蠢くは悪の意思27
リィリアが目を覚ましたのは三日後のことだった
突然倒れたからびっくりしたけど、魔力が欠乏していたからだったのね
あの日あの後で私は元に戻ったリアナさんと倒れて眠るリィリアを連れて帰るために、消火活動を行っていたメーゼさんを呼びに行ったの
あらかた火を消し終えていたメーゼさんはすぐに駆け付けてくれて、リアナさんとリィリアの二人を抱えてからセロランド王国の街へ戻った
すぐに王女様のミレさんが槍を抱えたまま迎えてくれて、彼女も化け物にされていたリアナさんが生み出した魔物と戦い、傷を負っているのが分かった
その治療をどうやらライラがしていてくれたみたいでよかったわ
「メーゼ! 無事でよかった」
ミレさんはメーゼさんの姿を見たとたん槍を地面に投げて駆け出し、メーゼさんをヒシと抱きしめた
「ミ、ミレ様、兵が見ています」
「いいのですそんなことは、今はあなたの無事が何よりのことですから」
ははーん、どうやらこの二人出来ているのね
まあ勇者と言えば、勇者が未開の地を開拓して作った国もあるし、王族と結婚した勇者もいるから別に珍しくはないけど、まさかこのお固そうなミレさんと、ふふ、まあメーゼさんは魅力的な人だものねぇ
「それでメーゼ、そちらの少女は? この国の者ではないようですが?」
「はい、この子は森で倒れていまして、恐らく化け物から逃げようとして森に迷い込んだのでしょう」
「そうですか、そう言うことでしたら休ませてあげなさい」
どうやらメーゼさんはリアナさんがこの国を襲った元凶だったということを伏せるみたい
それは正直ありがたかった
説明したところでこの国に大きな被害を産んだ元凶を許してくれるとは思えないし、仮に許してくれたとしても、リアナさんには大きな心の傷が残ると思う。優しい人だったから…
「取りあえずこの子たちが目を覚ますまで滞在しなさい。私が許可します」
ミレさんのおかげで私達はリィリアとリアナさんが目を覚ますまではいていいことになった
このセロランドなら悪魔もそう簡単にはせめてこれはしないと思うわ
ただ問題は、あんな化け物を何体も何体も作られているのだとしたら、守り切れる保証がないってこと
私の力は以前よりも遥かに強力になったし、化け物二体程度なら一人で倒せるとは思う
でも、後ろに守るものがあって、その人達を狙われたらと思うと怖い
守り切れないかもしれない
そう思って不安のまま三日間をすごし、リィリアが目を覚ました
「ナリヤ、ご心配をおかけしましたがもう大丈夫です」
「いいのよリィリア、まだ寝ていても」
「そうはいきませんよ、私も聖国の人間として傷ついた人々を救わなくては…。それはそうとリアナ先輩の様子はどうですか?」
「それが、まだ目を覚まさなくて、ずっと眠ってるわ」
「そうですか、まああのような状態になっていたんですから、回復までは時間がかかるかもしれません」
その時ライラが扉をノックして入って来た
ライラはリィリアが目覚めているのを見つけるなり飛びついてその胸で泣きだした
「うぇええんリィリアちゃぁあん、よかったよぉおお」
「はいはいライラ、心配かけましたね。でももう大丈夫、これから怪我人の治療をしに行きますから案内をお願いします」
「うん、それとね、アエトちゃんが魔物にやられちゃって、そこまで大した傷じゃないんだけど多分毒があったみたいでね、私をかばってくれて、それで」
「分かりました、すぐ行きます」
ひとまずはリアナさんをこの国の医者に任せてリィリアについてアエトの所へ行った
アエトは苦しそうにしていて、医者が毒の成分を分析して抗体を打ってくれてるけど、それでもあまり効いていないみたい
どうやら特殊な毒らしくて他にも何人かこの毒に苦しんでいた
すぐ死ぬような即効性じゃなかったのが幸いしたわ。これならリィリアが治せる
「すぐ治療を開始します。順番に見ますからこちらに並べてもらえますか?」
「聖女様が治療してくださる、助かるぞ!」
「しっかりしろ、動けるか?」
「重症者から診ますのでこちらへ」
リィリアが治療を始めると、重症だった人々はみるみる顔色がよくなってきて、全快していく
「奇跡だ。ここまでのアンチドート魔法など見たことが無い」
「素晴らしい、さすが聖女様だ」
人々が口々にリィリアを称え始める
「皆さん、これは全て女神様から賜ったものです。私自身の力ではないのです」
リィリアは女神ティライミス様の御業だと人々に説く
でもその姿こそまるで女神のようで、人々はそんな姿にあこがれ、羨望しているように見えた
無事治療を終えたリィリアはやっぱりかなり疲れているみたい
さっきまで魔力欠乏で昏睡していたのに、このまま人々のために動き続けてリィリアの方が死んでしまうんじゃないかって時々心配になる
普段はそんな表情一切見せないけど…
私は親友の横顔を見る
顔色は悪くないから、疲れ切ってはいないのかな?
アエトも元気になったことだし、リィリアと私は再びリアナさんの所へ戻って様子を見ることにしたわ