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聖乙女生まれる6

 入学した私はまず一般教養としての学問や医学の知識の習得、初級魔法の訓練などを行うこととなった

 私が治したライラと言う少女はあれ以来私にずっとついてきている。 本人曰く「この生涯をかけて付き従います」らしい

 前世でもこのような信者はいたが、彼女は度が過ぎていると思う。 例えばだが、風呂に入れば私の全身を洗おうとする。 授業中も常に真横にいる。 私が魔法などを打つと大げさに喜ぶ。 果てはトイレの中にまでついて来ようとするのだ

 それはまぁいいのだが、いやよくはないが、彼女が私を過大評価しすぎるせいで幾人かの優秀な生徒と上級生に目を付けられてしまった


「あんた生意気よね。 うちらに挨拶もないし、先生からは目をかけられてるし。 たかが弱小商人の娘風情が!」


 ああ、本当に面倒くさい。 私は時が来るまではなるべく平穏無事に暮らしたいのだよ。 ここは逃げるが吉かそれとも…


「お前たちそこで何をしている」


 この声は学年主任のビース先生か。 厳しいが頼りになりそうな男と言った印象だな。 さらに武術の教諭でもある


「くっ、あんた、覚えときなさいよ」


 ふむ、忘れるまでは覚えておくとしよう


「大丈夫か? 全く、この国では差別厳禁だと言っているんだがな…。 あの子たちは君が来るまで学園のトップだった。 それがいきなり君が現れ抜いて行ってしまった。 きっと悔しいんだろう」


 それは見ればわかる。 まぁいずれどうにかしなければならないだろうが、子供のすることなどたかが知れているだろう

 

 翌日から陰湿ないじめ、まぁ想像通りのことが始まったわけだ。 机の落書きや椅子に画びょうなどは日常茶飯事で、私の道具を破壊、物を隠すなどなど、実に可愛らしい悪戯ではないか

 だが、一つ許せないことがある。 それがライラに対する仕打ちだ。 私には直接敵わないとわかっているのだろう、ライラはことあるごとに危害を加えられていた


「私は、大丈夫です。 少しでもリィリア様の負担を軽くできるのなら…。 本当は、私が全て受けるべきなのですが…」


 これだ。 この子は自己犠牲精神が強すぎる。 私はできればこの子に犠牲になどなってほしくはないのだがね


「ライラ、私から離れなさい」


 だからそう告げた


「え?」


「あなたがいると邪魔なの。 目障りだから消えてくれる?」


 簡潔に、わかりやすく。 彼女を私から遠ざける。 私自身が彼女を傷つけてしまうことになるが、他に友人ができれば私のことも忘れてくれるだろう


「嘘が、下手ですね」


 驚いた。 私の紡ぐ言葉で今まで騙せない者など数えるほどしかいなかったというのに、この子はこんなにもあっさりと。 この子には嘘を見抜くような“眼”があるのではなかろうか? だがそれはさておいてもなぜこの子は私に関わりたがるのだ?


「それはあなたのことが大好きだからですよ」


 ああ女神様、貴女はいつも変なところで目が覚めますね


「その子はちょっとやそっとではあなたから離れませんわよ? これはもう信者にしてしまうしかありませんわねー」


 何を言ってるんだこの女神様は…。 この国に生きているのだからこの子はとっくにあなたの信者でしょうに


「いえいえー、貴方の信者にですよー」


 私の、ですか? それこそ何を言ってるんだ、ですよ。 私を敬えば必ず不幸になる。 この子にそのような未来を押し付けるわけにはいかないでしょう


「ふっふっふ、わたくし、前に何と言ったか覚えておりますか?」


 確か、そういうことは思わないでくださいまし、だったかな?


「戻りすぎです! もっと後です! ほら、この学園に入る前ですよ」


 私に力を…。 そう言えばまだ何かあるようなことを言ってましたね


「そうです! その名も“神の声”! もともと宿っていたあなたの力を強化しておきました。 この力を発揮している状態で声を発すると、聞いた者はその声に酔いしれてさらに深くあなたを愛するようになるのです! あ、愛すと言っても恋愛ではなくてですね」


 大体わかりましたよ。 しかしそれは洗脳ではないのですか?


「違いますよー。 ちゃんと相手があなたに好意があることが条件ですわ。 それに、意思を奪うわけではありませんの、ただあなたのことがもっと好きになって、信仰心が生まれると言うだけですの」


 そうか、私が信仰されるということはそれに直結している女神さまの力になるということなのか


「・・・。 そ、そうそう、その通りです」


 何ですか今の間は。 まさか、何も考えずにこの力を授けたわけじゃないでしょうね?


「あ、ほら、ライラちゃんを見てあげなさい。 わたくしはまた眠りにつきますので!」


 はぁ、この女神様はどこか抜けていらっしゃる


「私は、何を言われようとも、どんな仕打ちを受けようとも、リィリア様から離れるつもりなど毛頭ありません。 私は、あの傷が原因で、周囲から化け物扱いされてきました。 毎日どうやって死のうかと考えてばかりで、あの日、私は傷が治らなければその足で死にに行くつもりでした。 でも、リィリア様は私を治してくれた! 感謝してもしきれないんです! 私なんかが、お役に立てるかわかりませんが、全力を尽くします! きっとお役に立ちます! だから私を、見捨てないでください」


 見捨てるんじゃない。 危険から遠ざけたいんだ。 と言ってもこの子には通じないのだろうな。 ならば、私が守ればいいじゃないか。 あらゆる災厄からこの子を守ろう。 この異世界で最初にできた友として、この子に寄り添えばいいのだ。 思えば簡単なことだったな。 いつも私は思慮が足りない


「分かった。 じゃぁ約束。 ずっと私と友達でいてください」


「え? 良いんですか!?」


「はい! それと、お友達なら敬語はなしでしょう?ライラ」


「う、うん! リィリアちゃん!」


 ふむ、神の声を発せずとも出来るではないか。 私の心からの声を発すれば


 こうして私とライラは生涯の友となった

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