聖乙女生まれる9
魔法の授業も武術(加えて剣術も始まった)の授業も少しはこなせるようになってきた頃、いよいよ実戦の授業が始まることとなった
この実戦の授業と言うのは、国の外に出て魔物と戦うと言う少し危険を伴うものだ。 私ならいざ知らず、初等部である他生徒には少々、いや、かなり難しいのではないだろうか
「ではこれより魔物のいるトリア荒野へと向かう。 出てくるのは比較的弱い魔物だが油断はするなよ。 まぁいざとなれば引率の先生方が助けてくれるからそこだけは安心してほしい」
ふむ、先生方が守ってくれるのならば問題はないか。 引率は…、5人。 30名足らずの生徒を守るならば十分だろう。 全員がかなりの戦闘力を有しているようだ
「ではこれより班に分かれてこのレッドウルフを狩ってもらう。 目標討伐数は一班三匹だ。 レッドウルフはこの辺り一帯では一番弱い魔物だが、時折リーダーとなる変異種のブラックウルフがいることがある。 こいつに遭遇したときは速やかに笛を鳴らして知らせて欲しい。 先生方の内の誰かが駆け付ける手はずになっているからな」
ビース先生は班のリーダーとなる生徒に笛を一つずつ渡していった。 小さな笛だが数キロ先まで響くような魔法と、居場所の分かる魔法がかけられているらしい
「各自レッドウルフの姿は覚えたか? では散開!」
私の班は私をリーダーとして、ライラ、セリセリ、ナリヤの四名。 五名の班もあるようだが、このメンバーならうまくこなせるだろう
まず前衛中衛後衛全てをこなせる私が真ん中に立ち、多少の回復魔法と敵を視ることのできる目を持ったライラを補佐として私の横に、水の盾を張ることの出来る神力を持ったセリセリは、文字通り盾役として前に出てもらった
そしてナリヤは手から見えない刃を飛ばす神力をもっており、さらに魔法はこの中で一番うまく扱えることから後衛として敵の隙を突いて攻撃してもらうことにした
「では行きましょう。 この荒野、結構広いらしいのではぐれないでくださいね」
一応先生方には笛に掛かった魔法を通して居場所は分かっているが、あまり離れすぎると危険に遭遇したときどうしても対処が遅れてしまうことだろう。 地図を頼りに先生方のいる初期位置からあまり離れすぎないよう気を付けるとしよう
「あの、リィリアちゃん」
「何?ライラ」
地図を確認しながら歩いているとライラが話しかけてきた
「もう囲まれたみたい」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまったのはいいとして、もう囲まれている?
地図から目を放して周りを見てみるとざっと12匹のレッドウルフに囲まれていた。 速いだろうに。 まだ歩きだして10分ほどだぞ
「怖いよ~、ライラ~。 セリセリは飛んで逃げたいけどまだ飛べないんだよ~」
「大丈夫、私が守ってあげるわよ!」
友となったナリヤは頼もしい限りだ。 確かに彼女ならレッドウルフを殲滅できるかもしれない。 だがまだ魔力は低く、これだけの数を相手取るとなると厳しいところはあるだろう
「ひぃっ! 襲ってきまあわわわわわ」
ライラが慌てて陣形を崩し尻もちをついた。 腰が抜けたのだろう。 無理もない。 まだ子供なのだから
「ナリヤ、ライラをお願い。 セリセリ、水の盾で二人を守って」
「うん! 盾からも水鉄砲でるよ? 援護する?」
セリセリはもう落ち着いているようで、直ぐに盾を展開してさらにその隙間から指を鉄砲のように構えてレッドウルフに向けていた
「私も援護できるわ。 ほらライラ、私の後ろに」
セリセリの盾で守り切れない方向をナリヤが魔法を撃つことでカバーするようだ
「じゃぁ援護をお願い。 正面の敵は私が」
私は火の下級魔法を展開。 最初に習ったエアーの魔法より少し攻撃力は高く、レッドウルフならば倒せるだろう
無詠唱。 あまり人に見せるものではないが、このメンツならば気心が知れている
ファイア。 火球を撃ちだす割と威力の高い魔法だ。 それが二十数発。 これならばかなりの出力を出せるはずだ
「はっ!」
火球をレッドウルフに向かって飛ばす。 さらに魔力をコントロールして一度ぶつけた火球がただの炎に戻る前に再び火球としてレッドウルフに幾度となくぶつけ続けた
結果としてそこには焦げた死体が転がることとなった
「ふぅ、魔力はまだ余裕がありそうです」
「む、無詠唱でしかもあれだけの数で完璧なコントロールまで。 やっぱりリィリアってすごいのね」
「照れるので褒めないでください」
友人に褒められるとなんだかこそばゆいものだ。 それも心地の良いこそばゆさだな
「で、これはもう報告でいいのかしら?」
「いいと思いますよ。 これ見てください」
ライラが私の渡した地図を開き、左上を指さした
“討伐完了 達成報告をすること”と書かれてる。 どうやら地図は達成確認もできるようだ。 なかなかに優秀だな
報告に帰る途中、笛の音と悲鳴が聞こえた。 どうやら近くでブラックウルフが出たらしい。 先生方も慌ててその方向へ走っていくのが見えた
まぁ先生が行くのであれば問題ないだろう
そう思っていたがどうやらその考えは間違いだったようだ