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聖乙女生まれる7

 時は少し進み、相も変わらず私達への教育と称したいじめは続いているが、私が歯牙にもかけないため段々と減ってきている

 中には普通に接してくる者も出てくるようになった。 その中の一人がセリセリという鳥人族の少女だ。 鳥人族は翼の生えた嘴を持つ種族で、飛行能力がある。 この飛行能力は鳥人族と言う種族に備わった能力であるため、神力は別にあり、彼女の能力は指先から水の弾を飛ばす力“水鉄砲” だ

 鉄砲と言っても威力は弱く、人を気絶させる程度が精々だ


「ねねね、この後の魔法の授業楽しみじゃない?ってセリセリは思うのですよ」


 なんとも独特な話し方だが、これが彼女の普通だ


「そうですね。 でも私、魔力が少ないから自信ないです」


「そんなのセリセリだって少ないのですよ。 でも魔力は鍛えれば伸びるのです。 きっとセリセリ達には伸びしろがあるということなのですよ」


 私の場合は元々の魔力が高い。 女神様がそうおっしゃっているのだから間違いはないだろう。 果たしてそんな私にも伸びしろは残されているのだろうか?


「きっとリィリアちゃんはすごいと思いますよ。 なんせ未来の聖女様ですから!」


 確かにこの学園に通えば聖女への近道ではあるが、全員が全員成れるとも限らない。 この学園に通える生徒は、聖王様に何らかの素質を買われた者達だけだ(一応一般市民が通える学園もある)。 私はともかくとしても、他生徒たちも聖王様が御認めになった子供達ばかりと言うわけだが、聖人になれるのはこの中でも数人だけだという

 ではなれなかった者達はどうなるのか? 彼らは聖女や聖人の補佐となる。 あるいは聖人を守り、あるいは聖人と共に癒しを与え、布教し、女神様のために貢献するというわけだ

 もちろん危険な他国に行く必要が必ずしもあるわけではない。 聖王様のモットーはこの国の全ての民の安寧であるため、一人一人が選べるわけだ

 しかしそれにつけても他国への布教活動へ向かう卒業生は多い。 皆が皆この国を思っているからであろう。 女神様を完全に信仰している人々は減っては来ているが、聖王様に対する人望はかなり厚いようである


 魔法訓練の時間

 さて、この世界における魔法と魔術の違いとは何かから始まった。 まず魔法とは、周囲の魔力や魔素を取り込む、もしくは体内の魔力によって発せられるもので、契約ではなく呪文の詠唱や術式などによって展開される力だ。 魔力の少ない者の扱える魔法はたかが知れているが、当然魔力の多いものほど強力な力を行使できる

 しかしやはり弱点はある。 それは魔力切れだ。 体内の魔力が無くなれば力が抜け、動くことすら困難になる

 ならば周囲に漂う魔力を取り込めばいいと思われがちだが、精霊などの精神生命体を除いて、体ある生物は魔力を取り込める量が圧倒的に少ないのである

 つまり魔法を行使するのはほぼ体内の魔力に頼るしかないのだ


 では魔術とは何か?

 それは精神生命体である者達の力を借りて行使する圧倒的な力だ

 当然魔法よりも威力は高く、リスクも少ない反面、悪魔や魔霊などと言った人の魂を欲する者と契約すれば当然破滅の道を辿ることとなる

 精霊や魔鬼、天使たちと契約できた者は幸運であると言える。 なぜなら彼らは気に入った者にしか手を貸さない。 それに彼らは女神様の眷属であるがゆえに正しい心を持った者にしか語り掛けないのだ

 いずれ私もお目に掛かれればよいのだが


 まとめると、魔法は自らの力、魔術は多種族の力を借りて行使するということになる


「では実際に自分の魔力を感じてみましょう。 目を閉じて、体内にある力の流れを感じ取るのです」


 魔法の教諭はワーズレット先生と言い、ふくよかな女性だ。 神はカールのかかった濃いオレンジ色で、歳のころは40代前半、いつも笑顔を浮かべている生徒からの人気も高い優しい教諭だ

 

「んぬぬぬ、あ、凄いです。 なんだか体に力が流れてるのが分かります」


 どうやらライラは成功したようだ。 それにしても私より流れをつかむのが速い。 案外この子は天才なのかもしれない

 そのすぐ後に私も力の流れを感じることができた

 セリセリはと言うと、少し時間はかかったが無事こなせたようだ

 

