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蠢くは悪の意思19

 あれだけの重傷を負って、手足や目を奪われていたフロレシアさんは、今スヤスヤと寝息を立ててベッドに横たわってるみたい(部屋には入らせてもらえなかったからリィリアに聞いた)

 欠損すら治してしまうリィリアの力に私は驚きを隠せなかった

 こんなの普通の聖女じゃあり得ないし、それにあの光のような速さも分からない

 今まであそこまでの速度を出せる力は確認されていなかった

 リィリアは常識破りなのは分かっていたけれど、それでも人間のできる範囲だと思ってた

 何にせよそのおかげで私達はまだこうして生きていられる

 そのことには感謝してもしきれないし、リィリアの力が強くなることはこの世界にとってもいいことだと思うわ


「おいハムシども、帝国の勇者が目を覚ましたぞ。あったかい紅茶を用意したから一緒にいてやれ」


 ラタリウスさんに部屋に入るよう言われて私達は一斉に部屋に飛び込んだ

 その過程で転んだライラを立たせてフロレシアさんの顔を覗き込んでみる


「ナリヤ、みんな、ありがとう、ご、めんなさ、い、まだうま、く、話せ、なく、て」


 そりゃ肺が潰れてたんだもの、でも顔の血色はよくて、あの時、悪魔に酷い拷問を受けて私達の前に転がっていたときと比べると明らかに違う

 もしあの時リィリアが逃げていてくれなかったら、私も、それに仲間たちもフロレシアさんと同じか、それ以上の目に遭っていたかもしれないと思うと、今でも体が震えた

 あんな化け物とどう戦えばいいんだろう?もう、会いたくない

 私が不安そうな顔をしているのに気付いたのか、フロレシアさんは紅茶を持っていない方の手で私の頬をそっと撫でた

 すでに私の変装は解けている

 変装なんてあの悪魔には通じないこともわかったし、フロレシアさんが裏切っていたことなんてとうにばれていたに違いないわ

 そうでなければフロレシアさんがあんな目に遭った理由が分からない

 まあ帝国の勇者たるフロレシアさんは最初から疑われていたのかもしれないけど


「とにか、く、また、こうやって、手足、を、自由に、使える、とは、思わなかった、リィリア、には、感謝、しかない、わ」


 フロレシアさんは途切れ途切れながらもリィリアに感謝の言葉を伝えてるんだけど、肝心の本人は疲れ果てて寝てしまってる

 今は、そっとしといてあげよう

 それに、リィリアの寝顔を見ているのも悪くないしね


「でも、帝国のことはどうしましょう?このままではすぐにでも戦争が…。そうなればこの国もただではすみません」


 確かにライラの言う通り、帝国を止めに行ったのに何もできずに逃げ帰ってしまった

 あの時は確かにそれが最善だったから仕方ない。だってフロレシアさんが死んでしまったら、帝国を導ける人がいなくなってしまうもの


「それなら、すぐに、どうこうという、問題、は、無いと思い、ます」


 どういうことなのかとフロレシアさんの話を聞いてみると衝撃的な内容で驚いたわ

 なんと皇帝陛下はキャリーという悪魔の魅了にあらがって、すでに元の陛下に戻っていたらしいの

 そしてフロレシアさんは拷問の最中キャリーの言葉を一言一句聞き逃さず、その内容もすべて覚えていたからこそ分かったことがある

 陛下は、ロクサーナさんは、まだキャリーの魅了を打ち破ったことを知られていない

 キャリーは拷問の最中、しきりに協力者は私達以外にいないのかを聞き、さらにロクサーナさんの魅了は永遠に解けることなく私の思いのままだと発言したらしいの

 それはつまり、ばれていないということになるわ

 だからこそまだ希望はあるはずよ

 ロクサーナさんがこのままばれないなんて保証はないけど、もう一度ロクサーナさんい合わなきゃ

 今命の危険にさらされながらもロクサーナさんは悪魔の弱点を探るため必死になっている

 全国民が人質に取られているような状況にもかかわらず彼女は心を強く持って恐怖に対峙しているんだ

 なら私達も、覚悟を決めなきゃ。私達には覚悟が全然足りていなかった

 リィリアがいるから大丈夫、若手最強勇者のフロレシアさんがいるから大丈夫

 そう思っていたから、甘えていたから負けたんだ

 リィリアやフロレシアさんは確かに私達よりも強くて勇敢で、非の打ち所がない

 でも、私達と同世代の女の子であることには変わりないんだ

 彼女たちだって怖いだろうし、逃げたくなることもあるかもしれない

 私は弱い。でも、このままじゃ誰も救えない

 たとえこの身が悪魔によって灼熱の業火に焼かれようとも、あの悪魔を倒すまで止まらない、止まっちゃいけないんだ


「フロレシアさん、あなたはここでゆっくり休んでください。 私達はもう一度、正面から帝国に乗り込みます」


「何を、言って、いるの? そんなことをすれ、ば、帝国、という、大きな力、で、ねじ伏せ、られて、塵も、のこらないわ」


 それでも、このままにしておけない

 裏から入るルートもすでに封鎖されているに違いない

 それなら、正面から突破する

 正面というのは帝国首都ヴァレアファルメに直通する聖国国境の街フラームス

 この前侵入した要塞都市クラルベルドとは別のルート

 そこには帝国からの侵入を阻む巨大な壁があるんだけど、一つだけある扉を超えれば行き来はできる

 もともとは貿易のためにある扉だけど、今は固く閉ざされていた

 そのルートから入ると帝国には気づかれるだろうけど、直に首都に入れるわ


「待ってくださいナリヤ、私も一緒に…。うっ」


 めまいがしているのか、起きあがったリィリアはクタリとソファーに倒れ込んでしまった

 無理もない、体内にあったほとんどの魔力や神力を使い切ってしまってるんだもの、少なくとも三日は休まなきゃ回復できない

 

「大丈夫です、すぐ回復します。だから私も行きます。悪魔は、私が食い止めます。その間に陛下を救ってください」


「だ、ダメよそんなの!リィリアが死んじゃうじゃない!」


 そんなのさせない

 リィリアは、親友は死なせない!

 

「大丈夫です。私に考えがあります。私にはなぜか神力よりも強力な力が備わっているんです。それを使えば、勝ち目はあります」


 そういえば、フロレシアさんをここまで回復させた力も、あの速さも、リィリアが死にそうになったあの傷の再生も、神力では説明がつかないわ

 

「だから大丈夫です!次は必ずあの悪魔を仕留めます!」


 リィリアの自信に満ちた顔と声

 彼女には勝てるという確信があるみたい

 それなら、リィリアにかけてみる

 親友だからこそ信頼できる言葉

 もしリィリアが負ければ、世界は悪魔のいいように変えられてしまうわ

 だからこそ今リィリアに託すの、“未来”を

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