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蠢くは悪の意思22

 帝国の動きが心配だ。恐らくキャリーを倒したことで国全体にかかっていた魅了は解けただろう、とは思う

 しかし万が一にも解けていなかった場合のことを考えなければ。また、ロクサーナ陛下の安否もいまだ分からないのだ。なるだけ早くフロレシアさんを安心させてもあげたい


「ではすぐにでも帝国へ向かうのですね?」


「はい、ロクサーナ陛下の安否を確認してきます。あのキャリーという悪魔、前に出会った悪魔よりは弱い印象がありましたが、その分何か知略を巡らせている可能性も捨てきれません」


「気を付けてお行きなさいリィリア」


 レニさんは私を優しく抱き寄せるとそう言った

 再び私達は帝国へと向かう。フロレシアさんは未だに歩くことができない。神経が再生したてでうまく動かせないのだ

 これからのリハビリは大変だろうが、彼女なら必ず勇者として復帰してくれるだろう

 その前に彼女の心労になりそうな問題はなるだけ排除しておきたい

 そのためには帝国を元の状態に戻すのと、実の姉であるロクサーナ陛下の無事を確認することだ

 

 翌日、帝国に入ってすぐに気づいた

 本来国境を警備しているはずの兵が一人もおらず、辺りには血だまりができていた


「血はまき散らされているのに死体が一体もない…。どういうことなのかしら」


 ナリヤが周辺を探すが、人っ子一人どころか体の一部すら見つからず不思議がっている

 これほどの出血量ともなるとほぼ確実に死んでいるだろう。それなのに死体が無いということは誰かが運んだのか?


「取りあえず首都を目指そうよ。空からセリセリが誰かいないか確認しながら行くから」


「頼みますセリセリ」


 セリセリは翼を広げると上空へ繰り出し、道の先を進みながら飛んでくれた

 彼女はこういった偵察に向いているのか、非常に詳細な情報をもたらしてくれる

 敵の有無や安全確認はもちろん、分かれ道での正しい方向や知らない国での街の有無も確認してきてくれるので非常に優秀である

 今回も帝都までの道のりやここにいた兵の安否などを確認してきてくれたようだ

 結果、帝都まで人はおらず、魔物も見当たらないようだった

 それもおかしい話である。魔物はともかく、この道は帝都まで兵が要所要所で詰所のような場所に詰めていたはずである

 その詰め所にも誰もいなかったというのだ

 ただ、詰め所にも血がべっとりとついていたのだという


「何かに襲われたとは思うんだけど、争ったような形跡が一切ないの」


 確かに先ほどの国境でも争ったような跡は認められなかった

 とすれば、死を誰もが受け止めたのか、圧倒的な何かになすすべなく蹂躙され、死体を持ち去られたのか

 ひとまずは当初の予定通りに帝都に行くことにしよう


「アエト、念のため一番強いお友達を呼んでおいてください。戦闘になるかもしれません」


「うん! セドリック!」


 アエトが友達の魔物を召喚する

 それは炎の四大精霊サラマンダーの眷属と呼ばれるフレアジュラルアという炎の蛇だった

 ランクはA+ランク。街一つを蹂躙できる戦力と言っていいだろう

 街が燃える可能性もあるためできれば別の魔物にしてほしいが、今は非常時。後で消火するので勘弁願いたい

 私達はできるだけ早く帝都に入るために走り、そのままの勢いで帝都の門を叩いた

 だが本来いるはずの衛兵も門番も、それどころか町の住人が誰もおらず、街中を駆け巡ったものの、血痕しか見当たらなかった

 そう、人が全くいなくなっていたのだ

 それは城の中も同じで、フロレシアさんの部屋にもロクサーナ陛下の部屋にも誰もいなかったのである

 ただ、ロクサーナ陛下の部屋や皇帝の椅子には血痕が無かったため、陛下が無事でいる可能性も出て来た


 城の中を探索していると、食堂で物音がしたので警戒しながら内部に入る

 するとそこにはメイドと思われる少女が私達を見て震えていた

 どうやら失禁しているようで、へたり込んだ床に水たまりができている


「大丈夫です。私達は聖国から来た者です。助けに来ました」


「ほ、ホントに聖国の? た、助かったの私…。」


 少女は気が抜けたのか、意識を失ってしまった

 よほどの恐怖がこの子を襲ったのだろう。元々なのかもしれないが、髪の毛が真っ白だった

 帝国の人間は黒髪が多いはずなので、この少女の髪の色は珍しい。恐怖で白くなったと考えるのが妥当だろう

 彼女の衣服を着替えさせ、ベッドに寝かせるとしばらくして目を覚ました


「大丈夫ですか?」


「は、はい、あの、ありがとうございます…。私は、メイドのカラリラと言います…。はっ! あの! どうか陛下を、ロクサーナ陛下をお助け下さい!」


 彼女は未だ恐怖に震えてはいたが、ロクサーナ陛下を助けたい一心で私達に事の顛末を教えてくれた

 

 しばらく彼女たちはまるで夢の中のまどろみにいたかのような状態だったという

 自分が何をしているのかは分かっているが、それを夢で見ているかのような不思議な感覚だったらしい

 そんな日がしばらく続いていたある日、急に意識がはっきりし、周りの人間も自由に自分の体が動かせることに喜んでいた

 だがその喜びもつかの間のこと、突如街に不気味な魔物が二体現れ、次々と人間を襲ってはその死体を塵のように消してしまったのだ

 なるほど、死体が無いのはそう言う理由か


「その魔物たちは喋っていました。人間の言葉を…。あんな魔物、見たことも聞いたこともありませんが、私はなぜか生かされました。本当に、怖くて、私の目の前で、先輩や、メイド長を引き裂いて、それで、それで」


 体ががたがたと震え始める

 これ以上聞くのは酷かもしれないな


「それで、私の前にロクサーナ陛下が連れてこられて…。ロクサーナ陛下は連れ去られました。最後まで、私のことを気遣ってくれて」


 恐らくこの少女は私達への伝言のために残されたのだろう


「そうですか、よく伝えてくれました。あなたの身は聖国の聖女が保護します。彼女たちならあなたを守ってくれますよ」


「あ、ありがとうございます。どうか陛下をお助け下さい!」


 この子は強い子だ。目の前で親しい者たちを殺されたにもかかわらず、震えながらも必死に私達に伝えてくれたのだ


「ロクサーナ陛下を攫って行く際に魔物は言いました。帝国の属国、セルヴァナにて待つと…。」


 カラリラさんを保護し、セリセリに頼んで聖国へと連れて行ってもらった

 向かうはセルヴァナ。帝国の隣国にして属国の小さな国だ

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