蠢くは悪の意思3
勇者会議開催の翌日、私はエリミーナ先輩と他国の勇者たちにあいさつ回りをしていた
誰も彼も尊敬できる勇者の先輩たち。 人格者しか選ばれないというのは本当なのね
私も彼らに恥じないように頑張らなくっちゃ
「やぁ、新人の、ナリヤ君だね? 私はセロランド王国の“灰色の勇者”メーゼ・ハログットだ」
私達に話しかけてくれたのは、遥か遠くの国から来たメーゼさん
種族は人間族の男性ね
セロランド王国の歴史は古くて、様々な国に侵略され、それでも独立し続けた苦労の歴史がある王国ね
小さな国だけど、その力強さで世界中から尊敬を集めている
そんな国の勇者メーゼさんの力は“白煙”と言って、煙を自在に操る
例えば煙を固めて階段を作って高い所に登ったり、剣にして戦ったりとかなり凡庸性が高い
煙の剣なんてすぐ壊れちゃうかと思いきや、私の全力の剣による攻撃も受けちゃったからびっくり
「まぁ君は“切断”の力があるからね、その力を使われたら私では相性が悪いな」
確かに私の“切断”なら切れるけど、煙でここまでの硬度が出せるなんて、流石勇者と言ったところかしら
さらに次にあいさつしたのはマシュラ共和国の勇者三人組
「よっす! ナリヤちゃんっすね! あちしは“炎脚の勇者”マドゥ・アーシュルっす! んでこっちの二人が」
「“炎翼の勇者”カロ・エファレロです」
「俺ちゃんは“変装の勇者”リネハ・マだ!」
「私は、ナリヤ・フランベルクです。 よ、よろしくお願いします!」
三人の自己紹介に続いて私も自己紹介をした
三人の出身国であるマシュラ共和国は非常に暑い国で、炎人という炎に強い種族が暮らしている国
人間族も住んでいるのだけど、その比率は炎人9割で、人間1割弱、その他種族といった感じ
マドゥさんとリネハさんは炎人の女性で、カロさんは人間族みたい
で、炎人二人の態度を見れば明らかなんだけど、二人ともカロさんのことを好きみたいで、常に二人が自分の大きな胸をカロさんに押し付けている
でもカロさんは鈍感なのか、全く意に介していないみたいね
これは厄介よねー
ちなみに炎人は露出の激しい服を好む種族で、当然二人も軽装だから女の私でも目のやり場に困っちゃうくらい
そして三人の能力だけど
マドゥさんが“炎纏い”と言って、その名の通り体の様々な場所に炎を纏って戦うことができる
特にマドゥさんは足に炎を纏って蹴りによる攻撃を得意としているみたい
次にリネハさん。 彼女の力は“変化”で、あらゆる人に化けることができるから、諜報員として活躍してるみたい
そしてカロさん。 彼の力は“炎刃”で、炎の刃を自在に出し入れできる
その刃を翼のように背中に背負って空を駆けながら攻撃する戦闘スタイルなんだって
その姿がまるで天使みたいだから女性人気の高い勇者らしいの
確かに、顔はなかなかイケてるわね
「僕らはこれからビアルゴさんに会いに行く予定なんだ。 ナリヤちゃんも一緒にどうだい?」
「そっすね、新人なんだからちゃんと顔合わせくらいはした方がいいっすよ」
「うんうん」
三人に誘われて私はビアルゴさんに会いに行くことになった
あの人はたくさんの後輩勇者に慕われていて、かくいう私もそのカリスマ性に惹かれてるんだけどね
「お、マドゥ、カロ、リネハ、久しぶりだな。 元気そうで何よりだ」
「ビアルゴさん久しぶりっす。 突然っすけど、あちしと勝負っす! 前までのあちしと違うっすよ!」
「ハハハ、相変わらずだな。 どれ、この書類をまとめ終わったら行こう。 先に闘技場で待っててくれ」
いきなりすぎませんかマドゥさん。 そしてなんでカロさんもリネハさんもやる気満々なんですか
「そういえば若い勇者はビアルゴさんと模擬戦をするのが恒例って言ってたわね。 ナリヤ、貴方も参加してみたら?」
「エリミーナ先輩、何言ってるんですか。 私なんかがビアルゴさんにかなうわけないじゃないですか」
「ハハハ、いいぞナリヤ。 俺に実力を見せて欲しい。 君も参加してみなさい」
どどどどうしよう! こんなことになるなんて
私はソロでビアルゴさんに挑むことになってしまった
確かに私も自分で思うに少しは強くなっているし、自信もついて来てる
それでも、現最強の勇者に挑むなんて無謀も無謀よ
「そう緊張しなくていい。 気楽にな。 いつも通りでいいんだ。 いつも通りの自分が一番ベストを尽くせるんだと俺は思っているからな」
そう言われればそういう気もしてきた。 この人の言うことには不思議な説得力があるわね
ひとまず三人について闘技場へ
まずはこの三人とビアルゴさんの試合を観戦することに
ってもう闘技場の観客席は満員!? みんな暇なのかしら…
緊張してきちゃうじゃない!
でもこの後、それどころではない事件が起きてしまった