 数分後には生徒全員が力の流れを感じることができた。 やはり才能のある子が集められているのは本当なのだろう


「では最初の魔法を使ってみましょうね。 まずは初歩中の初歩、“エアー”です」


 エアー、空気か? 飛ばすのだろうか? それとも発生させるだけ? いや、回転させるのかもしれない

 想像が膨らみ、私含め生徒たちの興味が全てワーズレット先生の手に注がれる


「初級魔法、エアー」


 先生は優しく手を的にかざしてエアーを放った。 すると見えない空気の塊が的にぶつかり、砕け散らせた


「ふぅ、先生は呪文を言いませんでしたが、皆さんはちゃんと言いましょうね。 詠唱破棄は高等部になってからですよ。 でないと危ないですからね」


 先生が言うには、呪文の詠唱は安全に力を行使するためのものらしい。 その力の本質を正しく理解して初めて詠唱破棄が出来るのだ

 まぁ確かに初等部では経験も理解も圧倒的に足りないだろうな


「生命運ぶ偉大なる息吹よ、わが手に宿りてその力を示せ」


 これが呪文である。 やや長ったらしくて大げさではあるが、大事なプロセスであるゆえに恥ずかしがってはいけないのだろうな


 呪文を唱えたことで私の手に風が巻き起こる。 ん? 何かがおかしい。 風だと? 先生の手には空気の塊が出来ただけだ。 目に見えるものじゃないが、私のそれは明らかに先ほどの空気の塊とは別物だ。 風が渦巻き周囲に吹き荒れている


「ちょ、わ、っと」


 慌てて手から的に向かって放つと、五つあった的全てが私の風によってずたずたに切り裂かれた。 もし生徒にあたっていれば取り返しのつかないことになっていたかもしれい


「や、やっぱりリィリアちゃんは規格外ねぇ。 もう少し魔力を溜めるのを抑えてみなさい。 そうすれば威力を抑えられるわ」


 先生が優しく指導してくれるのでもう一度、今度は魔力を極限まで抑えてみた

 すると先ほど先生が見せてくれたような空気の塊ができるのが分かった


「そうそう、いいわね。 あらあら、セリセリちゃんも凄いわねぇ。 完璧にできているわぁ」


 そう、生徒の中で一番うまくできていたのがセリセリであった。 どうやら鳥人族は風系統の魔法にアドバンテージがあるようだ

 ここでもう一つ習ったことを解説しておこう

 それが系統である

 火、土、水、風、木の五系統が基盤となり、さらには闇、光といった属性もある。 光は聖魔法とも呼ばれ、主に癒術の際に使う系統である。 さらにここから上級系統として、火炎、岩土、水流、暴風、樹木がある。 この他にも希少系統などと呼ばれるものもあるが、それこそあまり使える者がいないためいずれ説明するとしよう

 そして上級魔法のさらにその先には合成魔法や古代魔法、究極魔法、神域魔法などと言った世界でも扱える者が限られた魔法も存在する

 ここまで来ると魔術よりも威力が高くなるそうだが、初等部である私たちが習うようなものではないのは明らかだな


「はい、皆さんよくできましたねー。 丁度鐘も鳴りました。 最初の授業はここまでですよ」


 先生に礼をして、本をカバンにしまい、外に出ようとしたその時、空気の塊が私の腕を穿った


「痛っ」


 威力はさほどではないが、青あざができている。 飛んできた方向を見ると、あの少女たちが笑っていた。 何のことはない。 習った魔法を私で試したのだろう。 幸い大した怪我でもないし、放っておくとするか

 と思ったのだが、次の攻撃がライラへと飛び、ライラの脚を撃った。 途端にバランスを崩してライラは派手に転び、机の角で頭をぶつけた

 彼女はそのまま倒れ、動かなくなる

 どうやらそれは少女たちにも予想外だったようでおろおろし始めた

 ライラの頭部から血が流れ始め、それが一層彼女たちに恐怖を与えたようだ

 私は、静かに怒り、彼女たちに近づいて魔法を無詠唱で放った。 そのまま風に彼女たちは捕らえられ、身動きが取れなくなる


「キャアアアア!! ごめんなさい! ごめんなさい! 許して!」


 何かわめいているようだが、私の親友を傷つけたこの子たちを許すことができない。 右手でそのまま彼女たちを風によって拘束し、左手でライラに触れる。 息はあり、どうやら気絶しているだけのようだ。 そのまま“天使の左腕”によってライラの傷を癒す

 さて、この子供達をどうしてやろうか

 そんなことを考えていると先生が戻って来た


「まぁまぁまぁ何の騒ぎです?! リィリア、放してあげなさい!」


 仕方なく私は彼女たちの拘束を解いた

 そして先生はこの状況を見てすぐに理解したようだ


「リィリア、何があってもあなたが本気で力を行使してはいけません。 今回は傷もないようですが、貴方の力は人を簡単に殺してしまいます。 賢いあなたなら分かるでしょう?その意味が」


 ああ、そうだ。 私は愚かなことを…。 口で、声で、彼女たちに言えばよかったのだ。 暴力で解決することは、この世で最も愚かな行為だと、分かっていたのに…。 ライラを傷つけられてついカッとなってしまった


「すいません先生。 ライラを医務室に連れて行ってもよいでしょうか?」


「ええ、話しは後で聞きます。 さぁナリヤ、貴方も寮に戻りなさい!」


 ライラを傷つけた少女、ナリヤも黙ってそれに従った

 

 その後ライラはすぐに目を覚まし、念のため一日安静にするよう言われ、渦中の私とナリヤは罰則を受けることとなり、一か月の教室掃除を命じられた

 もしあの時、ライラが死んでしまっていたら、私はあの子を…。 そう思うと自分のことが怖くなった

 私には、それができるだけの力があるのだ

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