悪魔4
時は戻り2年前
「で、あんたの望みは何なの?」
「は、はい! 支配、世界の支配です。 だれも私に逆らわないような圧倒的な支配者になりたい」
異世界に呼び出されたはいいけど、まさかこんなどうでもいい願いを叶える羽目になるとはね
私達悪魔族は人の願いを叶えることでその魂を得ることができる
魂が汚れていれば私たちの食べ物やおもちゃとして、純粋ならば同族に加えてもいいし、使い道は多い
でも目の前のこいつは中途半端。 私達をよもや呼び出せるとは思っていなかったのね
大した願いもないままに自分で無理難題だと思う願いを言ったみたいだわ
「それが願い? 簡単すぎね。 まぁいいわ、あんたの願いかなえてあげる。 あんたは何を差し出すの?」
私の声にうっとりと聞き入るこの国の王
悪魔を崇拝するこの国では私達の魅了も余計に作用するみたいね
「す、全てを、私の持つ全てを差し出します」
それで一時の支配しかできないのに、馬鹿なのかしら?
まぁ出すというのなら全部もらえばいいわ。 この国の全てを。 女子供も、生ける者全ての命をもらおう
この男からの言質は取れたもの
「じゃぁあんたの全てをもらうわ。 これから私達の要望にはすぐに応じなさい。 私たちが殺せと言ったら殺せ、喰えと言えば喰え」
おっと、素が出ちゃったわね。 でも王は恐怖と幸福が入り混じった顔をしている。 完全に私達の虜ね
全く、悪魔との交渉術も知らないようなクズのような召喚主だけど、願ったからには叶えよう。 世界の支配を
「可愛いエスター、貴方にはこの国を任せるわ。 うまくやってね」
「はいデス!」
「それからキャリー、あなたは帝国をお願い。 この世界で一番の勢力を誇っているから、かき回せばそれだけ支配が楽になるわ」
「ええ、分かったわ」
「で、ヨローナ」
「ひうっ」
何よこいつ、相変わらずおどおどビクビクして、ホントに、なんでこんなやつが四恐に選ばれるのよ。 アザゼル様も何をお考えなのか…
「あんたは魔王の確保と魔人の統率、魔王の確保は特に最優先で行ないなさい。 そのくらいならあんたでも出来るでしょう?」
「わ、わかり、ました」
ふんっ、こいつをずっと見てると駄目ね。 殺したくなっちゃう
でも今はこいつの能力が必要。 まあもしまた裏切るなら、殺せばいいか
「い、行ってきます」
ヨローナは逃げるように魔王の気配を辿って飛んで行く
見たくもなかったからとっとと行ってくれてよかったわ
「さて、私はこの世界の材料でテラーナイトメアが作れるか試してみるわ。 私のエスター、しばらく離れるけど、キャリーのサポートをしてあげてね」
「はいデス! ミザリー、寂しいけど行ってらっしゃいデス!」
ああ、なんてかわいいのかしら! 私の大好きな愛しい愛しいエスター。 馬鹿なヨローナとは大違いだわ
エスターと離れるのは心苦しいけど、テラーナイトメアは私達の計画に必要だもの、仕方ないのよね
「じゃぁ私は帝国へ行くわね。 それとミザリーこれを」
キャリーが私に渡したのは魂核。 生物の魂の根幹となるもの。 これがあればテラーナイトメアをもっと早く作れる。 やっぱり私の親友だけあってよく分かってくれているわ
「ありがとうキャリー、帝国落とし、頑張ってね」
私はキャリーにハグをして、エスターにキスをするとアルザマードから飛び去った
うう、怖いよう
ミザリーは私が失敗すればすぐにでも殺すつもりなんだ
悪魔としての力がまともに扱えない私はお荷物。 洗脳の力があったために生かされてるだけ。 この力が無くなったらすぐにでも悪魔たちに殺される
やだ、死にたくない。 もうあんな拷問はされたくない
でも、私は、人間が好き。 自由で縛られていなくて、他者を思いやれるあの人間たちが大好き
本当は悪魔になんて生まれたくなかった
私も、いつか、人間みたいに…
変な幻想を抱くのはやめよう。 むなしいだけだから
それにしても魔王の気配がすごく弱いわ。 まるで何かに覆われてるみたい
正確な場所は分からないけど、行ってみればわかるかな?
魔王の気配を辿って来てみれば、大きな城があって、その中から魔王の気配がする
入口に立っている魔人らしき人に声をかけてみた
「あ、あのー、ここに魔王さんがいると思うんですけど」
「何者だ? 人間か? いや、それにしては異質の気配がするな」
その男性は私をジロジロ見て来る。 力は弱そう
まあ悪魔たちの中ではほとんど最弱の私でも、この世界では強い方だって自信はあるんだから
この人は私より弱いってことくらいは分かるわ
「まぁいい、見たところお前からは魔の気配がする、同族だろう? シュライナ様に謁見するんだな?」
「シュライナ? その人が魔王なの?」
「シュライナ様だ! 言葉に気をつけろ。 シュライナ様は魔王様の参謀だ。 魔王様の意思を我々にお伝えする役目も任されておられる。 美しい方だぞ」
魔人の男性は私をそのシュライナさんの所へ案内しながら色々説明してくれたわ
なんでも現在幹部の魔人は8人、その中でもシュライナさんは飛びぬけてて、魔王に次ぐ実力者、その幹部たちの下に部隊長が100人と少し、その下に上級兵士、さらに下級兵士、新米兵士と続いて、今私を案内してくれてる人は上級兵士らしい
「着いたぞ、ここがシュライナ様に謁見できる王の間だ。 魔王様はシュライナ様に守られているから姿を見ることは叶わんが、シュライナ様のお言葉を魔王様のお言葉だと思えばいい」
「わ、分かりました。 ありがとうございます」
私は兵士さんにお礼を言って恐る恐る部屋に入った
「よく来たわね、悪魔さん?」
シュライナさんは、私を見てすぐに悪魔だと見抜いた
この人、ただものじゃない…
緊張しながらも私はここに来た目的を話し、魔王に伝えてもらうよう頼んだ
「フフ、魔人の世界…。 悪くないわね。 でもなぜ悪魔が私達の協力をしてくれるのかしら?」
「契約の関係上それは言えません。 ですが、悪いお話ではないでしょう?」
「ええ、魅力的ね、とても…。 いいわ、協力しなさい。 魔王様もそれを望まれているわ」
よかった。 口から出まかせを吐いたけど、私の言葉に若干洗脳の力を混ぜたのが功を奏したみたい
本当は、洗脳なんてしたくないけど、失敗したら私が殺されちゃうもの。 ごめんなさいね…
それから私はシュライナさんを色々と手伝った。 でも相変わらず魔王は姿を見せなかった