
死恐という位置から下位の悪魔どもを管理するいわば中間管理職
ただ上司である上位の悪魔や爵位の悪魔たちはあたしの持ってくる汚れ無き魂に満足して、あたしの好きなようにさせてくれてるわ
だからこそ自由に動ける。今しがた殺したあたしたちに願いを言ったこの国の王も、殺したってお咎めなし
あたしはもっと上に行くべき存在だもの、こんなことでいちいちうろたえてなんていれない
この姿ならヨローナの居場所なんて簡単につかめるわ
そう、ここから西に253キロの方角ね
待っていなさい、今その顔を恐怖にゆがめてあげるから
私は割れんばかりのとびっきりの笑顔で一瞬のうちにヨローナのいる場所まで飛んだ
突如私の前に見知らぬ女性が現れ、私の首を掴んで持ち上げた
「くぅ、ガッ、あぐ」
「全く、弱いくせに大それたことしてくれちゃって、こうなることも覚悟の上なのよね?」
締め上げる力が強くなり、息ができない
「お姉ちゃん!」
「駄目よ、カレアナ、こいつ、は」
「お姉ちゃんを放して!」
カレアナが魔力を解放して私の教えた魔法をエスターに撃ち込む
そう、こいつはエスターに間違いない。やっぱり力を隠してたんだ
この力はまさしく中位の悪魔のもの。私達では絶対に勝てる相手じゃない
「あらあらあらあら、あんた魔王を飼ってたわけ? ずいぶんとまぁ繊細な魔法を使うじゃないの。それに力も魂も、極上じゃないのさ…。いいわ、あんたは普通に殺して魂を消してあげる。苦しまないようにね。こんないい掘り出し物をあたしにくれるんだもの、感謝するわ」
「そ、その子は、やめ、て、お願いエスター」
「あらあらあらあら、あんたがそれを言える立場にあると思ってるの? あんたの生殺与奪はあたしが握ってるってこと忘れてんのかしら?」
「お、お願い、お願い、します、私はどうなっても、いい、カレアナに手を、出さないで」
「あらあらあらあら、それは無理な相談かしら? だってこれだけの魔法をあたしに撃ち込んだんだもの、少しお仕置きが必要ね」
魔法を喰らったと言ったけどエスターはまったくの無傷で、カレアナを私を掴んでいない方の手でつかむと私を地面に投げ、足で踏みつけた
私は身動きが取れず、ただただカレアナがひどい目に合う様子を見ることしか出来ない
「まずは、この小枝みたいな指を順番に千切ってあげるわね」
「ひっ、お姉ちゃん、助け、アガァアアアアアアアアア!!」
「あらあらあらあら、いい声で鳴くわね。ほら見て、お前の小指よ。次は、薬指ね」
ブチィ!
「ギャァアアアアアアア痛い痛い痛い痛いぃいいい! 痛いよぉおおおお!」
「ハイ次は中指」
ゴチュ、ブチブチッ
「ひぎぃ! アアアアアア!!!」
「あらあらあらあら、漏らしちゃった。どうヨローナ、ペットのおしっこの味は」
カレアナが漏らした尿がポタポタと私の頭に垂れて来る
私は悔しくて泣いてしまった
カレアナを助けれない自分が、情けなくて、惨めで
力のない自分が許せない。そして何よりカレアナとの平穏を乱すこいつが許せない
許せない、許せない、許せないユルセナイゆるせナイユルセなイ許せない…
―――許さない―――
「え? あたしの足が、消えてる?」
どういうことなの!? 何で急にあたしの足が消えて。それにヨローナは一体どこに消え
あれ? 右手は? ガキを掴んでいた右手もない
「なんなの!? 一体何が起こってるのよ!」
「許さない。エスター、お前を」
「なっ、ヨローナ、なの? その姿、そんな、なんでこの子が…。そうか、そういうことだったのねアザゼル様、そりゃ目を掛けるはず…。クフフフフ、アハハハハハ! ヨローナ、貴女自分が何者か分かっていなかったのね。いえ、忘れているのね! いいわいいわ。あなた様をこの目で見れたのだもの! あたしはおとなしく引くわ。でも、もう一つだけ目的を果たさないとね。ここは引かせていただきますわ。 またお会いしましょう、王女様!」
まさか生きていらっしゃたなんて、気づかないわけよ
だって人間に転生していたんだもの
王の系譜、悪魔の中でも最上位の一柱
それも“大罪”が一柱、“色欲のアスモデウス”様
幼いころから恋焦がれたあたしの尊敬するお方
天界との戦争で亡くなられたと聞いていたあのお方が、転生してあたしのそばにいたなんて
これほど、幸せなことはない
奪われた左足も、右腕も、全てが誇らしい
色欲にして純潔となったあの方のおそばいたい
なら敵対行動をとらず、あの方の手足となろう、今この時よりエスターは生まれ変わります
愛しいアスモデウス様…
エスターは去ったけど、指を引きちぎられたカレアナはショック症状を起こして泡を吹き始めている
私はすぐにその指の止血をするとありったけの魔力でカレアナの指を再生させ始めた
なぜこんなことができるのか分からないけど、遠い記憶が呼び覚めるように出来るとわかった
エスターは私のことを王女様と言った
あいつがそう呼ぶのは悪魔の王たちに対してだけだ
何故私を? 分からないけれど、今はカレアナの回復が先決だったから、それは記憶の片隅に追いやることにした