蠢くは悪の意思10
帝国までの旅路は一週間はかかると思われる
この国、アードラント王国から聖国を挟んでさらに東に行くとデトロイト帝国だ
聖国はそこまで広くないため馬に乗ればその日数で到着すると見込んだ
「じゃぁ私の仲間として帝国に話は通しておいたから、気を付けるのはナリヤちゃんだけね。 変装の勇者リネハさんが言うには他人にかけた変化の力は人に触られると元に戻るみたい。 ナリヤちゃんはできるだけ人と接触しないようにね」
「はい!」
ナリヤは今リネハさんという勇者に変化の力をかけてもらっている
今ナリヤの姿は強そうな女戦士に見えているのだが、あまりにも違いすぎる姿に唐突に顔を見ると少し驚いてしまう
私が驚くたびにショックを受けた顔をするナリヤ
「ちょっとリィリア、私よ私。 あんたに驚かれると結構ショックなんだけど」
「ご、ごめんなさい。 でも顔が怖くて…。 それに声も」
ナリヤの今の顔立ちはずっと怒っているかのような釣りあがった目に太い眉毛、不愛想な表情でなければ切れ長の美人ではあるのだが、なぜか表情が不愛想で固定されているのだ
それに声のこともある。 ナリヤの声は少女らしい非常に可愛らしい声をしているのだが、今の声は威圧感のあるハスキーな声なのだ
「まぁこの任務が終わるまでだから慣れてとは言わないけど、我慢してよ」
「善処します」
慣れるしかないなこれは。 行くまでに一週間、問題解決をするとなるとどれだけかかるかは分からないのだ。 いやでも慣れるだろうな
ともかく勇者フロレシアさん、ナリヤにエリミーナさん、それと私とライラ、セリセリ、アエトの七人で帝国を目指すことになった
大所帯に見えるが、勇者によっては30人の中隊を作っているような人もいるらしいし、このくらいは強要されるとのことだ
「リィリア、帝国に潜んでいるモノはわたくしでも掴むことができませんの。 もしかしたら、あの時の悪魔も関連しているのかもしれませんわ。 重々気を付けてくださいね」
わかっていますよ女神様、私はこれでも慎重派なのです。 色々な想定はしています
もちろん操っているモノが悪魔である可能性も見越していますよ
「そう、でしたらいいのですが、それでも悪魔の力は下位の者でも強力だと聞きます。 あの時出会った悪魔の力はわたくしでは推し量れませんでしたが、恐らくは下位の悪魔だと思われます。 当然、その悪魔よりも上の、中位、いえ、上位や伝説に描かれるようなモノも来ているかもしれません。 そうであったならば、この世界は終わりでしょう…」
女神様、ご心配なさるのは分かりますが、貴方が弱気でどうするのです
私は貴女を信頼しております。 ですから自信をお持ちになってください
「ええ、ありがとうリィリア。 そうですわね。 わたくしが気弱になっていてはこの世界の女神の名折れですわ。 きっとあなたの力になって悪魔を打倒して見せますわ」
そうです、その意気ですよ!
とは言ったものの、やはり私も怖いものは怖い
あの時出会った悪魔はこの世のモノとは思えないようなおぞましい怪物を連れていた
私が悪魔の右手と名付けた破壊の力でも消し飛ばせるかわからないような強さを持っていたのだ
あの時の怪物は偶然出来上がったばかりのようだったが、もし完成されたものが迫っていたならば、今ここに私は立っていなかっただろう
それにそのような怪物を使役できる悪魔が弱いはずない
今の私の力がどれほど通用するのだろうか?
だがやるしかない
もし帝国を操る者が悪魔だというのなら、私はその壁を超えねばなるまい。 この世界の平和のために
前世で考えもしなかった世界の平和だが、私は女神様のおかげで変わることができたのだ
人を愛するということを知ったのだ
そんな女神様が愛する世界を、私は救いたい
「さて、出発するわよ。 一週間分の食料は…。 う、多いわね。 持てるかしら?」
「あ、それなら任せてください。 アイテムボックスを持ってますので」
私はそのボックスに全ての食料、荷物を詰め込んだ
「べ、便利ねぇ。 それがあなたの神力?」
「違いますよ。 リィリアの神力は非常に多いのです」
「そ、そんな聖女がいるなんて、神様みたいね」
すいません、神様は私の中におられます
正直女神さまが憑いているので様々な神力を得られているのだが、それは明かす必要のない事実だろう
女神様が一人に入れ込んでいるとなると大問題だからな
まあ実際には入れ込んでいるのではなく、私の体で眠るしかない状況に陥っているというのが正しいのだが…
荷物をしまった私は馬に乗りこむ
馬力のある馬なので長距離走行にうってつけだろう
急げばもっと早く着くだろうが、それでは馬が途中でばててしまう
荷物は私のアイテムボックスの中なので、その分の重さは馬に掛からないというのは幸いだったな
それから全ての準備の終わった私達は帝国目指して馬を走らせ始めた