蠢くは悪の意思30
私に怒りの感情がふつふつと沸き上がって来た時、視界は黒く塗りつぶされていった
「駄目ですリィリア! 今すぐその感情を抑制しなさい! このままではその黒い力に飲み込まれて…」
女神様の声が心の中で響いてきたが、私の感情は収まらずに全てが黒く染まった
「“憤怒”に飲まれたか。それでいい、ゆっくりと力を馴染ませよ。お前は我らが作り上げる。奴らを全て滅するためにな」
黒い世界で誰かがそう言った
だが私は自分の体が自分のものでなくなっていく感覚が気持ち悪く、それどころではなかった
体は勝手に動き、悪魔を瞬殺している
見えてはいるし声も出せるが、体が全く言うことを聞いてくれないのだ
だがその悪魔を殺した瞬間に金縛りのように自分で動かせなかった体の感覚が戻った
駆け寄ってくるナリヤの顔を見て安心し、私の意識は暗闇の底へと沈んで行った
ふと意識が蘇る
音は聞こえず、どうやら真っ暗な中にいるようだ
私は手足を動かしてみるが手足が無くなったかのようにその感覚が感じられない
さすがに怖くなり、不安に押しつぶされようになっていると声が聞こえてきた
「あっぶないあぶない、魂の保護に成功! いくら協力関係にあるからと言ってあいつら無茶するよな」
「ホントにホントにホントにそうだよねそうだよね。僕僕僕僕抗議しようかしようか?」
「だからキノペ、もう少し言葉を減らしてくれんかね。耳に激痛が走る」
「むーむーむー、ゲンシだって変な変な変な言い回ししてるしてるしてるじゃない」
「おいこら、今はそれどころじゃねぇだろ、おい小娘、お前が使った黒い力、あれはなるべく使うな。危険すぎる。ったくあいつら何考えてんだ。壊れたら意味ねぇだろうによ。小娘、お前は俺らの力を使え。黒い力ほど強くはないが、爵位を持つ悪魔も伯爵クラスまでなら倒せるだろうよ」
「ラバシャ君の言うー通りなんだよー。その力はホントにヤバいんだよー。使いすぎると飲まれて、君は人ではないモノに変貌するよー」
「とにかくだ。今お前の魂を修復している。黒く染まった部分を抜いてるんだ。完全には抜けねぇからよ、黒い力を使えば使うほど蓄積しちまうんだ。だから使うな。いいな!」
突然私の前に現れて何事かを言う謎の者達この声の主は恐らくあの時私に力を使うよう言った者の仲間だろう
しかし黒い力とはどういうことだ? この者たちが関わっているのではないのか? だが先ほどの言いぶりから手は組んでいるようだ
だが連携は取れていない?
この者たち含め、彼らはなぜ私に力を?
あの黒い力を与えた者は何者かを滅するためと言っていたような
ん? そういえば女神様の声が聞こえない
「そりゃそうよ。ここはあたしらの世界だもん。魂だけ呼んでみたの。あ、魂を呼んだって言ってもちゃんと体とリンクさせてるから死んだってわけじゃないわよ? 意識が無いだけでね。まあ取りあえずここで黒いの抜いちゃうから、もう少し待ってね」
少女のような声がそう言ってから体感にして数時間ほど経っただろうか?
「よし終わったぞ。じゃぁ戻すから元気でな。くれぐれも黒の力は使うな。感情に飲まれるな。分かったな?」
「あ、ああ、世話になった、でいいのか?」
「礼はいい、僕らも君を利用しているんだからね」
「それは、分かりやすくていい。それじゃぁこれからも力を使わせてもらう」
「うむ、それでよかろう」
声がしなくなった
私はゆっくりと目を開けると、窓からの光が私の顔に注いでいるのが分かった
「リィリア? ライラ! アエト! セリセリ! リィリアの目が覚めたわ!」
「リィリア! 心配したよ! 慌てて聖都から来たんだ!」
聖都で静養していたはずのセリセリが来てくれていた
体じゅうに激痛が走る
「う、あ」
「どうしたのリィリア! なに、何が言いたいの?」
「わ、たし、力が」
「ええ、貴方の力、凄かったわ。でもあれはかなり危険だと思う。一回使っただけでこんなになるなんて」
その時気づかなかったが、私の腕はグズグズに腐っていたそうだ
私の危機を聞いて駆けつけてきてくれた異世界の医師ラタリウスさん。彼女が治療してくれたおかげでなんとか“再生”の力で元には戻ったようなのだが、まだ手に痺れたような感覚があった
「すみま、せん、皆さん、ごめ、いわく、を、おかけし、ました」
「何言ってるのよリィリア! 迷惑だなんて思うはずないじゃない!」
「そうだよ。セリセリだってリィリアにいっぱい迷惑かけてるよ? リィリアはそんなこと気にしちゃだめだよ」
「そうです。もっといっぱい頼ってください」
「うんうん」
四人の優しい言葉が身に染みる
今は、体を治すことに重点を置こう
とにかくこの国の危機は去った
だが悪魔はまだいるかもしれない
それが心配だ