蠢くは悪の意思23
セリセリが戻ってくるのを待ってから私達は帝都を出て、帝国に属する国セルヴァナへ向かうことになったわ
セルヴァナまでは帝都から西に約150キロほどはあるのだけど、私達のように空を飛べる聖女ならそこまで時間はかからないと思う
それに時間は一刻を争うと言ってもいいわね。早くロクサーナ陛下を助けに行かなけらば、何をされるかわかったものじゃないもの
とにかく急いでセルヴァナへ向けて飛んだ
私はあまり飛ぶのが上手くないのだけど、セリセリとライラに手を繋いでもらってなんとかついていけてるといったところかしら
「見えてきましたね。あれがセルヴァナの首都セルヴィアスの筈です」
リィリアが地図を確認しながら指をさす方向に、純白の街並みが広がっているはず
セルヴァナはその街全てが白色鉱という特殊な石を使って建てられていて、世界各国からの観光客が多い国だったらしいの
でも今は見る影もないほどにすさんでいるのが一目でわかった
白くて美しいはずの情景は、今ではところどころが崩れていて、地面や壁に飛沫した血がべっとりと付いてる
ここの人達も恐らくはもう、化け物たちに殺されているのだわ
「やはりここも、惨たらしいありさまですね…。とにかくロクサーナさんを探しましょう」
ロクサーナ陛下がどこにいるかまでは分からないけど、きっとこの街のどこかに連れ去られているはず
だってここにはあのキャリーとかいう悪魔と同じような嫌な気配があるんだもの
「取りあえず散開して怪しそうな場所を探しましょう。一人ずつだと危険なので私とライラ、アエトとナリヤとセリセリで分かれて探してください」
「分かったわ。気を付けてねリィリア」
「ええ、ナリヤも」
私を先頭にアエトとセリセリを引き連れて街の様々な場所を探索し始めたんだけど、やっぱり人の姿は無くて血がそこかしこに付いてるだけ
こんなにもたくさんの人を殺したということに私は吐き気を催してくる
許せない。人間を何だと思っているの?
そんなことは分かってる。悪魔にとって人間なんて虫けら以下
だからこんなひどいことができるんだ
「何も見つからないね。あるのは血痕ばっかりで、セリセリはもう嫌になってくるよ」
「そうね。でもちゃんと探さないと、ロクサーナ陛下が今も助けを待ってるはずよ」
「うん、頑張って探すよ!」
「アエトちゃん、そっちはどう?」
「私の友達にも探してもらってるんだけど、臭いがそこかしこでして混乱してるみたい」
確かに、悪魔の気配も様々な場所でしてる
まるで何体もの悪魔がここに潜んでいるみたいに
「セリセリ、上からそれらしい場所がないか見てきてくれない?」
「わかったよ! 行ってくるね!」
その時は上から見ればもっとよく分かるかもしれない。そんな考えしかなかった
私がそうんなこと言わなければ…
「ぎゃうっ!」
突然上空から悲鳴が聞こえて、翼を片方失ったセリセリが落ちてくるのが見えた
慌てて駆けだしたけど、間に合わなくて…
セリセリは固い石畳に打ち付けられ、大きな血だまりの中で息も絶え絶えに血反吐を吐く
「セリセリ!」
駆け寄るとセリセリの体が思いっきりへしゃげ、腕や足がありえない方向にねじ曲がっているのが分かった
苦しそうで、見ていられない
とにかく私の回復魔法で応急処置を施したけど、このままじゃ危ないのは一目瞭然
すぐにアエトに頼んでリィリアを呼んできてもらった
「セリセリ! そんな、なんでこんなことに!」
「ごめんリィリア、私が、セリセリに上空から探索を頼んだの…。私の、せいなの…」
「いえ、ナリヤは悪くありません。悪いのは…」
リィリアがセリセリを強力な回復能力で再生させていく
これはフロレシアさんにも使ってた能力だ
その能力を使いながら左手から聖力を放って左方向にある建物の壁を壊した
そこには見たこともない小人のような化け物と、グジュグジュとした腕のついた人間味を残した化け物だった
こいつらが、この街の人とセリセリを
許せない!
「一刀、飛閃!」
横一文字に飛ぶ斬撃でその二匹を斬りつけたけど、小さいほうがあっさりと爪で弾いていた
「お前らが、僕のご主人様を邪魔する聖女か」
「喋った!?」
驚いた。今までの化け物は喋ることなんてなかったし、ここまで意思をはっきり伝えてくることもなかった
こいつらは、何かが違う
「おでだちは、お前らが戦がっだ今までのやづらどはできが違う。お前らなんで、一ひねりだど」
確かに、その魔力量から見ても違うのは分かる。でも、私達だって今までと同じじゃない
「リィリア、ここは私に任せて」
私は今持っている剣をリィリアに渡すと聖力で光の剣を作り出した
「聖力剣、カルベナ」
これは私が対悪魔用に独自に研究し、作り出した聖剣
悪魔ならこの剣を受けることで絶大なダメージを受けるはず
それにこの化け物も悪魔の眷属みたいだからこの剣も効果があるはず
「一刀、飛閃改!」
今度は聖力そのものの刃が飛ぶんだから、防げばただじゃすまない
案の定小さいほうがまた爪でその斬撃を受けた
「ぐあぁああ! 僕の手がぁああ!」
手首から先が飛んでいき、小さいほうがのたうち回る
「流聖!」
手を斬りとばされたことで油断した小さい化け物の上に大きく飛び上がって、私はそのまま剣を振り下ろした
化け物は真っ二つになりそのまま砂となって崩れ落ちた