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蠢くは悪の意思28

 私が目覚めてから一週間後、リアナさんはようやく目を覚ました

 もはやこのまま目を覚まさないのではないのかとかなり心配していたのだが、彼女は目を覚まして開口一番「お腹すいた」と一言だけ言った

 当然何も食べれていなかったので消化にいいおかゆや流動食なのだが、それでもよっぽど腹が減っていたのかリアナさんは残さず食べていた


「ぷふぅ、迷惑かけたねリィリア、私が不甲斐なかったばかりに」

「いえ、リアナさんが無事戻って来てくれた、それだけで私は嬉しいんです」

「そっか、ごめんなリィリア、それにナリヤ、ライラ。私はあのままではただの化け物に成り下がっていた。それを止めてくれたんだ。本当に感謝してもしきれないよ」


 リアナさんはベッドに座ったまま深々と頭を下げる

 化け物に変えられてしばらく、リアナさんは自我を保ったままだったらしい

 無理やり変えられたのでその悪魔の命令には一切従うことはなかったのだが、突如頭の中が弾ける感触がして意識が消えていったんだそうだ

 恐らく脳の一部をつぶされたのではないかとの結論だった

 

「あの悪魔は人を人とも思わない。ただリィリア。お前のことは、何というか、執着しているみたいだったよ」

「執着ですか。確かにあの悪魔は私に悪魔になろうと提案してきていました。ごめんこうむりますけどね」

「そうだよな。だから私もお前を攫ってこいと言われた時は激しく抵抗したんだ。無駄だったけど…。でも、今は元に戻れたんだ。あいつが言っていた。あの化け物に変えられると元には戻れないって。私はお前に殺されるならいいと覚悟していたんだ。それなのにお前は私を人間に戻してくれた。ありがとうリィリア、本当に、ありがとう」


 涙を流し始めるリアナさん

 無理もない。先輩とはいえまだ15歳の少女なんだ。それがどれほどの恐怖だったか計り知れない

 だがまぁ彼女にはしばらく聖国で療養してもらわないと

 日常生活を送るのは難しくないが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかっている可能性は高い

 体の傷は癒せても、心の傷は時間が絶たなければ解決することはない

 彼女は正にそれだろう。もう第一線で活躍することはできないかもしれない

 私はアエトに頼み、アエトの友達魔物にリアナさんを聖都まで運んでもらった

 また元気な姿を見せてもらいたいな

 そしてその直後のことだった

 地響きと共にそれが現れたのは


「大変です聖女様! 化け物の大群が一斉にセロランドに攻め入りました! 突如として現れたため、現在対応しきれず、すでに犠牲者も! メーゼ様が対処しているものの、押され気味です!」

「すぐ行きます! アエト、ライラ、街の人達の避難をお願いします! ナリヤは私といっしょに!」

「うん!」


 街に出ると酷いありさまだった

 あの強い星詠み族が何人も息絶えており、その死体を喰らう人間の姿を保った化け物の群れがそこかしこに溢れている

 私とナリヤは怒り、その化け物を薙ぎ払っていった

 大きく成長したナリヤは次から次へと化け物を討ち果たしていく

 化け物の方は連携や統率が取れていないため、互いに足を引っ張り合っているようだな

 それなら勝機はある!

 私達はメーゼさん、ミレさんと合流して背中合わせになると、取り囲んできた化け物たちを連携しながら倒していった

 即席とはいえ統率も取れていないような化け物に遅れは取らない

 聖なる剣で、煙の剣で、聖力の剣で、魔法で、それぞれが化け物を屠る

 みるみる数を減らす化け物たち

 油断はできないがひとまずは安心と言ったところだろう

 それに星詠み族の精鋭も押されてばかりではない

 複数人で化け物にかかることによって着実に化け物の数を減らしていた


「これならいけそうです!」

「ええ、押し返しますよ!」


 ミレさんとメーゼさんはさすがで、非常に息の合ったコンビネーションを見せつけている

 押され始めた化け物たちは我先にと逃げ始め、こちら側の勝利が見えてきた

 だがそれはつかの間の喜びに過ぎないことを思い知らされた


「危ないミレ!」


 ミレさんに先のとがった触手のような物が迫り、メーゼさんがかばうように前に出たためその触手がメーゼさんの胸を貫いた


「メーゼ!」


 ミレさんは駆け寄り、メーゼさんの傷を見る

 心臓が、えぐり取られていた

 触手は段々鼓動が弱まっていくメーゼさんの心臓をミレさんに見せつけるかのように蠢く


「すぐ治療します!」


 生きていれば私の治療が間に合う

 急がなければ

 急ごうとすればするほど、これを勝機と見た化け物が立ちふさがる

 このままではたどり着けない

 ナリヤの方も囲まれていてこちらに手は回せない


「く、負担はかかりますが仕方ありません。“神速超え”!」


 間に合ってくれ、頼む

 だが時はすでに遅かった

 亡骸となったメーゼさんの傍らで泣き崩れるミレさん

 私は、彼を救えなかった


「フフ、ほら、貴方がおとなしく私と来ないからこういうことになっちゃうのよ?」

「悪魔め!」


 この悪魔が、この女が私の仲間を殺した

 怒りが怒髪天を突き、私の意識はそれに乗っ取られた

 “憤怒”


「え? リィリアちゃんその姿、なんて美しいの! まるで悪魔の王のよう!」


 リィリアの姿は真っ黒に染まり、目は裂けんばかりに見開かれ、口からは邪悪そうな牙が覗いている

 まるで獣のように動き、一瞬でミザリーとの距離を詰めるとミザリーの首をもぎり取った


「あえ? リィリア、ちゃん? 私、どうなってるの? 体が見え」


 何やら驚愕し、ブツブツと言葉をつぶやいていたが、リィリアはその頭を片手に持ち、握りつぶした 

 その小さな手からは想像もつかないほどの握力でである

 悪魔の王のように禍々しく揺らめく姿を

 見ていた人々はその姿を、美しいと思った

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