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蠢くは悪の意思26

 ミレさんに言われたように私はナリヤと共に、“灰の勇者”であるメーゼさんが戦う戦場へと飛んだ

 そこは酷いありさまで、森林が焼き尽くされ、動物が死に絶えていた

 その中に人の姿がないのは恐らくメーゼさんが上手く誘導し、人々を逃がしたからだろう

 さすがにベテラン勇者と呼ばれるだけのことはある。本人は謙遜して武勲を語ったりはしないが、その功績によって救われた命は計り知れない

 燃える森を駆け抜けて少し開けた場所に出ると、その奥でボコボコとした異形な何かと戦っている人影が見えた


「アグァアアルルルルルアアア!!」

「これ以上森を燃やすのはご勘弁願いたい、ですね!」


 化け物と戦っているのはメーゼさんだろう。剣には白煙が纏われていて、それで火を消火しつつ化け物の足止めをしているようだ


「メーゼさん!」

「君は、“切断の勇者”ナリヤくんじゃないか! 救援か、助かるよ」

「メーゼさんありがとうございます! あとは私達が!」

「ああ頼んだよ。実は結構ギリギリでね。僕は火を消して回るよ。そいつは口から炎を吐き、近づけば全身から棘を伸ばしてくるから気を付けてね!」

「情報ありがとうございます!」


 私はナリヤと共に武器を構えた

 ナリヤは私のプレゼントした剣をずっと愛用してくれている

 あまり高くないアンコモン程度の剣だが、それでも魔力を流せば鎧を展開するという掘り出し物だ

 剣は変形して今現在ナリヤの体に張り付いている

 この鎧がナリヤを守ってくれるよう祈りながら私はしっかりとその化け物の目を見た

 だが、その化け物の目を見た瞬間その正体が誰なのかが分かった


「な、ナリヤ…。こいつは、いえ、この人は…」

「どうしたのリィリア、こいつが何なの?」

「この人は、聖女リアナ、先輩です」


 ナリヤの目も驚愕に見開かれる

 この化け物、その素体となった人物は私達の五年先輩である聖女リアナ

 ボーイッシュで明るく、率先して人を助ける姿は聖女の鑑とまで言われたほどで、その腕も相当な実力だったはずだ

 確か炎を体にまとわせて格闘で戦う戦闘術を得意としていた

 だが、今のその姿は見る影もなく醜くなっており、思考もできていないようで暴走しているようだ

 こんな悲しいことはない…。彼女は私達とも仲が良く、いい先輩だった

 よく菓子を持ってきて私を妹のように可愛がっていてくれたのを思い出す


「そんなことってないよ…。なんでリアナ先輩が…」

「ナリヤ、悲しいけれど、こうなってしまっては救う手は…」

「分かってる! 分かってるけど、でも、それでもどうにかならないの!?」

「ごめんなさい、私の力では」


 悔しい。私では彼女を殺してやるしか救う手立てがないんだ

 悔しい、力ない自分が悔しくて仕方がない!


(だったら捻じ曲げればいいんじゃないかな? 僕の力を使えば簡単なことだよ)


 突然のことだった

 私の頭に女神様のものではない少年のような声が響く


(だ、誰だ!?)

(そんな警戒しないでよ。僕らは君の味方だよ。君が僕らの力を使いこなしてくれることを望んでいる者の一人、ってとこだけは信じて欲しいかな)

(力、力とは一体…。もしや!)

(そう、覚えがあるだろう?)


 そうだ、私に突如目覚めた力、“再生”、“吸生”、“神速超え”、“模倣”この四つは女神様から授かった力ではない

 では一体だれが私に授けたのか?

 それはこの声の正体である何者か。恐らく複数の何者かが私に力を与えているのだ

 目的は分からない。もしかすると悪魔のように何かを企む者なのかもしれない


(悪魔? あんなのと一緒にしてほしくないなぁ。それに僕らは神でもないよ。ただ君の味方だ。それだけは嘘偽りない真実だから、信じてよ)

(すぐにハイそうですかと信じることはできないが、今はありがたい。それであんたの能力ってのはなんなんだ?)

(うん、いい答えだと思うよ。今は信じきらなくてもいい。いずれ信じてくれればいいよ。そして僕の力は“時間”触れたモノの時間を進めたり戻したり出来るんだ。まあ制限はあるけどね)

「時間への介入ですって!? そんなもの神々でも出来ない所業ですのよ!? 貴方は一体何者なんですの?」


 時間に介入する能力と聞いて女神様が頭の中で声をあげて驚く


(ああ、女神はそこにいたんだったね。今は僕らの正体は言えないけれど、僕らは正常を望む者とだけ答えておくよ)

「正常を? 何故ですの!?」

(まあそれは今いいじゃないか。ほら、リィリアが力を使うよ)


 この力、発動してみて分かったがかなりコントロールが難しく、たまたま触れた木が一気に朽ちたり苗木に戻ったりとうっかりどこでも触るわけにはいかないな

 私はすぐに走ってこちらに向かって火を吐こうとしているリアナさんに近づく

 その瞬間棘を伸ばしてくるが、すんでのところで躱して何とか体に触れることができた


「タイムバック!」


 彼女自身の時間を巻き戻すだけなので世界に影響はないが、この力はかなりのエネルギーを持って行くようで体中にだるさが広がっていく

 それでも私はリアナさんの時間を巻き戻し続けた

 その姿が元の彼女に戻るまで

 やがてリアナさんは無事元の姿に戻りその場に倒れ込んだ


「な、何が起こったのリィリア! リアナさんが元に…」

「ハァハァ、ナリヤ、ごめんなさい、私は少し、休み、ます」


 力をほぼ使い果たした私は猛烈な眠気に襲われて倒れ込み、そのまま眠りについた


(うまくいったみたいだね。僕の力“時間”は本来全ての時間を自在に操る力。本来の力を引き出せることを願っているよリィリア)

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