蠢くは悪の意思16
化け物に変えられてしまった彼、または彼女を埋めてこじんまりとした墓を作り花を添えた
「この方も犠牲者なのですね。 悪魔ですか…。 許せません!」
フロレシアさんは怒りをあらわにして震える
拳を握りしめて打倒悪魔を胸に立ち上がった
「これからまず向かうのは帝都です。 私がいれば入都も容易でしょうが、もしかしたら私のいない間に警戒網が引かれている可能性もあります。 それにあの可哀そうな犠牲者は国境付近にいました。 敵があれを討伐されたことに気づいている可能性もあります」
なるほど確かにその可能性は十二分に考えられる
人間を素体にして作られたあの化け物は悪魔が作り出したモノだ
悪魔と繋がっているに違いないと見た方がいいだろう
「もし気づかれていたとしたら、戦闘になるかな?」
セリセリがこわごわそう聞いてくる
「いえ、恐らく悪魔は私達を向かい入れると思います」
「え? それは一体どういうことですか?」
「私が見た限り、あのキャリーという女、恐らく悪魔だと言いましたが、彼女はいつでも自分の力に絶対的な自信があるように見えました。 何が起ころうとも自分なら対処できる。 そのような意志を秘めた強い目をしていましたから」
自意識過剰ながらもそれを裏付けるだけの実力があるということか
でなければ帝国を丸々洗脳、いや、フロレシアさんが言うには魅了か、魅了するなどという大それたことはできないだろう
女神様も悪魔の力は下位の者でもこの世界に住む種族にとっては遥かな差があるという
下位の悪魔に勝てるのは勇者くらいだろうとのこと
だがもしキャリーという女が中位以上だとしたら?
私達で勝つのは難しいだろう
難しいが、勝てないことはないはずだ
この時私はなぜかこの世界にいる悪魔なら勝てると確信できていた
それがなぜかは分からなかったが、後にその確信は真実へと変わるのをまだ知らなかった
「帝都まではこの道を道なりに進んで二日ほどです。 乗合馬車もあったのですが、ここ最近は戦争のためにその運行を停止しています」
ということは歩いて向かうしかないな
早く着きたいものだが、焦りは禁物だ
「では行きましょうか。 お姉さまを止めに!」
フロレシアさんは力強く歩みを進める
それに感化されたかのようにセリセリとライラも歩みを進めた
アエトは、何かを思いつめたかのような顔をしているな
「アエト、どうしたんですか?」
その言葉にハッとしてうつむくアエト、しまった、聞いてはいけなかったか
「リィリアには話してなかったんだけど、実は私ね、悪魔らしき女性に会った事があるの」
「何だって!?」
「何ですって!?」
私達は声をあげて驚いた
「そ、それは一体」
「あのね、私、魔人がたくさんいる城にいたことがあるんだけど、そこでいつも私に優しくしてくれた女魔人がいたの、その人は私がいじめられると必ず助けてくれた、凄く優しくて、安心できる魔人だったの。 あっという間に幹部まで上り詰めて、すっごく優秀な人だった。 でもね、私、魔物の力を探知できるから、その人が魔人じゃないって分かってた。 だけどその人、なんだかいつも困ったような顔をしてて…。 だからね、聞けなかったの。 あの力、魔人よりもはるかに強い力を秘めてたあの人、きっとあの人は悪魔だったんだと思う。 名前は、ヨローナさん」
アエトが出会ったそのヨローナという悪魔は誰に対しても優しかったらしい
魔人が他の魔人をいじめていた時は必ず仲裁に入り、教官に鞭うたれ、ご飯を抜かれていたアエトをいつも気づかいお菓子をくれたそうだ
さらに彼女は人間などの種族を一切殺さず、誰も争わない平和な世界に行きたいとよくつぶやいていたらしい
およそ悪魔らしからぬ言動の女性だが、力だけはかなり強いため、悪魔に間違いないとアエトは認識しているようだ
だが私が前世で知る悪魔とは、卑怯で人をだます邪悪そのものと言った印象だ
アエトも騙されているのかもしれないな
もしそのヨローナに会うことがあった時は警戒しておくにこした事はないだろう
「ヨローナさんは、私を妹だって言ってくれてました。 今、どこで何をしてるんでしょう」
アエトは心配そうな面持ちで空を仰ぐ
きっとそのヨローナという悪魔のことを思い出しているのだろう
女神様、悪魔にも優しい悪魔とはいるのでしょうか?
「そうですわね、わたくしも詳しくは知りませんが、他の神に聞いたことがあります。 なんでも人間と協力して魔王を葬った悪魔や、悪魔としての生を捨てて人間になった者、人間に使役されるうちにその人間と恋に落ちた者などと言った話は聞いたことがありますわ。 もしかしたら、そのヨローナという悪魔も、その手の悪魔なのかもしれません」
優しい悪魔、ですか…
にわかには信じがたい話ですね
「そうですわね、わたくしもお話だけしか聞いておらず、実際にその目にしたわけではありませんから」
しかし女神様が他の神々から聞いた話だ、神が嘘をつくとも思えない
なれば、可能性はあるということではないのだろうか?
「アエト、その悪魔、ヨローナさんに会った時は、貴方が紹介してくれますか?」
「も、もちろん! ヨローナさんは素敵な人です! きっと仲良くなれますよ」
アエトがそこまで言う悪魔だ
警戒はすれどいきなり攻撃するわけにはいかないな
私はあれやこれやと考えながらもその歩みを進めた