蠢くは悪の意思11
馬を走らせてから途中途中に休憩を挟んで三日後、私達は今聖国の首都を過ぎてコーリーナという町に来ている
この町は年老いた町長が治める小さな町で、作物が主な収入源みたい
まぁほとんど自給自足の生活ってところね
ここで作られる果物や野菜は品質がいいから私のパパの商店でも取り扱っているわ。 コーリーナ産といえば国外にもちょっと知られているブランドなのよね
「聖女様に勇者様が我が町に来て下さるとは、何たる幸運なのでしょうか」
町長さんが感激の涙を流しながら私達を歓迎してくれている
果物や作物をたくさんくれたんだけど、なんだか悪い気がする。 でも町の人々の好意だからありがたくいただくことにした
子供達もこちらに走ってきて歓迎してくれるんだけど、私の周りには集まってくれなかった
たぶん変化の能力で顔を変えられてるからだと思う。 それに私の今の顔はリィリアも怖がるくらいに怖いらしいから…
リネハさんもなんでこの顔にしたのかな? ちょっと変えてくれればよかっただけなのに…
「ほらナリヤ、この桃美味しいですよ」
この三日でリィリアは私の今の顔に慣れてくれたみたい。 いつものように接してくれている
さすがリィリア、順応が早いわね。 ただライラとセリセリは未だに私を見ると軽く悲鳴を上げているのがまだショックだわ
アエトちゃんはというと、特になんの隔てもなく接してくれる
まあこの子は少し前まで魔人に囲まれてたものね。 もっと怖い顔と毎日顔を合わせてたはずだから当然と言えば当然かしら?
「帝国の勇者様、本当に帝国は攻めてくるのでしょうか?」
ふと町の住人の男性がフロレシアさんにそう聞いた
「そうさせないためにも私は帝国に戻るのです。 女帝ロクサーナ…。 姉は必ず私が止めて見せます」
フロレシアさんがそう宣言すると歓声が上がる。 私はその歓声を無理やり遮った
町の人々にとっては確かに喜ばしいことなんだけど、フロレシアさんはもしかしたら肉親を手にかけなきゃいけなくなるのかもしれない。 それはとても悲しいこと
フロレシアさんは小さな声でありがとうと私に言ってくれた
やっぱり、無理してるんだ。 本当は優しいロクサーナさん…。 フロレシアさんの唯一の肉親で、仲良し姉妹だったらしい
おかしくなってしまったのは操られたからだと思われるけど、もしその洗脳が解けなかったら…
フロレシアさんはその大好きなお姉さんを手にかけなきゃいけなくなる
「町長、ありがとうございました。 私達は必ずやこの戦争を止めると誓います」
休憩も終わって再び馬に乗ると次の街に向かって走らせた
馬はみんなまだまだ元気で、まだまだ走れそうね
リィリアとライラが時々回復してくれるおかげね
それにアエトちゃんは魔物が寄り付かないようにしてくれるおかげで驚くほど速いペースで進めている
当初は一週間を予定していたのに、これなら5日で着きそう
「勇者様、聖女様、どうかお願します」
そう言う町長さんと町の人に見送られてコーリーナを出ると道なりに進む
この道を進めば帝国にほど近いクラルベルドという大きな街兼砦が見えてくる
ここは帝国からの侵入を防ぐ正に砦で、数年前までは普通の街だったんだけど、ロクサーナ陛下がおかしくなってからはかつての砦としての機能を取り戻していた
常に見張りがついていて、帝国からの侵入を硬く拒んでいる
さらにここの立地条件は攻めにくい構造みたいで、山の上に砦がたっていて、その下を森が覆い、さらにその周りに迷路のような城下町があって、有事の際には町の人は城に避難。 兵たちが街に出てところどころでトラップを発動させたり、魔法で迷わせたり、迎撃したりと市民と城を護る手はずになってる
今は厳戒態勢。 いつ帝国が攻めて来るとも限らないから、街の人たちは別の街にひなんさせてるみたい
コーリーナから出立して1日後、クラルベルドについた私達はすぐに街の門を守る兵のお兄さんに事情を説明して通してもらった
フロレシアさんの顔は勇者会議で知れ渡っていたし、リィリアのことを知っている人たちもいたのでスムーズだったわ
迷路のような街を兵のお兄さんの案内で城下の森まで連れてきてもらった
お兄さんの案内が無ければ迷ってたどり着けなかったわねこれ
「では僕はここまでです。 この道を真っ直ぐ行けば城が見えてきますよ」
お兄さんにお礼を言って森の道を歩き始めた
ところどころに兵が立っていたけど、伝達魔法で全員に私達が来ることが伝わってたみたいだから兵は私達に頑張ってくださいと声援をくれた
私達がうまく帝国の暴走を食い止めなきゃ、私達のことを信じてくれる人たちの命が失われてしまう
ますます気を引き締め、見えてきた城へ速度を上げて馬を走らせた
「お待ちしておりました。 帝国はあれ以来未だ沈黙を続けております。 怖いくらいに静かでして…」
そう言ってフロレシアさんに握手を求めるのは街の長であるコバルトさん
ひげがダンディで落ち着いた雰囲気の紳士
私達はひとまずコバルトさんの部屋で状況確認をすることにして、私達の作戦も彼に伝えておくことにしたわ