蠢くは悪の意思15
リィリアの体がちぎれかけているのが見える
確実に死んだんだ
あの子はもう、立ち上がることはないんだ
そう思っていた
でも私の想像はいい意味で裏切られた
通常なら、常識なら絶対にありえないことだけど、あそこまで人体を破壊されて動ける、ましてやそこから這い進んで化け物の足を掴むなんてできない
リィリアは、まだ生きようともがいてる
ちぎれたお腹からは腸らしきものがこぼれ落ち、酷い血の匂いが辺りに漂っているけど、リィリアはそれでも化け物の足を掴んで離さなかった
まってて、今助けに!
助けに行って、どうするの? あの子の傷は治癒魔法で治せるものじゃない
世界中駆け回って探したってあの子を助けれる治療師や治癒師がいないのは火を見るより明らかなのに、それでも助けたいって、あの子の死をせめて看取りたいって思った
だから恐怖で動けなくなった体を気力で動かしてリィリアの元へ走った
「リィリア!」
呼びかけるけど聞こえていないみたい
心なしか目から光が消えて行っているようにも見える
とにかく何とかしないと
私はもっていた剣、リィリアにもらったこの剣を化け物に突き立てた
「ギュガルッラララ」
化け物は口を開けて笑いながらその突き立てられた剣を引き抜き、傷口を見た
すると傷口はみるみる塞がり、私を殴りとばす
軽く拳を振っただけのように見えるのに、その威力は強烈だった
防具にさらに魔法の結界で強化を加えていなきゃ、私の内臓も破裂していたかもしれない
「カフッ、肋骨にひびが、入ったみたいね。 でもリィリアに比べたらこのくらい」
立ち上がろうとしたけど、ダメージは思った以上に大きくて立てない
リィリアが足を掴んでくれているおかげで追撃はこなかったけど、早く立ち上がらなきゃ
そう思いながら化け物の方を見るとなんだか様子がおかしくなっていた
化け物の肉体が、溶け始めてる?
リィリアを見ると、手のひらがうっすらと光っていて、掴んだ足から力を吸っているように見えた
「り、リィリア?」
リィリアは化け物の力を吸収し続け、驚いたことにその下半身が再生し始めていた
こんな戦いの最中だけど、リィリアのキュートなお尻が、細くて長い脚が滑らかに生えてきた
溶けている化け物の足から這い上がるように立ち上がると化け物の胸に手を当てた
リィリアの、優しい声が聞こえる
そっか、あの化け物、もともと人間、だったのね
化け物はリィリアの言葉に安心したのか涙を流しながら崩れ落ちて行った
「リィ、リア?」
「ナリヤ、私は、人間ではなくなったのでしょうか?」
不安そうな顔のリィリアは膝から崩れ落ちた
「リィリア!」
慌てて私は駆け寄ってリィリアを支えるけど、どうやら大丈夫そう
気が抜けてへたり込んだだけみたい
リィリアは完全に死の淵に立っていた
だって体が、下半身がちぎれたのよ? あんなの怪我じゃない、致命傷よ致命傷
でもそんなことよりも、リィリアの体は大丈夫なの? あんな化け物の力を吸収して、いまだ転がっている下半身…
でもリィリアはしっかり下半身が生えている
リィリアが無事なのは喜ばしいことなんだけど、後でゆっくり体を調べてあげなきゃ
「どうやら、倒せたみたいです。 この化け物、いえ、彼もまた悲しい被害者だったようです。 あの、あの女! あの悪魔の!」
リィリアが珍しく怒りをあらわにしている
何で怒っているのか、そんなの決まってる
リィリアが教えてくれた悪魔という存在。 この世界では物語の中だけで語られた空想の生き物だと思われていた悪魔
それが今この世界に顕現している
それはとてつもなく由々しき事態だわ
こんな化け物を人間を素体にして創り出してしまう能力、それが帝国領と聖国領の境の森にいたという事実
おそらく、悪魔は帝国にいる
そして私達は今からその帝国の首都に入ろうとしている
悪魔が根付くその都市の名は、ヴァレアファルメ
女帝ロクサーナ陛下が住む城があり、もちろん多くの洗練された帝国兵が配置されている
そしてそのロクサーナ陛下を操っている者、それこそが悪魔なのだと私達は睨んだ
名前はフロレシアさんから聞いて判明している
そのキャリーという悪魔を倒しロクサーナ陛下の洗脳を解かなくては、世界規模の戦争へと発展しかねない
ここで、私達が悪魔を討つんだ
でも悪魔にたどり着くまでにいくつかの問題がある
いくらロクサーナ陛下の妹であるフロレシアさんでも、今現在そうやすやすとロクサーナ陛下に会えないというところだ
たとえ強行突破しようにも、城には帝国でも精鋭であるエンプレスガードとさらにその上のエンプレスナイツたちが阻むだろう
そしてそのガードとナイツを超えられたとしても、ロクサーナ陛下に忠誠を誓う三人の付き人がいる
彼らは帝国でも最高峰の実力を持っていて、その中でも剣星と謳われるパス・アルモンドという男はフロレシアさんの剣の師匠でもある
フロレシアさんは彼との戦いでは一切勝てたことが無いみたい
つまり勇者より強い
でもやるしかない
リィリアも無事だったことだし、今は先に進むことを考えましょう